2周目
「やあ、目が覚めたかい?」
アシンメトリーの髪の毛が揺れ、私に話しかけてくる。
浮世離れしていて、その人自体が人形のようだった。
「おはよう、僕の人形さん」
首の後ろに触れて、ふっと体が軽くなる。
「これでヨシ……っと、まだ慣れないかな」
「なれないとは?」
「君が生活しにくくないか、ってことだよ」
「なるほど」
「これから君はたくさんのことを一緒に知っていくんだ。
僕のことは先生と呼ぶといいよ。先に生まれるって書くんだ」
?「ーーーーーーワ。エワ。起きて、エワ」
私を呼ぶ声が聞こえる。
この声は愛しげな熱っぽさを孕んでいて、誰かを示すのには分かりやすい声だった。
重たい目を開けると男性が立っている。
昨日のように男性はたまらず抱きしめて来て、私を愛おしげに見つめる。
トーレ「エワ、おはよう」
「おはよう」
トーレ「君が本当に目が覚めたのか、夢だったんじゃないかって気になって来てしまったんだ」
あたりを見回すと、白い壁に白い天井。パイプベッドに机と椅子。
ところどころぬいぐるみが置いてあり、昨日と同じ風景なのはわかりきっている。
トーレ「エワは今日夢を見た?」
「夢?」
トーレ「寝ている間に見る、その日の頭の整理だったり、現実には起こりえないものだよ。 俺は昨日すごくいい夢を見たんだ。君と結婚式を挙げる夢を見たんだ」
「綺麗な先生って人が出てくるのなら、見た」
トーレ「綺麗な先生って男?」
トーレは信じたくないような顔をして、私に問いかける。
トーレ「ねえ、それって男?」
私の言葉を待つこともせずに、私の手を握って、不安そうに瞳を覗く。
「わかんないよ。だってそれが男か女かなんて情報なかったもの」
トーレ「そっか。じゃあ、俺の早とちりだったかもしれない」
「うん」
(トーレはどうしてこんなにも男性か女性かについて、気にしているんだろう)
本当は男だったとは言えずに、私はトーレの手を引かれ、部屋を出る。
移動中、 周りの異様に白で囲まれたこの場所の怖さを感じた
トーレ「やっぱりまだ怖いかな?」
私を撫でてくれた。
トーレ「さて、ついたよ」
リビングに着くと、男の子と女の子がいた。
髪の毛の長い、私をにらんでいる女の子がヒヤで、明るく振舞っているのがトピーだ。
「おはよう」
ヒヤ「......」
トピー「おはよ~」
ヒヤ「ご飯できてるから、早く食べるよ」
席に着くと、昨日と同じように並んだご飯がある。 やっぱりご飯の形はべちょべちょで少し油っぽくなっている気がした。 スープも油が浮いている。
トーレ「ヒヤありがとう」
ヒヤ「トーレのためだもの!いつでも私頑張るわ!」
ヒヤは嬉しそうに笑う。
トピー「冷めないうちに食べようぜ!」
いただきます
みんなで合唱して食べる。
「美味しい……!(やっぱり美味しくなさそうなのに、美味しい)」
ヒヤ「そ、そうでしょう?」
「うん!!」
トピー「昨日褒められたからって、ヒヤ嬉しそうに準備するんだぜ? さすが、トーレの妹だよな」
ヒヤ「だ、だって、トーレは私の大好きなお兄ちゃんなんだから仕方ないでしょう」
「すごいね」
トーレ「俺たちの必要な要素全部あるんだから」
トピー「トーレ!それ昨日も言ってた。二日目にしてさらにコツを掴んだのか?」
ヒヤ「もう!そうやって毎度茶化すのはやめてくださいっ!」
美味しく、ご飯はすぐに無くなっていった。 私はなんとなく、その輪を一歩後ろに下がって見ているような気分になった。
トーレ「さて、ご飯も食べたところで、今日もみんなの部屋を回ってみようと思うけど、エワはどこに行ってみたい?」
→先生の部屋
トーレ「奥の部屋か、それは先生の部屋だね。先生は君を助けた人で、あまり人と近寄ろう としないから、あの部屋にいるんだよ」
「部屋に入ることってできるの?」
トーレ「なんで入りたいの?」
「助けてくれた方なんだよね?」
「なんでも知ることが君の幸せに繋がるとは限らない。
俺はこの部屋に入ることを勧めないな」
「そうですか......」
私は後ろにヒヤの姿を見つける。
(ヒヤ......?)
→ヒヤの部屋
ヒヤ「ここはヒヤの部屋だね。ヒヤ、部屋にいるか?」
コンコンとノックするが音が返ってこない。
「ヒヤ! いないの?」
私は先ほどから、後ろをついてきているヒヤにイライラしており、きつく扉に問いかける。
ヒヤ「うるさいですわ」
扉が開くと、ヒヤは体に何かしているのが見えた。
トーレ「ごめん、エワは少し下がってて」
ヒヤ「トーレ!来ないでください!」
トーレ「もうするなって言っただろう! 俺らにはある程度の痛みがあるんだから、こういうことをしたらしんどいってなんども」
ヒヤ「だって耐えられなかったんですもの!」
私はその様子をじっと見つめていた。
→トーレの部屋
トーレ「ここは俺の部屋だね」
昨日のことを思い出し、部屋に入ることを尻込みする。
トーレ「昨日みたいな変なことしないから、おいで、本を読もう」
「うん」
視線が感じられ後ろを振り返ると、逃げるヒヤの後ろ姿がある。
やっぱり部屋に入ると、自分と同じ白い部屋に散乱した本の数々だ。
「トーレはどんな本を普段読んでいるの?」
学術書のように見えるいかにも難しそうな本が並んでいる。 トーレ「科学とか哲学とか。でももう、意味ないってわかってたんだけどね」
「そうなんだ」
解説してもらいながら、トーレの部屋にある難しい本を読む。 案外読めて、もしかしたら過去の私も同じように読んでいたのかもしれないと予感した。
→保管庫
トーレ「ここは本とか置いてある部屋だけど、先生しか入れないんだ。先生は俺が基本会 いに行くけど、どんな本でも読みたいものがあったら頼んでくれれば良いよ」
「やっぱり、ここも入れないのね」
扉に再度触れてみたが、他の部屋と違い開きそうな気配がなかった。
トーレ「先生に会わないと無理だね」
「そうなんだね」
トーレのいう先生はすごく重たく感じて、これ以上問う気にならなかった。
→トピーの部屋
トピー「ヒヤ、入るなって言ってるじゃないか!......今日もトーレかよ」
トピーは嫌そうな顔をしながら本たちの中から頭を出す。トーレの部屋の中もとても本 があったが、その比ではなかった。
トーレ「いいじゃないか、エワも君と仲良くなりたいって思っているんだから、もっと仲良くしようよ。
昨日も夜更かししたろう?昨日と違う本が上に乗ってる」
トピー「そんな俺は特に気にしてないさ。本を読むのが好きなんだよ。」
「どんな本が好きなの?」
トピー「俺?俺は SF とか冒険ものとかが好きだよ」
「おすすめとかある?」
トピー「言っても、エワは本をもともと読まなかったじゃんか」
「過去の私はわからないけれど、今の私はトピーに本気になっているわ!」
トーレ「そう言ってるし、貸してあげたら?」
トピー「じゃあ、これ貸してやるから、早めに読めよ。......いつ俺がいなくなるかわから ないんだから」
「うん、わかったわ?」
トピーはガリバー旅行記を貸してくれた。 部屋を出るとやはりヒヤがいて、問い詰めたい気持ちになった。
→全部見た
トーレ「じゃあ、今日も本を持って行くから少し待っていて」
→先生の部屋
部屋に入るとカチャッとハマる音がして、前を見ると、アシンメトリーの髪の毛の奥の瞳が 私を見つめる。 ルービックキューブを弄び、鋭い瞳と目があうと、射抜かれたように動けなくなった。 浮世離れしたその顔は私が見た夢のあの顔と一緒で、トーレが焦った理由はやはりわから ないけれど、この人に会わせたくないことはわかった。 この部屋は牢獄のような雰囲気になっていて、閑散としていて、扉が反対にも一つ。格子の
ようなもので、私と先生の間には隔たりがあった。
先生「そろそろ来ると思っていたよ。エワ。僕の最初の人形」
「人形ってどういう意味ですか?」 先生「そのままの意味さ。君は僕に聞きたいことがあって来たんじゃないのか?」
「あなたは先生?」
先生「どの先生か指しているかわからないけれど、君の思う先生であっているはずだね」
「ヒヤはどうして私を嫌っているの?」
先生「君は僕の最初の人形で、こうやってトーレの言った言葉に背いて、入ってきてしまう おてんばなところがあるからだろうね」
ガチャッと扉が再び開く音がある。誰か分からず後ろを向く。
トーレ「なんでここにいるんだ」
トーレは焦った顔で、私に問いかける。
先生「ひどいじゃないか。僕らは最初から一緒だったっていうのに、僕は仲間はずれかい?」 トーレ「行くよ。こいつの話なんて毒なんだから」
無理やり私は手を引かれ廊下に出た。
トーレ「どうして、行くなって言った気持ちは汲んでくれたんじゃないのか!?」
「他にも気になったことがあったの」
トーレ「そうだね、俺に言ってくれればよかったじゃないか」
「でも私はここで一人よ」
トーレ「君の部屋に行こう。ちゃんと聞くから話して」
「うん」
私はトーレに促されて部屋に入ると、刺すような視線を感じて振り向いた。 振り向いた先にはヒヤがいて、ヒヤは嫌そうな顔で私を見つめていた。
「ヒヤがいるの」
部屋に入りドアを閉めたトーレに私は言う。
「昨日、ヒヤに言われたの。『あなたは本当は記憶が残っていて嘘をついているんでしょう。 ついてきて』って」
トーレ「ついて来て?」
「雰囲気があまりにも怖くて、ついて行くことなんてできなかったし、すぐトーレが来てく れたからよかった」
トーレ「そんなことがあったのか」
「あと、ずっとヒヤの視線があるの、多分この後別れたら、ヒヤが来るわ。 私怖くて、夢の先生は怖さを和らげてくれる優しさがあったからつい行ってしまったの」
トーレ「なるほど、でも、もう先生には会わないでほしい。先生は君のためになんか何一つ しない。ヒヤのことはどうにかしよう。あの子はそろそろ時間なのが本人も分かっているん だろう」
「時間?」
トーレ「大丈夫、ついて行って見てごらん。俺が後ろにいるから」
そう言ってトーレは自室に戻って行った。
「ヒヤ......」
戻ったのを見計らったように、やはりヒヤが私の目の前に現れた。
ヒヤ「トーレに面倒を見てもらうのは楽しいですか?」
「申し訳ないなって思うよ」
ヒヤ「あなただけは特別なんだから、記憶なんて残ってると思うんですけど。 嘘もお上手なんですね」
「昨日も言っていたけど、どういうこと?」
ヒヤ「トーレの気持ちを分かって、踏みにじったくせに。 トーレにいい顔するなんてずる賢い女」
「ずるいの理由がわからないの。教えて」
ヒヤ「っわかったら!ついて来てくれないかしら?」
→ついて行かない (END 夢物語へ)
→ついて行く
ついて行くと、ヒヤの部屋の前に到着し、扉を開けた瞬間にヒヤが笑った。
赤い瞳が深く広がって、機械めいたカカカという音がなり、ヒヤは台所包丁を取り出してい て、
私にめがけて切りつけようとしていた。
トーレ「ヒヤ!」
トーレは瞬間扉を開け、ヒヤのことを横に突き飛ばした。
ヒヤ「ひどいわ!!私が大事なのはトーレなのに。 トーレがこんな女を好きなんて許せない。僕が私が大事にしていたトーレを踏みにじるこ んな女のために」
髪の毛がめくれとれ、短い髪の毛になったヒヤは少年のような雰囲気になった。
トーレ「それでまたエワを殺すのか」
ヒヤ「この前はみんなで、今は私が殺して何が悪いんですの?」
トーレ「わかった、俺が殺す」 トーレはヒヤから取り上げた包丁を手に取ると、ヒヤに突き立てた。 最初から諦めていたようで、お兄ちゃんと小さく呟いた。 ヒヤの体から血は出ることがなく、機械の配線や無機質なものがむき出しになっていた。 また、見えなかった体の部分にも同じようなむき出しの部分があり、ヒヤはすり減らして正 気を保っていたのだと知らしめられた。
トーレ「よかった。無事で」
「でも、ヒヤは」
トーレ「今は気にしないで、俺がついているよ」
震える体を抱きしめるトーレの手にはヒヤを壊した包丁があった。
END 二人の未来
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