FILE6(ゲーム布教)
梅里遊櫃
1周目
「先生寝てる間に空を飛ぶのをみたんです」
先生「……それをなんと呼ぶか知ってるかい?」
「なんでしょう? 幻想ないし、妄想、想像でしょうか?」
先生「それはね、夢っていうんだ」
「夢……?」
先生「そう、夢。
君はまた一つ僕たちに近付いたね」
差し伸べる手の温もりは体温の存在しない頬に吸収されていく。
微笑む先生はいつも目が真面目で、どこか冷ややかに見据えていた。
先生「君のおかげで新しい課題を見つけることができたよ」
撫でる手は私を突き放すように、容赦無く「できるね?」と言われている気がした。
?「ーーーーーーーーワ。エワ。起きて、エワ」
私を呼ぶ声が聞こえる。
そもそもソレは私なのか。でも、きっと私なのだろう。
重たい目を開けると男性が立っている。
男性は堪らず抱きしめてきて、私を愛おしげに見つめる。
?「エワ……! やっと目を覚ましたんだね」
「どういうことですか?」
?「君は事故にあって、ずっと眠っていたんだよ」
「ずっと……?」
周りを見渡すと、白い壁に白い天井。
パイプベッドに机と椅子。
ところどころ、ぬいぐるみが置いてあり、少女趣味の女性の部屋なことが伺えた。
?「先生が記憶障害があるかもと言っていたけど、やっぱり覚えていない?」
「ごめんなさい、全く分からないです」
?「そっか、また1から覚えればいいから大丈夫だよ。
俺の名前はトーレ。
君の名前はエワだよ。
僕たちはここで生活していて、遊んだり本を読んだりして生活しているんだ。
とりあえず、お腹も空いただろうから。食べに行こう」
よく考えたら、お腹が空いたような気がした。
トーレ「あ、ちょっと待ってね、針を抜くから」
トーレじゃ私の腕に刺さったものを抜いて、腕を拭き取った。
トーレ「これで歩けると思うから」
手を握ったり開いたりすると、先ほどまで感じていた重さがなくなったような気がした。
「食べる場所があるの?」
トーレ「そう、みんなで食べているんだ。
行こう、みんなも待っているよ」
「うん」
(トーレはすごくいい人だなあ。何も知らない私にいろんなことを教えてくれる)
移動中、異様な白さに囲まれたこの場所に怖さを感じた。
廊下も真っ白で艶やかで人のいるようなものを感じない。
トーレ「大丈夫、慣れればこの廊下は怖くないよ」
怯えてトーレの袖を掴む私を撫でた。
トーレ「さて、ついたよ」
リビングに着くと、男の子と女の子がいた。
トーレ「二人とも、見ての通り、エワが目を覚ましたんだ。こっちが妹のヒヤ。
こっちがトピーだよ」
「よろしく」
ヒヤ「よろしく」
ヒヤは差し伸べた手を無視してツンツンした表情で言う。
その差し伸べた手を急に掴んだ人がいた。
トピー「よろしくだよ〜」
ヒヤ「ご飯できてるから早く食べるわよ」
席に着くと、私が目覚めるのがわかったように同じように並んだご飯がある。
固形だが、ドロドロしていて、思わず顔をしかめた。
スープも油が浮いている。
「……ごはん?」
トーレ「ヒヤ、ありがとう
最初は慣れないだろうけど、とても体にいいんだよ
見た目はアレだが、おいしいしね」
ヒヤ「トーレのためだもの! 私はいくらでも頑張るわ!」
ひやは嬉しそうに笑った。
トピー「冷めないうちに食べようぜ」
「いただきます」
みんなで合唱し食べる。
「美味しい……!(想像だとものすごい美味しくないと思っていたけど、とてもまろやかな味がする)」
ヒヤ「そ、そうでしょう……?」
トピー「ヒヤがこんなに料理ができるなんて、俺知らなかったぜ!
あのことがあるまでは、ずっとエワが作ってたもんな」
ヒヤ「失礼ですね。
私だってできます!
ただする機会がなかっただけで」
「すごいね」
トーレ「俺たちに必要なものが全て入っているってのがミソだよなあ」
トピー「そうそう!なのに美味しいってなかなか難しいだろうに」
ヒヤ「もう!
そうやって毎度茶化すのはやめてください!
食べますよ!」
美味しくみんなでご飯を食べた。
トーレ「さて、ご飯も食べたところで、エワを案内しようと思うけど、エワはどこに行ってみたい?」
左の部屋
「わあ、すごい」
そこは本本本、本に埋め尽くされていた。
トーレ「ここはトピーの部屋だね。多分いるだろうから、開けてみよう」
トピー「ヒヤ入るなって言ってるじゃないか!……トーレかよ」
トピーは嫌そうな顔をしながらも本たちの中からか頭をだす。
「ご、ごめんなさい」
トーレ「気にするな、本めちゃくちゃ積んでるな。
熱心なのはいいけど、ちゃんと寝ろよ」
トピー「そんな俺は特に気にしていないさ。本を読むのが好きなんだよ。
さあさあ出た出た」
追い出されてしまった。
中央の部屋
トーレ「さっき来た部屋だから、君の部屋だね。君が好きに入れる部屋だよ」
「みんなはよく自分の部屋にいるの?」
トーレ「トピーは部屋にいることが多いけど、暇さえあれば集まっている方が多いかな」
「そうなんだね」
左奥の部屋
トーレ「ここはヒヤの部屋だね。
ヒヤ、部屋にいるか」
コンコンとノックをするが音は帰ってこない。
トーレ「いないみたいだ。ヒヤは繊細な子だから、ノックしてから入るようにしてくれ」
右の部屋
トーレ「ここは俺の部屋だよ」
「入っても良い?」
トーレ「良いけど、あんまり綺麗じゃないよ」
「大丈夫」
広がったのは、自分と同じ白い部屋に、散乱した本の数々だ。トピーの部屋ほど積まれてはいないが、散乱している。
「本、好きなの?」
トーレ「少し、調べ物をしていたんだ」
「調べ物?」
トーレ「そう、調べ物。特に意味なんてないけど、楽しくて」
「そうなんだ」
トーレ「調べられるなら、君のことを知りたいんだけどね」
髪の毛を掬ってキスを落とす。
「(何でそんなふうにいうんだろう)」
トーレ「なんでって顔をしているね」
「うん、なんで?」
トーレ「俺と君は付き合っていたんだよ」
「……そうなんだ?
(どうして、こんなに違和感を覚えているんだろう)」
トーレ「だから、待っているよ。
俺を思い出してくれるのを」
右奥の部屋
トーレ「ここは本とか置いてある部屋なんだけど、先生しか入れないんだ。先生は俺が基本会いに行くけど、どんな本でも読みたいものがあったら頼んでくれれば良いよ」
「鍵がかかっているの?」
扉に触れてみたが、他の部屋と違い開きそうな気配がなかった。
トーレ「そう、先生だけが鍵を持っているんだ。」
「そうなんだね」
奥の部屋
トーレ「奥の部屋か、それは先生の部屋だね。先生は君を助けた人で、あまり人と近寄ろうとしないから、あの部屋にいるんだよ」
トーレは奥の部屋に案内しようとする。
すると、後ろから腕を掴まれた。
ヒヤ「やっぱり!
この女変わってないわ!
トーレ離れてた方がいいです!
この女はまた、あの時みたいにトーレを裏切る気なんだ!」
「どういうこと?」
トーレ「ヒヤ、落ち着け。俺らもそうだったように、エワにも記憶がないんだよ。
そんな中で先生のことがわかる筈ないだろ」
ヒヤ「でもこの部屋に入ろうとするなんて!」
「ごめんなさい、入らない方がいいですね」
トーレ「とりあえず、今はやめておこうか、先生はその部屋にいつでもいるから、会おうと思えば会えるよ」
「わかりました」
そして、その場を去った。
全部回った
トーレ「さて、大体の部屋の位置は分かったかな?」
「他に行く場所はないの?」
トーレ「そうだね。特にはないよ」
「そうなんだ」
トーレ「じゃあ、一度部屋に戻るかな。
絵本でも持っていくから、少し待っていて」
「うん」
私はトーレを見送ると、刺すような視線を感じて後ろを振り向いた。
振り向いた先にはヒヤがいて、嫌そうな顔で私を見つめた。
ヒヤ「トーレに面倒を見てもらうのは楽しいですか?」
「申し訳ないなって思うよ」
ヒヤ「あなただけは特別なんだから、記憶なんて残っていると思うんだすけど。
嘘もお上手なんですね」
「なんでそんなことを?」
ヒヤ「トーレの気持ちをわかって踏みにじったくせに、トーレにいい顔するなんてずるい女」
「(本当にわからないのに)
過去の私が何かやったんですね。ごめんなさい」
ヒヤ「わかったら少し、ついてきてくれないかしら?」
ついて行かない
「ついて行かない。部屋に絵本を持ってきてくれるって言っていたから」
ヒヤ「そう……」
トーレが部屋の前に佇んでいる二人を見かけて声をかける。
トーレ「どうしたんだ?二人で」
「ううん。なんにもないの」
トーレ「さあ、絵本を持ってきたから、これでも読んで。
今日は疲れただろうし、部屋に戻ると良いよ」
「うん、トーレ、ヒヤありがとう」
もらった絵本はイカロスの絵がついていて、少し切ない内容だった。
デジャブを感じた私は涙を流しながら目を瞑った。
END 夢物語
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