第13話 一番いい解決方法
迷惑な客の詳細や店の場所、それから依頼料について話した後、客は帰っていった。
店は夕方からオープンらしく、その準備があるとのことだ。
「今晩、店に行こうと思う。いいな、テレンス」
「はい」
「問題は、どうやって解決するかだな」
ソファーに座り、フランクが頬杖をつく。依頼人に対して、任せてください、と満面の笑みで言っていた彼だが、どうやら特にいい考えがあるわけではないらしい。
「テレンス、なにか考えはあるか?」
「そうですね……」
ツケという形をとっている以上、相手を理詰めするのは難しいし、そもそも理屈が通じるような相手ではないだろう。
「私に、いい考えがあります」
「なんだ?」
「殴ります」
テレサの答えに、フランクは一瞬目を見開いた。そんな……とか、いやでも……なんて呟きを繰り返した後、立ち上がってテレサを見つめる。
「トラブルにならないか? その後、夜道で襲われたりしないか?」
「レストランで無銭飲食なんて、組織的な犯行には思えません。金のない破落戸でしょう」
「それは、そうかもしれないが」
「まあ、個人的に報復しようとしてくるかもしれませんが」
テレサの言葉に、フランクがびくっと身体を震わせた。情けないが、素直な反応である。
まあ、仕方ないわよね。依頼人だって破落戸が怖いから、私たちに依頼してきたんだろうし。
強く言えば、殴られてしまうかもしれない。暴れられてしまうかもしれない。
そういう恐怖につけこんで、破落戸たちは無銭飲食を繰り返しているのだから。
「でも、大丈夫ですよ。フランク様には僕がついています」
「テレンス……」
「夜道で襲ってきたら、僕が殴り返してあげますよ。僕は貴方の用心棒なんですから」
フランクがきらきらと瞳を輝かせる。子供みたいな表情が可愛くて、テレサは思わず笑ってしまった。
「お前は本当に頼りになるな、テレンス!」
フランクが笑顔でテレサの肩を何度も叩く。痛いです、と文句を言えば彼は素直に謝ってくれた。
頼りになるなんて、言われたことなかったわ。
怖い、野蛮、下品……そんな風に言われてばかりで、怪力を褒められたことなんて、フランクに会うまでなかった。
「ありがとうございます、フランク様」
「上手くいったら、パーティーでも開くか。依頼料も入るしな」
「だから、そんなことをしてたらお金が貯まりませんって」
まったく、この人は困った人だ。
けれどやっぱり、憎めないというか、放っておけないというか。
この人がモテるのは、顔だけが理由じゃないのかもしれないわね。
◆
レストランがオープンして少し経ってから、フランクとテレサは屋敷を出た。
レストランはお世辞にも治安がいいとは言えぬ繁華街にある。
「なんか、緊張してきたな、テレンス」
「そうですね」
「俺がやられそうになったら、なにより優先して守るんだぞ。いいな」
情けないことを念押しされ、はい、とやや呆れながら返事をする。
普通、依頼人を最優先しろって嘘でも言うんじゃないの?
「というか、そんなに心配なら、フランク様は屋敷で待っていてもよかったんですよ」
今回の依頼なら、テレサ一人だけで対応できる。
正直、フランクがいても助けにはならないだろう。
「なにを言ってるんだ。俺はお前の主人だぞ。お前だけを危険な仕事に行かせられないだろ」
「……僕に守ってもらおうとしてるのに?」
「それはまた別の問題だ」
フランクは腕を組んで偉そうに頷く。やれやれ、と思いながらも、テレサの口元は緩んでしまった。
◆
「ここだな」
「はい」
レストランに到着し、中へ入る前に窓から中の様子を窺う。
まだ破落戸たちはきていないようで、店内は明るい雰囲気だった。
「先に入っておいて、奴らがくるのを待つか」
「ええ」
「それまで、ただで食事をしていいと言われているしな」
貴族らしからぬことを言い、フランクは店の扉を開けた。彼に従い、テレサも中へ入る。
店内は美味しそうな料理と酒の匂いで満ちていた。がやがやとしたうるさい空間ではあるが、賑わっているのが分かる。
こういうところにくるのは初めてだわ。
少々戸惑うテレサとは違い、フランクは慣れた様子で入り口付近にある席に座った。
「ビールを二杯頼む!」
騒がしい店内でも通るような大声で注文すると、依頼人が慌ててビールを二杯持ってきた。
そして、お願いしますよ、と目で頼まれる。
頷きで返すと、依頼人は安心した顔で去っていった。
「テレンス」
「分かりましたよ」
乾杯、とグラスを合わせると、フランクは勢いよくビールを喉へ流し込んだ。
これから仕事だというのに、豪快な飲みっぷりである。
せっかくだし、私も少しは楽しもうかしら。ビールなんて、飲んだことないもの。
初めて飲むビールは苦かったが、悪くない味がした。
そして、二人が店についてからしばらく経った後に、ガラの悪い二人の男が現れたのである。
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