第21話 ドワーフのカンナ

「おそらくここですね・・・」

 モモは手に広げた地図を確認してここで間違いないことを確認する。

 地図では確かにここを指している。

 指しているのだが。


「なにかの間違いじゃないのか?」

 師匠がそう言うのも納得できるほど、その場所にあった建物は鍛冶屋というより、

「ボロ屋だな・・」


 ここら辺はニースの中でも特に廃れている場所と言っても過言ではない。

 商店街のような人混みや活気はなく、あるのは空き家ばかり。


「ごめんください」

 疑心暗鬼になりながらも扉をノックする。


 すると、ドッドッドッという音が扉に近づいてきて、バタンと容赦なく扉が開かれた。


「・・・だから、家賃を払うお金なんてないと言ったじゃろう!」


 苛立った様子で出てきた少女。

 褐色の肌に灰髪と黄色の瞳。


 そして何よりモモと同じ、少女のような身長。

 ということはこの子があの土人族ドワーフの『カンナ』だろうか。


 まさかあの地図でたどりつけるとは。


「なんじゃ、いつものごつい奴らはなくなったの、か・・・」

 一人の一人の顔を見ている途中、ある人物に目が留まる。


「モ、モモーー!」

 気がついたときにはそう叫びながらモモにひっついていた。


「離れてください!」

 そう言って全力で剥がそうとするも、モモの怪力を持ってしても密着したまま、一ミリたりとも離されない。


「今日はあなたに用事があってきたんです」

「お、そうだったのか!」

 ようやく離れたカンナだったがすでにモモはゼーゼーと呼吸が荒くなっている。

 恐るべし土人族ドワーフ


「実は土人族ドワーフのカンナさんにこれを使って武器を作って欲しいんですが」

 そう言って、ミスリル鉱石をみせる。


「お主、なかなか良いものを持ってるのじゃな」


 手のひらに載せたミスリルをカンナは様々な角度から見る。

「よし、良いじゃろう。わしがそのミスリルで最高の武器を作ってやろう!」


 その言葉を聞いて、とりあえずホッと胸を下ろす。


「実は他にも、この鉱石とモンスターの素材を使ってみんなの防具と、この魔核を使った魔法用のロッドをお願いできないでしょうか」

 俺はその言葉通り、ダンジョンで取れた鉱石と蜘蛛型のボスモンスターから取れた魔核を差し出す。


 ちなみに、当たり前だが魔法用の杖はミリアのためのものだ。

 普段から魔力の多さから、杖を媒介にして魔力消費を抑える必要がなかったため手ぶらで行っていたらしいが、この先のことを考えるとできる備えはしておきたい。


 核となる魔核の質サイズが良ければその分魔法効率が上がるから、モモ程のものではないにしろ相当いいものができるはずだ。


「なるほど、確かにこれだけあれば十分な物が作れるじゃろうな」


 素材の状態を確認するため、実際に手にとって目を凝らすように見た後、

「あいわかった。主らの防具もついでに作ってやる」といってカンナは頷いた。


「それで代金の方なのじゃが・・・」


 カンナは少し気まずそうにしているが、これだけの装備を作ってもらうんだ。

 それ相応のお金は準備したつもりだ。


 ポケットからお金が入った袋を取り出す。

 この前のダンジョン攻略で大量に魔核もゲットできて、それなりの大金を手に入れることができた。


 袋を開くと主に金、それに続いて銀、銅の硬貨が中を占めている。

 ざっと金貨百枚分。

 家が一軒立ってもおかしくない額だ。

 これを全部使っても構わない覚悟で来ている。

 さあ、準備はできて・・・


「一人百枚じゃな!」

「・・・え?」

 思わず声が漏れた。


 一人百枚・・・?

 まさか、そんなはずは・・

 そうなると合計五百枚に・・・

 言い間違えなので、は?


「おお忘れとった」

 良かった、流石に間違いだよな。


「カインと言ったな。お主は武器も合わせて二百枚じゃ!」


 貨幣が入った袋が手からすり抜けていった。

 あまりの金額に力が抜けてしまった。


 金貨合計、ろ、六百枚・・・

 後ろを見るとグラジオは目眩がしているし、ミリアは指で数を数えている。

 師匠は「全焼させた領主の館よりは安いな」と何故か受け入れている。


「だから言ったでしょう。一つ問題があるって」

 モモが頭を抱えながらカンナの方を見る。

「あの子は制作する上で、満足のいくものを作るためならお金の出し惜しみをしないんです」


「逆に言えばそのせいでいつも金欠なんですが」

 通りで家がこんなにボロかったのか。

 無駄に納得がいってしまった。


「まあ、良いものを作ってもらうとしたらこの子の右に出る職人はいないです」

「さあ、どうしますか」とモモは苦い思い出を思い出すように聞いてくる。


 そうだった、モモの杖も家一軒建つくらいだって言っていたな。

 支払うのがどれだけ大変だったかモモのその表情から容易に察することができる。


 普通に考えれば辞退しても良いのだが、この先いつドワーフに会えるかわからないことを考慮するとそうもいかない。

 だとしても、払うとして、ダンジョンを一つ攻略して百枚近くだったからたとえダンジョンを六つ攻略しても足らない可能性がある。

 そんなのアイルに着く前にきっと過労で倒れてしまう。


 だとしたら・・・

「お願いして装備のグレードを落としてもらうしか方法は・・」

 そう口を開いた瞬間。


「何を悩んでるんだい?」

 武器を持って立ち上がったツバキが笑うように言った。


「カイン、君は強くなるために私のもとにダインたちの元を離れて訪れたんだろう?

 グラジオにミリアも。もっと強大な敵に挑もうとしているんだろう?」


「なら、」とツバキはこちらを見る。


「ここで妥協しちゃダメじゃない?」


 その言葉はすっと心に届いた。


 たしかにツバキの言うとおりだ。

 俺たちの全力を持ってしてでも敵わないような相手に挑もうとしているのに、妥協できるほどの余裕が俺たちにあるのだろうか。

 かもしれないとか、きっとこうなるとかそういった想像だけでやらずに勝手に諦める。

 前世でそれをやってどれほど後悔したことか。


「たしかに、師匠の言うとおりですね」


 そうと決まれば、やってやろうじゃないか。

『お金稼ぎ』を。


 俺がそう言うと、ミリアとグラジオも続くようにして。


「やりましょう!」

「そうですよね、ここで負けているようじゃアイルに行っても勝てるはずありませんよね」


 どうやら二人も決心したようだ。


 そしてモモは、

「どうやら決まったようですね」

 さすが二回目の人は面構えが違う。

 準備万端なようだ。


「それじゃあ、行きましょうか。お金稼ぎの時間です」


 こうして、金に貪欲になった冒険者が誕生した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る