第1話 誕生

 目が覚めるとそこには知らない天井があった。

 病院によくある白い天井というわけでもなく、うっすらしか見えないがThe・木造建築って感じがする。


 ていうか、生きて、る・・・?


 全身に力は入らない。

 少し動かすだけで精一杯だし、それだけで疲れてしまう。

 しかし手足に感覚はある。


 あんなふうに車に轢かれて、これですんだなら奇跡だろう。

 何なら死んだって思ったし。


 でもそんなことより、生きられたことが何よりも嬉しい。


「・ ー・ ーー・・」


 誰かの声が聞こえた。

 もしかしたら俺を助けてくれた人なのかもしれない。

 今すぐお礼しないと。


「・ ・ ・ア、ぅ」


 声が、全然出なかった。

 まあ起きたばかりだから仕方がないといえばそうだが。

 それがあったとしても、絞り出せた声が変だったような気がするが。


「ーーー・ ・ ・ー!!」


 どうやらこちらに気づいてくれたようだ。

 あらためてつたえ、なきゃ・・・ 


 たった今目の前に入ってきた光景に唖然としてしまった。

 感謝を伝えようと思っていたのにそんなの一瞬で吹き飛んでしまうくらいに衝撃だった。


「ー ・ー!ー・ ・ー!!」


 なぜなら今俺の前で、明らかに日本人とは違う顔立ち、そしてきれいな茶色の髪をしたかなりの美女がこちらを上から覗き込みながら、ぴょんぴょん飛び跳ねて喜んでいるからだ。


 そして明らかに耳が長い。


 あとその後ろから、少し照れながら濃い赤髪のこれも相当な美男がこちらを見ている。

 この人も明らかに日本人ではない。


 医者でもなく、なぜ外国人。

 それもかなりの美男美女。


 聞く限り、日本語ではないから外国人なのは確定なのだが、そもそも英語とかそういう他の言語とも根本から違うような感じがする。


 一体誰なんだこの人達は・・・


「ーーー!」


 と、そんな事を考えていたら、さきほど飛び跳ねるように喜んでいた美女に俺は抱き上げられていた。


 初めての経験だった。


 俺の体重は70kg近くあるのにしかも女性に持ち上げられるのは。

 正確には赤ん坊の頃もこんなふうに持ち上げられていたんだろうが。


 さらに頭がこんがらがる。

 どこにそんな筋力が・・・


 ん?


 抱き上げられたことで、ここで俺は初めて自分の体を見ることができた。

 かわいい手足に何十年ぶりに見たすべすべのお肌。


 どういうことだ、理解が追いつかない。


 試しに手を動かしてみたり、足をばたつかせてみたり。

 なるほど、全て思い通りに動く。


 自分ではないはずの腕が思いどおりに動いている。

 ということはつまり・・・


 俺の、なのか・・・


 美女に腕の中でゆっくり揺らされながら、状況を把握しようとしている俺。

 どうしよう脳が追いつかない。


 もしかして、死後の世界ってやつか・・・ 


 もはやこっちのほうが納得がいく。

 俺はやっぱりあのとき死んでいたのか。


 しかしそうなると、亡くなった人たちはみんなあの世で赤ちゃんになっていることになる。


 ・・・そんなわけないな。

 数秒後、俺は冷静になった。



 もはやいくら考えても答えは出ない気がしたので、その日はあまり考えないでちょっとだけ赤ちゃんライフを堪能した。



 / / / / / / / / / / / / / / /



 半年の時間が過ぎてようやく理解した。

 これラノベとかでよくある転生ってやつだ。


 車に轢かれてってのはよくある話ではあるが、でもまさか本当にするとは。

 もしかしたら車で轢かれて転生した話を書いている作者たちは経験者なのかもしれないな。


 とまあそんなことは置いておいて、半年も経てばできることが一気に増えた。

 はいはいだってできるようになったし、何より、あの二人が話している内容も少しはわかるようになった。


 まずあの最初に出会った二人は俺の両親だった。


 俺としては、美男美女の子供というのは悪くない。

 むしろ嬉しいが、俺より若い、もしくは同じくらいの人の子供と言うのもなかなか複雑ではある。


 そして、一番の発見は、ここは地球とは根本から全く違う世界だってことだ。


 あれを見てみろ。


 今、俺のこの世界での母親は料理をしようとしているのだが、フライパンに食材とかを乗せて、手を地球で言うコンロみたいなのに手の平を向ける。


 すると、その手から淡い光が発せられた後、そのコンロに一瞬で火がついた。

 手を向けた以外の動作をしていないのにだ。


 そう、あれは間違いない。

 魔法だ。


 まさか魔法という空想の中だけのものと思われていたものがこの目で見られる時が来るとはな。


 さすがの三十の大人だったとしても、これをみて見てテンションが上がらないわけがない。

 現在進行系で少年心を刺激されているところだ。


 次に外の庭にいる同じくこの世界での父親は、真剣を持って素振りをしている。


 程よくそして実戦向きであろう靭やかについた筋肉。

 そして所々に刃物のような鋭いものでないとつかない切り傷の痕。


 おそらく真剣を使った戦いもこの世界では当たり前にあるのだろうか。


 ということは、いつかは俺も剣を握る日が来るのかもしれない。

 軽い喧嘩すらしたこともないような俺に。


 痛いのは嫌いだし、ましてや斬られるなんてごめんだ。


 そんなことをしなくても生きていけるならそうしたい。

 俺には前世の記憶、知識がある。

 それがあれば、剣を振れなくたって生きていく道ぐらいあるに決まっているはずだ!



 ーーーそうやって俺はまた逃げるんだろうな。



 あのとき、俺はなにもやってこなかった自分を恨んだ。

 死ぬ間際、後悔しかなかった。

 若い時、挑戦していれば変われたかもしれなかったのにと。


 そして本当だったら、俺はあのときそのまま惨めに死んでおわっていたのだ。


 しかし、神様はチャンスをくれた。

 やり直すチャンスを。


 これは奇跡だ。


 次死んだら、また転生するなんて甘いこと考えるなよ俺。

 俺はもう後悔したくない。

 あんな最後は二度とゴメンだ。


 今までの俺とはここでおさらば。


 今度の人生で俺は変わってみせる。

 何事からも逃げてきた俺から。


 俺はこの世界で、もう逃げない。

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