第31話 それは不健全じゃないのか?

「ん? 何を持っているのおみぃ?」


 角の生えた人型の健全獣が、白い本のようなものを持っているようだ。


「これかピィ? 不健全生物どもの巣で見つけたものだピィ」


 なら、あれは不健全な本なのか。


「なんでそんなものを持っているのもん?」


「これと同じようなものを、不健全生物どもが大事そうに持っていたから見てみただけだピィ」


 健全獣が不健全な本を見たのかよ!?


「ちなみに、どうだった?」


「白いだけだなピィ」


 角の生えた人型の健全獣がそう言って、本を投げ捨てた。


 不健全な本を見ても、何も感じないのか。


 こいつと分かり合うことはできなさそうだな。



 角の生えた人型の健全獣が立ち上がった。


 身長四メートルくらいありそうだ。


「さて、不健全生物どもを排除するとしようかピィ」


 角の生えた人型の健全獣がそう言った直後、俺に向かって突進して来た。


 速い!?

 避けられない、防御を!?


 俺は穴を掘る魔法の腕を交差させた。


 その直後、全身に衝撃が走った。


 どうやら蹴られて、数メートルほど吹っ飛ばされ、ガレキにたたき付けられたようだ。


「親父ぃ! 無事かぁ!?」


「あ、ああ、なんとかな……」


 あいつ、いままでの健全獣とは一線を画す強さだな。



「くっ、アニキのかたきでげすぜっ!!」


「これをくらいなさいめっきゅっ!!」


 他のみんなが、角の生えた人型の健全獣を穴を掘る魔法のつるはしで攻撃しているが、たいして効いてなさそうだな。


 あいつ、防御力も高いのかよ!?


 とんでもないヤツだな!?


 あと、ウィンドウさだ

 俺は死んでないぞ!!



「シンヴォルオースノ、エネルギーの補給は?」


「まだ終わってねぇぜぇ!」


「魔法は使えないのか?」


「使えるが、エネルギーが足りねぇから、あまり威力は出ねぇぜぇ!」


「そうか。なら、回復してくれ」


 痛くて動けないからな。


「了解だぜぇ! カイフクショウぅっ!!」


 えっ!?

 剣にならなくても使えるのか!?


 うわっ!?

 なんかアソコから水が出ているぞ!?


 これじゃあ、おもらししたみたいじゃないか!?


 勘弁してくれよ!?



 生温かいものが、俺の全身を包み込んでいく。


 これが回復魔法なのか。


 気持ち良いような、悪いような、複雑な気分だな。



「おっ、体の痛みが取れた」


「どうやら効いたみてぇだなぁ」


「ああ、そのようだ」


 すごいものだな。



「さあ、親父ぃ! あいつをぶっ倒そうぜぇ!!」


「ああ、そうだな!」


 まずは不健全なことを考えてと!


 よし、いくぜっ!!


 俺は穴を掘る魔法のつるはしを剣型シャベルに変えた。


 そして、角の生えた人型の健全獣に一気に接近し、足目掛けて渾身の突きを放った。


 だが、身を翻され、回避された。


 次の瞬間、角の生えた人型の健全獣の蹴りが迫ってきた。


 俺は横に跳び、なんとか回避した。



「ちっ、ちょこまかとうっとうしい不健全生物どもだピィ! これならどうだピィ!」


 突然、角の生えた人型の健全獣の股間のあたりから、白く長いむちのようなものが生えてきた。


「な、なんだそれは!?」


「見ての通りの尻尾だピィ!」


「いや、なんで前から出てるんだよ!? そこから出したんじゃあ、尻尾にはならないだろ!? 股間尾こかんぽじゃないのか!?」


「細かいことは気にするなピィ!」


「細かくないだろ! それに、そこから出すのは不健全じゃないのか!?」


 雄のシンボルのように見えるぞ!!


「そんなわけないだろピィ! 我は健全だピィ! くらえ、不健全生物どもピィ!!」


 角の生えた人型の健全獣が股間尾を振り回してきた。


 俺は後退して、どうにか回避した。



「逃げるのだけはうまいなピィ! ならば、こうだピィ!!」


 股間尾が二本追加された。


「まだ生えるのかよ!? 不健全だぞ!!」


「やかましいピィ! 死ね、不健全生物どもピィ!!」


 角の生えた人型の健全獣が三本の股間尾を自在に動かし、攻撃してきた。



 くそっ、攻撃が激しすぎる!?


 避けるので精一杯で、攻撃できない!?


 こんなのどうすればいいんだ!?


「こんなんじゃあ、勝ち目がないよおみぃ!」


「ここはいったん退くべきねめっきゅ!」


 だが、逃げられるのだろうか?


「逃がすわけないだろピィ!」


 まあ、そうだろうな。



 さて、どうするか?


「親父ぃ! ここは俺ちゃんに任せておきなぁ!!」


 えっ!?

 何か手があるのか!?


「分かった! 頼む!!」


「おっしゃぁっ! いくぜぇ!! フンムショウぅっ!!」


 シンヴォルオースノがそう叫んだ直後、俺のアソコから黄色い霧状の何かが噴射された。


 なんじゃこりゃぁっ!?



「くっ!? なんだこれはピィ!? おのれっ、不健全生物どもめピィ!!」


 黄色い霧状の何かが、角の生えた人型の健全獣を包み込んだ。


「どうやら私たちが見えなくなったみたいだねもん」


「こっちからも、よく見えないけどねおみぃ」


「いまのうちに逃げましょうきゅひゃ!」


「ああ、そうだな! みんな、行くぞ!!」



 ロォエ・ンーホの近くにある森の中にやって来た。


「ここまで逃げれば大丈夫かな?」


「多分そうなんじゃないのめっきゅ」


「あいつ、どうしようかもん?」


「援軍が来たら、どうにかなるかなおみぃ?」


「どうなんでしょうかねきゅひゃ?」


「アニキ、我輩に名案があるでげすぜ!」


「なんだそれは?」


「これでげすぜ!」


 えっ!?

 それは!?

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