第6話 君がいるべき場所

ドラゴンズネストの朝が明けた。

新鮮な空気とさわやかな気分、神聖な日差しに満ちたいつもと変わらない朝···なければならないのに、その日は少し違った。

竜たちが敬う神聖な王座の主人であるアウグストゥスは、その日に限って分からない不安感に苦しんだ。

自身の肉体を成している血と肉にある「その何か」が震えるような気分になった。

最上の食事を提供してもらい、世界で一番広くて安らかな場所にいるにもかかわらず、自分の体を引き裂きたいような気がした。

臣民に言えなかった。

アマテリンヌにも、エイヘリアにも言えなかった。

彼らにとっていつも神聖で超越的な存在であり続けたかった。

そのため、自分の人間的な不安感を語ることができなかった。

原因不明の不安について言えば,彼らはすべての任務を中断し,彼らの不安の原因を見つけようとするだろう。

そうしてはいけない。 文明の発展を、領地の帝国化をこれ以上遅らせてはならない。

世の中で最も絶対的な権力の持ち主は、今この瞬間、自分の魂を蚕食する感情を相手に何もできないまま、ただ心を痛めるだけだった。

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夜から夜明けに移る時間。アペリウス山脈。

メッシュイーター(Massive Eater)がその醜い口を突きつけて朝顔のようにぱっと開く瞬間···首が消えた。

「糞…これが一体何回目なのか…」

怪物のねばねばした液体がついた斧を振り払い、息を切らしながらエネルギーポーションを吸い込む一人の男、レウグートだった。

エネルギーポーションを飲めば喘ぎ声が消え、心臓の鼓動が落ち着いたが、飲むほどその効果の持続時間が短くなった。

このままでは永遠にエネルギーポーションが通じない体になってしまうのではないかという気さえした。

「だから、俺がそんなに止めたんじゃないか!」

笑って剣についた血を拭き取るもう一人の男。 もちろん、シフルだった。

シフルはこんなところに来るつもりはなかった。

戦争の陽動作戦に利用され、何も知らないうちに死んでしまう捨て牌など、この世を終えたくはなかった。

少なくない数の傭兵たち、そして行き場のない下層民たちがただ刀一本でもあれば幸いで、大部分は斧や鎌を持って参加した。

騎兵たちが使う重厚で長い凶悪な斧や死神たちが使うような素敵な鎌などではなかった。 ただ適当に転がっていた木材用の斧と草刈り用の鎌だった。

殺傷力のない物ではないが、人間ならともかく怪物を相手にはあまり効果がなく、ただ武器と一緒に食べられ、あの世の贈り物として持っていく場合がほとんどだった。

そのような武器と呼ぶのも恥ずかしい物に、戦闘に役立つ魔法などが宿るのは贅沢だった。

しかし、そのような金具でも持ってきたのは意外と事情が良い方だった。 木製の棒や竹の窓、石、あるいはただ体だけ来た者もたまにいた。

自分の命を投げ、家族にご飯を食べさせようとした、この時代の母親や父親たちだった。

戦争支援は男女を問わず身分も選ばず、ただ足さえ走れば誰でも参加でき、毎年自分が捨て牌に行くということを知りながらも少なくない支援者が参加した。

そしてその多くの参加者の中で生存者は...たった二人だった。

傭兵たちは山脈に進入する前に酒を飲んで互いに戦って逃げ、一般人参加者たちは行軍についていけずに離脱する場合も少なくなかった。

山に住んでいる怪物たちの立場ではバイキングの皿が減るのがただ残念だっただろう。

シフルはただ、レウグートを一人で送ることができないからついてきたのだが······レウグートも彼らについていく寸前だった。

戦闘の専門家、遊牧民騎兵出身の彼だったが、平坦な土地を走りながら馬の暴風のような進撃を前面に出して敵を一当百するのに上手な彼に、山というところは本当にぞっとした。

馬に乗っていたら、もう少し戦えるかも知れないが、参加者たちに武器さえ渡さなかった帝国の上層部が馬を手放すと考えるのはただの純真で愚かな考えに過ぎなかった。

この募集を主導したレストリア帝国軍徴兵団はただ飢え死にしないほどの食糧を提供しただけで、まともな寝床さえ人数に合わせて準備してくれず、毎夕方ごとに「椅子奪いゲーム」が繰り広げられた。 もちろん毎日参加者が減ったが、まもなく兵舎や食糧の移動に志願した「補助戦闘員」さえ死んだり逃げたりしたためについてくる「椅子」も減った。

事実、馬があったとしても、この険しい山脈で自分の威力を発揮することを期待することはできなかった。 騎兵のカウンターが山であることは、戦争の空気を少し吸ったことがある誰もが知ることができた。

彼が乗っていた龍馬は一般的な馬よりも山にもっと脆弱だった。

どっしりとした体と巨大な馬蹄は、山で足の踏み場を見つけにくく、水平的な移動である突進の専門家である動物にとって、垂直的な移動である山登りは、それ自体で大変なことだった。

龍馬が馬の機能がさらに特化した動物であるだけに、馬の弱点にさらに脆弱なのは自明な事実だった。

世の中に弱点のない動物なんて存在しない。

ただし···「一つの動物種」を除けば。

シフルとレウグートが残った食糧を分けて食べているちょうどその時、遠くで怪声が聞こえた。

二人の男は耳をつんざくようにし、それぞれの武器を用意した。

「また来るんですね。」

「でもこの音は…」

不安な感じが襲ってきた。

怪物たちとの戦いに特化した冒険家出身だったシフルは、怪物が突き出す音を聞いてその正体や戦闘力を計ることができた。

鑑定耳を持ったわけではなく、ただ経験に依存した感覚なので正確度はおよそ70%程度。

そんな彼に今の怪声は···

「早く逃げよう。」

そのらしくない反応だった。

死を選択する性格ではないが、一度会えば正面から死を突き抜けて生存の道を開く彼だった。

広い平野での大規模な戦闘ではなく、怪物が乱雑に出没する山での戦いなら、レウグートより二·三手は上だった。

実際、レウグートはこの山に登る間、いつも彼に命をかけた。

もちろん、レウグートも一生武器を振り回してきた者で、新しい環境、新しい方式の戦闘を何度も行う間、次第に感覚を身につけていたが、依然として一人で山脈で生存するほどではなかった。 数十年を積み重ねてきた経験と比べると、たった数日間の「体験」程度は、ただないよりましな水準だった。

そのため、レウグートはシフルを全面的に信頼した。

初めて公告文を受け入れて見せた反応を見て「傭兵である主題に命を惜しむ筆部」などと考えた自身を心の中で叱責した。

レウグートが今まで命綱を握っていた理由は、すべてシフルのおかげだからだ。

シフルが逃亡を選んだのは他に方法がなかったからだろう。

シフルが怪物を相手に逃亡の代わりに正面突破を選ぶ理由は、彼が喧嘩狂だったり、実力に度を越してに自信のある傲慢な者だからではなかった。

このような荒れた地形では進むより逃げるのがもっと大変だ。

意志を持って進むより、すべてを後ろに任せて走って逃げた方が事故の危険性が大きかった。

その過程で致命傷でも負えば、まともに戦うこともできず、怪物に体を渡すしかない。

そのため、山岳での戦いに関する限り、専門家だったシフルはなかなか逃げを選ばなかったのだ。

ところが彼が逃亡を選んだということは、今聞こえた音の主人公が逃亡中にひっくり返って食べられようが、正面突破でまともに戦って食べられようが、時間に大きな差がないほど強い生命体だということだ。

レウグートがこのようなことを全て理解したわけではなかったが、この山にある限りシフルの決定は絶対的だった。

ただ···遅すぎた。

二人の男が道を変えて数歩を走っていた彼らの頭の上に、巨大な影が現れた。

夜明けのかすかな陽光を浴びながら姿を現したそれはまさに···

赤い肌と白いお腹を持ったドラゴンだった。

長い経験と山岳での戦いほどならついてくる者のいないシフルも、

一生を戦場と野生で暮らし、度胸だけは自信あるレウグートも、足も、意識も、思考も止めざるを得なかった。

「飛んでくると分かっていたら、いっそのこと体力を使わない方がよかった…」

赤龍は彼らを通り過ぎて飛んでいくかと思ったら、方向を変えて飛んできてそのまま地面に座った。

巨大な体がそこにあるすべての石と木を打ち砕いた。

シフルの剣とレウグートの斧がそれを狙っていた。

「子孫よ」

そこから男性の声が聞こえてきた。

驚いた。

レウグートはそれを動物だと思った。

ただ虎や先ほど処置したメッシュイーターのような、ただ人を食べようとしている怪物に過ぎないと。

人間の言葉が話せるとは、いや、少なくとも知性体だという考えさえできなかった。

「子孫…?」

「そうだ。君は龍の血を引く『龍の子孫』じゃないか」

本当だったの?

レウグートは、この名前がただおしゃれのために作った部族名に過ぎないと考えた。

その草原には「龍の子孫たち」だけでなく、獅子不足だとか、オオカミ不足だとかいう名前が数えきれないほどたくさんあった。

本当に竜の子孫だという考えは伝説としか思わなかった。

本当に竜が人間と繁殖をして生んだ者たちだとは···

ここまで来たら、もしライオン不足、オオカミ不足も···いや、その考えはこれ以上してはいけないことだ。

「食事をしに来たのではないですか?」

レウグートは注意深く尋ねた。

レウグートにしてはかなり丁寧な言い方をした。

いや、山賊であれ、酒に酔った傭兵であれ、生意気な軍団体であれ、世間知らずの皇帝であれ、この生命体の前で言葉遣いが丁寧にならない者はいないだろう。

さらに自分の先祖格だと思うとなおさら

「ハハハ。余が子孫を食べるはずがない。 うれしくて出迎えただけ。 余はこの山から何峰の向こうに住み着く、火山龍王系のタリキロンだ」

「じゃあ、俺は?」

シフルが尋ねた。

「自分の手の友達を食べるはずもないじゃないか。 君たち、いったい龍を何だと思っているのか。」

「…捕食者?」

「子孫よ、本当に度胸のある者だな。 捕食者の前でそんなことが言えるとは」

シフルはレウグートを叱責する目で見た。

「龍は世界で一番の知性体である。 食べ物と食べないものの見分けがつかない獣扱いはしないでくれ。」

「…すみません。」

「君はここに何をしに来たのか?」

本当のことを言った。 レウグートの偏見かもしれないが、この「先祖様」が偽りを告げて見つかる日にも穏やかな性格を維持しそうになかった。

それに、なんとなく自分の心に目を通しているような気もした。 他の生物でもない「ドラゴン」なので、そのような能力が一つくらいあってもおかしくはないと思った。

「そうか。それなら帰ってくれ。 すでに戦争は終わった。」

タリキロンはレストリア軍の攻城戦が失敗したことを、軍団体パチェスの乱入とバベルの塔「シリウス」攻撃発動によりレストリア帝国軍が大隊長一つを失って退却したことを知らせた。

レストリア帝国とユーシリア帝国との戦争はほぼ毎年起こる。 戦争が起きない年は、むしろ人々が皇帝の獄体に異常が生じたようだと心配するほどだった。

そのため、攻撃を加えて失敗すれば、1年後に再び攻撃する単発的な戦闘が起きるだけだった。

事実上、祝日同然のイベントだった。 もちろん、命が分かれる名節であることが問題だが。

「でも…」

「帰り道が心配なのか?」

山を下ることだけを言うのではなかった。

傭兵団は、実は傭兵が生きて帰ってくるのを嫌がった。

傭兵が死んだら100金貨をごくりとして、そのうちいくつかを遺族たちに投げれば十分だが、生きて帰ってくれば50金貨、それもその本人が直接受け取りに来る。

そのために生きて帰っても「生きて帰ってきたこと」として扱わずにそのまま死亡したと帝国に報告した後、生存者傭兵に刺客を送ることが多かった。

また、傭兵を押し込んで陽動作戦を繰り広げようとする帝国政府も、彼らが戻ることを公式に禁止しており、遠征に参加した 帰ってきたことが見つかると「軍令離脱罪」で斬首した。

率直に言って、この攻撃に参加したということ自体が傭兵としては死にに来たも同然だったのだ。

シフルもレウグートもその事実を知っていた。

ただ、レウグートは自分の部族が自分を追放した時点で、家族も友達もなく、喧嘩屋として生きていく人生が息苦しかったし、

シフルはそんなレウグートを守ってあげたかっただけだ。

「それなら君たちに適したところがある。 いや、君たちが、龍の子孫が行くべき所がある。」

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大砲が完成した。

木車の上に乗った黒の円筒。

自分が知っていた大砲の姿そのままだった。

初めて見る物に市民たちは戸惑ったが、「皇帝陛下の新しいおもちゃ」という考えさえしていた。

大砲の射撃のための新しい空間も作った。

新しい兵器体系を外部の誰かが見られないように隠したかった。 これはアウグストゥスの「龍馬」だった。

大砲の弾幕に魔力を吹き込もう···

「バン!」という音とともに黒い鉄球が飛んでいった。

爆発する弾ではないが、物理的な衝突によって玉が壊れて破片になり、衝突による煙が起きた。

「パチパチ」という声が鍛冶屋、アマテリンヌ、そしてエイヘリアをはじめとする高位官僚たちから溢れ出た。

実際、彼らは大砲が大したものだとは思わなかった。 龍族と龍人たちが使う魔法なら、この程度の威力は十分に出すことができた。

彼らが称賛するのは「大砲」ではなく「大砲を作り出した皇帝陛下の業績と才能」だったのだ。

そしてアウグストゥスもこの品物がそこまで戦闘に役立つとは思わなかった。

リーフロック城にこの物が配置されていたら、ただののっぺりと鉄の玉をいくつか投げて、レストリア帝国軍の魔法や騎馬兵によって撲殺されただろう。

レストリア帝国軍がこの物を持っていたとすれば発射された鉄球は全て「チェーンキャッスル」によって発動された防御陣に遮られ、次の弾を準備する間に捕手は矢に当たってハリネズミになったり猛獣の餌食になっただろう。

重要なのはこの品物そのものではなかった。

この物が意味することは、「地球の武器体系をここの技術で具現できる」ことだった。

それなら、アウグストゥスが自分の世界から持ってくるようなものはいくらでもあった。

戦車、戦艦、戦闘機、ミサイル、そして最も強力な兵器核爆弾まで。

「君たちが余に君たちの世界を教えた授業料で、余は余の世界を教えてやる。」


武器体系の発展が全てではなかった。

改善すべきことは、経済、社会、行政、文化、外交などいくらでもあった。

エイヘリアが世話をすることを禁止させた理由があったのだ。

彼女は将来、帝国の発展のために知識のない知識を総動員しなければならないだろう。

食事車を運転している時間はなかった。 彼女の頭にある井戸から知識を汲み上げる時間も手に余るだろうから。

戦争は軍隊と戦うのではなく、国家と戦うのだ。

敵国の国民がカブだけを食べて冬を過ごすようにするのが戦争だ。

戦争の終結は、こちらの軍隊ではなく、疲れた国民によって行われなければならない。

その一方で、自分の国民はステーキを切って戦争を見物する立場にしなければならない。

自分たちが戦争をしているのではなく、ただ面白い映画を見ることに過ぎず、この映画が終わるのが残念な感情を植えつけなければならない。

そのためには、ただ強い軍隊だけが必要なのではなかった。

大砲の構成が砲身と砲弾だけでないように、この帝国も行政という名の車輪がついて転がらなければならない。 経済という名の潤滑油を撒かなければならない。

近代的な意味の地域の区分さえかすかなこの未開地域が総力戦を後押しできる車輪になるためにすることは、中央火山ほど高く積まれている。

戦争が国家運営の究極的な目標ではないが、国家運営が戦争だけのために動く状況も想定せざるを得なかった。

また、戦争を避けようとする努力も必要だった。

他人から見ると、この帝国が斧を振り回す野蛮族ではなく、美しさ、顔と体つきを持った知的な女性として見えなければならない。

野蛮族に振り回される暴力と優しい女性に振り回される暴力は、外部から見るとあまりにも違うからだ。

だからこそ、文化と外交が必要なのだ。

外見が全てではないが、立派な外見はきらびやかな文明の象徴だ。

アウグストゥスは自分の宮殿を別に建てることを厳禁したが、それは経済力を確保するためのものに過ぎなかった。

アマテリンヌが望む皇帝宮は、ヘパイスポスルーム以上の規模だった。

そのような建物を建てるお金なら、平凡な大きさの摩天楼を数千個は作ることができる。

アマテリンヌがそのお金をどのように確保するかは疑問だが、おそらく魂まで絞り出して龍仁のお金を捧げるようにするだろう。

今、国庫にそんな金などないということをすでに見た。

その建物を建てるためにも、今は建設を中断しなければならない。 このような中世の村よりは、デラメールのような都市がこのドラゴンズネスト全体を占めるような富国が、巨大な建物を建てるお金も簡単に作り出すだろう。

長い歳月を生きてきたアマテリンヌが、なぜそのような道理に気付かないのかが疑問に過ぎなかった。

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ハエ宮殿のあった場所。

醜い宮殿は見えず、数え切れないほど多くの恐ろしい怪物がいっぱいになっていた。 正体を知りたくもない嫌な何かがいっぱい混ざった液体が川になって流れた。 透明でなければならない空気さえ、何かを描写するのが難しい気持ち悪い色をしていた。

虫のようでもあり、獣のようでもある知性のない何かが集まって食事を楽しんでいた。

弱い悪魔の肉体と来世を適時に訪ねることができなかった愚かな人間の魂がいっぱい並べられた食卓をハエ大王の子供たちがいっぱい覆っていた。

外見さえ統一されたものが一つもない彼らが同じ者の子供だということに驚くが、彼らは各自のやり方でパーティーを楽しんでいた。

食べるだけではなかった。

栄養素をたくさん摂取した者たちの殻紋から何かが出て地面に落ちた。

そして、その中からうごめく影ができて、すぐに表皮を割って出てきたり、それ自体に小さな糸が生えてあちこち歩き回っていた。

彼らは自分を産んだ親と同じものを食べて驚くべき速度で膨らみ、すぐに自分を産んだ後に殺害した。

このような過程は絶えず繰り返され、かなり規模があったハエ宮殿跡はもちろん、ベルゼブブの領域の大部分を占めた。


「時が来た。 息子よ。」

尊い主君ベルゼブブは静かにささやいた。

これは、ここにいる誰かではなく、頭の中に浮かぶ者を指して言う言葉だった。

そして······宇宙で彼の遺伝子が宿った生命体をすべて連結した後··

「そこにいたんだ」

息子を捜し出してしまった。

息子が今何をしているかは分からない。 位置を知っているだけ。

しかし、彼が今何をしても、この父親の元に戻ることより急を要することがまたあるだろうか。

彼はおそらく今、自分を必死に探しているのだろう。

自分を拉致した天使たちを憎んで、父の名前を呼んでいるはずだ。

そう思うと、またもや心の中で涙が込み上げてきた。

自分のこのような感性を、さぞかし息子も共有しているだろう。

彼を取り戻したら、親子の縁を断ち切ろうとした天人功労する天使たちと同族の悲しみを利用して、自分の汚れた腹を満たそうとした悪魔たちを屠殺して彼に食べさせるだろう。

自分を食べようとしたのが過ちではなかった。

それは悪魔が当然すべきことだった。

しかし、自分の大切な子供を食べようとしたのは、親として当然に懲らしめなければならないだろう。

やがて彼は自分の正義を実現するために、邪悪な者たちを待っている正当な戒めを意志に刻み、自分を切なく探している息子の位置を思い出し

巨大な地獄魔法陣を展開するのだった···

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