3周目

叫ぶ声が聞こえる。

「先生はそんなことしないわ!」

「でも、だったらなんでこんな閉鎖的なんだ!」

「それは私たちのためなのかもしれないじゃない!」

叫び声は揉めている。

私たちはどこかに閉じ込められているのではと妄想に耽っていた。

「君たちがそう言うのなら、あの牢のある部屋の中に僕はいるとしよう。別に鍵は君が持っ ていてくれて構わないよ」

先生は自分からあの部屋に入った。

そして、さらに悪化した。

トーレ「――――――ワ。エワ。起きて、エワ」

私を呼ぶ声が聞こえる。この声は愛しげな熱っぽさを孕んでいて、誰かを示すのにはわかり やすい声だった。 重い目を開けると男性が立っている。いつものように男性はたまらず抱きしめて来て、私を 愛おしげに見つめる。

トーレ「エワ、おはよう」

「おはよう」

トーレ「昨日の今日だから、君が心配になったんだ。怖くないかい?」

辺りを見回すと白い壁に白い天井。パイプベッドに机と椅子。ところどころぬいぐるみが置 いてあり、昨日と同じ風景なのはわかりきっていた。

トーレ「エワは今日は夢を見た?」

「見たわ」

「揉めてる夢だったわ。怖くて仕方なかったの」

トーレ「そっか。やっぱり昨日のこともあるのかもしれないね。ヒヤならもうすぐ起こしに 行こうと思うんだけど、君も行く?」

「うん」

トーレに手を引かれ、ヒヤの部屋に向かうと、その前にトピーがいた。

トピー「やっぱ今回はヒヤだったか」

トーレ「そうだね。そろそろ俺も覚悟しないといけないかもね」

トピー「俺らの番かあ~。考えたくないな」

トーレ「あんまり考えても気が滅入るだけだよ」

ヒヤの部屋に 3 人で入る。

部屋に入ると、少年がうっすらと目を開けて天井を見上げていた。

トーレ「もう起きていたのか、ヒヤ」

ヒヤ「ヒヤ?」

トーレ「君の名前はヒヤっていうんだよ」

トピー「ヒヤ。ご飯作ってあるから、とりあえず、ご飯食べようか」

私は刺してあるコードをヒヤから抜くトーレを見逃さなかった。

移動中、周りの異様に白で囲まれたこの場所の怖さを感じた。 三度目となればなれてくるものだが、 やはり不気味で、トーレの握っている手の温もりが 安心感を与えてくれなければ震えていただろう。

リビングに着くと、女の子と男の子の幻想を見た。 ぶっきらぼうに言う、ヒヤのおはようと、トピーのそれを茶化す様子が浮かぶ。 ショートヘアーになったヒヤはぼんやりと周りを見た。 ヒヤ「ここでご飯を食べるんですか?」

「そうだよ」

ヒヤ「......」

トピー「飯、俺が用意したから食べようぜ」

席に着くと、昨日と一昨日と同じように、並んだご飯がある。やっぱりご飯の形はべちょべ ちょで少し油っぽくなっているような気がした。

スープも油が浮いている。

トーレ「トピーありがとう」

トピー「タッパーに作り置いてあったのが冷凍されてたぜ。もしかしたら、作り置いてくれ たのかもな。俺が作ったわけじゃないが、冷めないうちに食べようぜ!」 「いただきます」

みんなで合唱し、食べる。

「美味しい......!」

ヒヤ「油っぽいのに」

トピー「俺らに必要なんだから仕方ないだろ。にしたってうまいよな」

「すごいよね」

トーレ「俺らに必要な栄養素全部あるもんな」

トピー「またそれ言ってる。トーレは他の感想を持てよ~」

ヒヤ「美味しいです」

おいしく、ご飯はすぐなくなっていった。ヒヤは静かにご飯を食べ進めて、優しげに微笑ん だ。

トーレ「ご飯も終わったし、自由にしようか、夕方になったら本を持って行くよ」


→先生の部屋

薄暗い部屋は、前回と同じくパズルを解く音が響いていた。 先生は入るなり見ることもなく言う。

先生「エワ、君がくる頃だと思ったよ」

「先生が直したんですか?」

先生「そうだよ。僕以外ここで彼を直せる人はいないからね」

「私も事故にあったわけじゃないんですか?」

先生「それは君がよくわかってるんじゃないか?」

「真っ白なこの部屋たちは、私たちみたいですね」

先生「そのための空間だからね」

先生はそのあとに、胸元に刺しているカードキーを私に渡す。

「これは?」

先生「君はこの部屋をまた一度見たらいい。きっと君の望む答えがあるはずだ」 「ありがとうございます!」

私はそのカードキーを受け取ると、部屋を出た。


→ヒヤの部屋

ノックすると、ヒヤがピョコッと顔を出した。

「ヒヤ、今いい?」

ヒヤ「なんですか?」

すっかり男の子らしくなったヒヤはテノールの声で、どうぞと促して部屋に入れてくれた。

「身体傷だらけだったけど、もう大丈夫?」

ヒヤ「大丈夫ですよ。だって僕は人間ではないみたいですから」

促された見た先は腕の中身だった。

「朝はなかったよねどうして?」

ヒヤ「どうしてなんでしょう。僕もわからないんです。気づいたらやっていて、やめなきゃ いけないって思ったんですけど、痛くもなかったんですよね。 でも、エワさん。あなたも、僕と一緒なんですか?トーレさんは僕と一緒みたいなんです」 「わからないわ。自分の中身なんて自分で確認したりしないもの」

「そうですか......」

ヒヤは寂しそうに笑う。

ヒヤ「今は一人にしてください」

もしかしたらこの間のヒヤも今回のように悩んでいたのかもしれない。 部屋を出て行った。


→トーレの部屋

開くと、本を読んでいるトーレがこちらを見てパッと顔を輝かせる。

トーレ「エワ来てくれたんだね」

なぜだか鬱陶しく思えてくるトーレの愛情に苦笑いする。

トーレ「どうしたの?元気ないね」

「そんなことはないよ。少し疲れちゃったのかもしれない」

トーレ「仕方ないよ。ここ数日大変だったもんね。 ここで休んでいく?」

→休む


「うん、休もうかな」

トーレ「飲み物あるけど、いる?」

「うん。ありがとう」

トーレからマグカップを受け取り、飲むと少し眠たくなった気がした。 トーレ「ゆっくりおやすみ、俺のお姫様」


BADEND トーレの部屋の中




→休まない

「ううん。だってもう少しみんなのところ行きたいから」

トーレ「ヒヤが心配なの?」

「そうなの」



→トピーの部屋 「トピー入るよ」

部屋に入ると、本に埋もれているトピーがまたか、という顔をした。

「私、ガリバー旅行記を読んで来たのよ」

トピー「お、どうだった」

「ガリバーが少しおバカさんで、周りに馴染む力があってすごいと思った」

トピー「そういう感想を持つあたり、エワらしいな」

「でも、そう思ったんだもの」

トピー「俺はもっと文学的な返答を期待してたんだけどな」

「例えば?」

トピー「社会性やその当時の風潮との比較とか」

「そんなの作品のことだけ見てる人にはわからないわ」

トピー「まあ、エワらしくていいよ」

トピーは笑顔で、読んだことのある不思議の国のアリスを貸してくれた。多分バカにされ ているのだと思う。


→保管庫

先生からもらったカードをかざすと、簡単に部屋の扉は開いた。 部屋の中は円柱の形をした水槽がいくつかと、本棚がたくさんあり、本が図書室を思わせる ほど、たくさんあった。 そして、その真ん中には白い髪の毛を二つに結った女の子がいた。

?「あなたは?」

女の子は呆然としている私に気づいて言った。

「私はエワ。あなたは?」

?「私はクロって呼ばれてる」

赤い目をした女の子は近づいて来て、本が大量にある部屋においでと手招きする。

クロ「私、初めて私以外の動いている女型に出会ったの」

「女型?」

クロ「そうよ。この部屋は見てわかる通り、この部屋にはたくさんのならず者――あなた達 になれなかったものが存在していたの。 その中で言葉がわかる奴が何人かいるんだけど、私もそうなの」

「でも、あなたはさっきから一人でいたけど、他の人は?」

「博士がクラッシュしちゃった」

「博士?」

「そう、光原司博士。私たちを作った人だよ」

「作った人?」

「あなた何も知らないのね。可哀想な人」

赤い目をした少女は私に近づくと、首をやんわりと絞め始めて、私がもがくと強い力で首を 絞めてくる。

「やめて!何が望みなの?」

クロ「何が望みですって?

エワ、あなたのせいでみんな生まれたのよ!」

「やめろ!!!」

扉が開くと、トーレが強くクロを突き飛ばした。

トーレ「エワ、どうしてここにいるの?

カードキーが外に落ちてたから、もしかしてって思ったけど、もしかして......あいつのとこ ろにまた行ったのか?」

トーレの瞳は赤く燃え上がっていて、クロと同じように正気を保っている人間のそれでは なかった。 私は立ち上がると、トーレに掴まれている腕を引きちぎる勢いで離して逃げ出した。






→右に逃げる

右に曲がったその部屋は先生の部屋だった。

先生「やあ、このタイミングで来るなんて君も運が悪いね」

トーレ「やっぱりここにいた」

背後から迫るトーレに逃げる私は、柵越しに先生に話しかける。

「トーレがおかしいのどうしたらいいの?」

先生「それは感情の発達の成れの果てだから仕方ないね」

「なんで......」

トーレ「そいつの話なんて聞くな。行くぞ」

トーレに連れて行かれ、私はトーレの部屋から二度と出ることがなかった。

BADEND 鳴き声はトーレの部屋から



→左に逃げる

左に逃げると、リビングで、トピーとぶつかった。

「トピー大変なの。トーレが暴走して」

トピー「目の色は何色だった?」

「赤色」

トピー「わかった隠れるぞ」

トーレ「何から隠れるって?」

リビングに入ってきたトーレはぶつかった状態で、抱きしめているような状態になってい る私たちを

正気じゃない目で見ていた。

トピー「トーレ!お前自分が正気じゃないことわかってるだろ!?」

トーレ「正気じゃないのはこの場所だろ。俺はエワさえいればよかったのに、なんでエワは 俺だけじゃダメなんだ」

「トーレ!!」

トーレ「俺じゃダメなのか、俺じゃ......」

トーレは自分から首に手をかけると、両手をクロスさせて、自分から首を刎ねた。

「トーレ!!!!」

トピー「次は俺か......」

切ない声が響くと先生が歩いて来た。

先生「また、直しにくい壊れ方をしてくれたね。いつもトーレ君はそうだ。」 「先生?」

先生「新しい記憶もだいぶ深まってきたんじゃないか?

僕の人形」

「人形......っ」

私は許せなくても、その事実はそこにあった。

END 新しい記憶

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