第22話 最終手段
あるダンジョンの中、冒険者たちはあるパーティーを見て呆気に取られていた。
「カインさんとツバキさんはそのまま倒し続けてください!」
その命令に従い、師匠と共に視界にモンスターが入るたびに斬り伏せていく。
「モモさんとお嬢様は魔核を取り出していってください!」
これもグラジオの命令通り、素早い動きで二人は倒されたモンスターから的確に取り出していっている。
これらの動きにもはや無駄は無い。
二週間前から俺たちは寝る間を惜しんでダンジョンに入り浸っている。
朝起きてダンジョン。
ダンジョンの中で眠り、ダンジョンで朝目覚める。
こうもモンスターと隣合わせの生活をしていると、最初モンスターに触るのも全力で嫌がっていたモモとミリアも今ではもう、躊躇なく手を突っ込んで魔核を取り出している。
頼もしい限りだ。
じゃあ、お金集めがうまくいっているのかというとまあ、順調ではあるのだが。
「こちら買取の合計になります」
冒険者ギルドでそう言って渡されたのは、金貨五十枚ほどに加え、同じくらいの銀貨と銅貨。
普段なら十分すぎるとぐらいの稼ぎだ。
五人で分けてもそこらの冒険者より稼いでいる。
1ヶ月掛けて稼いだ金額はおよそ金貨三〇〇枚。
合計金貨は四〇〇枚近くになった。
順調に行けば来月には金貨六〇〇枚は集まる計算なのだが、あのとき一致団結した後、カンナから
「実はな、家や設備を揃える時の支払いがまだでな。
今月中に準備しないと我、追い出されてしまうんじゃ・・・
じゃから今月中にたのむ!このとおり!」
とまさかの
俺たちも一刻も早く精霊国アイルに向かわなくてはいけないため、急ぐ気ではあったが、流石に一ヶ月は短すぎる。
後二〇〇枚。
タイムリミットは明日。
このままダンジョン攻略を続けても間に合わないのは明らかだ。
どうしたら集めることができるのか・・・
一攫千金みたいなイベントがあれば良いんだが今の所そんなのは見当たらない。
つまり八方塞がりってわけだ。
みんなも必死に方法を考えているけど、いまだ解決策は出てこない。
「このままだと間に合いませんね・・」
その言葉に誰もが沈黙する。
「・・・一つ方法があると言ったらどうします?」
グラジオが机に両肘を立てて寄りかかり、両手を口元に持ってくる。
「あるんですか!?」
みんなそのグラジオの言葉に食いついた。
まさか、ここでまだ希望があるとは!
「その方法って!」
みんなの期待の眼差しを浴びながらグラジオはふぅと息を吐く。
「『ギャンブル』です」
ミリア以外の者たちに衝撃が走る。
「一歩間違えたら、これまでの稼ぎがなくなるかもしれません。でも、逆に言えば何倍にもなる可能性もある。それが『ギャンブル』」
「・・・やりますか?」
まさかここに来てその名を聞くとは思わなかった。
前世でもよくそれによって絶望していく者たちを見てきた。
パチンコで奨学金を倍にしようとして儚く散ったA男。
競馬で絶対勝てるからと言って単勝に全額掛けてこれまた儚く散ったB男。
それらを見てきた俺ならわかる。
ギャンブルは危険だ。
・・・だが今回ばかりは仕方ない。
どうしても今日までに金貨二〇〇枚準備しなければならないのだ。
そう、しょうがないことなんだ。
『もちろん』
おっと、どうやらモモとツバキも同士だったようだ。
二人と熱い握手を交わす。
ミリアはそれにもちろん着いてこれていない。
「なら、行きましょう」
その言葉に従い、皆立ち上がる。
「でも、どこにあるんですか?」
「すぐ近くですよ」
そういってグラジオが向かった先は冒険者ギルドの一番奥。
そこには下に続く階段。
「まさか・・・」
「そうです。ここの地下にその場所があります」
降りていく途中、最小限の明かりしかなく、より緊張が高まる。
何ならボスモンスター戦より緊張する。
「着きましたよ」
先を行くグラジオの前には木製のドアが佇んでいる。
「それじゃあ、行きますよ」
ガチャンと扉を開けるとそこには地下とは思えないほど広い、質素な冒険者ギルドとは違う派手な空間があった。
「ここが・・!」
行き交う人々、たまに見かける冒険者もちらほら。
ここで言うギャンブルはどちらかと言うと欧米辺りのカジノのを指していた。
ポーカーやルーレット、あれはブラックジャックだろうか。
名だたるギャンブルが目いっぱいに広がっている。
「ちなみにやるゲームはですね」
「ルーレット、ですよね?」
モモが食い気味に言ったゲーム名にグラジオは感服したように「そのとおりです」と答える。
「ブラックジャックやポーカーは勝つためには運だけでなく実力もある程度必要ですがルーレットは運要素が強い分、私達のような初心者でも勝つ可能性が他より高いですからね・・」
モモは丁寧に説明も付けて、「一体いくらつぎ込んできたと思ってるんですか」と不気味な笑みを浮かべている。
どうやらすでにうちのパーティーにはギャンブル中毒者がいたようだ。
「師匠もやった経験は?」
その質問にふっと笑みを浮かべて、
「負けすぎて、ルミアに禁止させられたさ。
あのときのルミアの怒った顔を思い出すと今でも・・・」
そう言って足が震えている。
俺でも一緒にいて全くと言っていいほど怒る姿は見たことがないのに、そのルミアがブチ切れるということは一体どれほど負けたのだろうか。
というより、ギャンブルに強い人いなくないか。
「ちなみにグラジオさんは?」
「・・一度やって大敗しました」
おっとどうやらまずいかもしれない。
しかし、ここに来てやめるという選択肢はギャンブルにとりつかれた者たちは持ち合わせていない。
「不安しかありませんけど今の俺達はやるしかありませんからね」
「やりましょう」
こうして俺たちの負けられない戦いが始まった。
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