第4話 脱走するしかない

「なんでそんなところにいるんだよ?」


「そこは分からないでげすぜ。我輩が気が付いた時には、家から連れ出されていたでげすぜ」


「そうなのか。なんでいきなりそんなことをしてきたのだろうか?」


「アニキが修行していたせいでげすかね? 教団には、不健全なことを考えている人間を探し出せる何かがあるのかもしれないでげすぜ」


「なるほど、あり得るな。そして、捕らえた人間を健全にしているというわけだな」


「最悪、処刑している可能性もあるでげすぜ」


「なんという悪の組織! 早く潰さなくては!! 行くぞ、ウィンドウさだ!!!」


「静かにするでげすぜ、アニキ。行くって、どこにでげすか?」


「当然、ここの親玉のところだ。ぶっ倒してやるぜ」


「アニキ、戦えるんでげすか? 戦闘訓練はしたんでげすか?」


「まったくしてない」


「なら、無謀すぎるでげすぜ。ここには信者がたくさんいるでげすぜ。退いた方が良いでげすぜ」


「くっ、仕方ない。そうするか」


「じゃあ、どうやって逃げるか考えようでげすぜ」


「そうだな」


 周囲を見回してみた。


「窓から出られそうだな。ウィンドウ貞、ちょっと外の様子を見てくれ」


「了解でげすぜ」



「ここは二階みたいでげすね。正面には町が見えるでげすぜ。下は庭になっているみたいでげずぜ」


 なら、そこからは出られないか……


「見張りは…… 見える範囲にはいないでげすぜ」


「そうか。なら、どうするか?」


「アニキ、我輩に乗って脱出するでげすぜ」


「そんなこともできるのか?」


「多分なんとかなるでげすぜ」


「よし、なら、それでいこう」


「了解でげすぜ」



 大きくなったウィンドウ貞に乗ってみた。


 こいつ、かなり硬いんだな。

 座り心地は、あまり良くないな。


 表面がツルツルだな。

 落ちないように気を付けないと。


「よし、乗ったぞ。ウィンドウ貞、大丈夫か?」


「問題ないでげすぜ」


「では、出発だ」



 窓を開けて、外に出た。


 そして、アジトから離れた。


「簡単に逃げられたな」


「アニキをただの赤子だと思って、油断していたに違いないでげすぜ!」


「はっはっはっ、間抜けな連中だな!」



「アニキ、このあとはどうするでげすか?」


「うーん、そうだなぁ。家に帰ろうか…… いや、そんなことをしても、また捕まるだけだよな」


「そうでげすね」


「なら、どうするか?」


「教団の連中がどこにいるか分からないでげすから、とりあえず、町を離れた方が良いかもしれないでげすぜ」


「ああ、そうだな。じゃあ、適当に進んでくれ」


「分かったでげすぜ」



 山の中腹にやって来た。


「アニキ、あそこに洞窟があるでげすぜ」


「拠点にできるかもしれないな。ちょっと中の様子を見てみよう」


「了解でげすぜ」



 洞窟の中に入った。


「なんだここは? なんでこんなに明るいんだ?」


「壁や天井に白く光る鉱石みたいなのがあるでげすぜ」


「変なところだな」


「そうでげすね。どうするでげすか、アニキ?」


「とりあえず、奥まで行ってみよう」


「了解でげすぜ」



「結構、深くて広い洞窟だな」


「そうでげすね。おっ、あそこが最奥みたいでげすぜ」


「そうだな。ん? なんだあれは?」


 黒い木の板のようなものが宙に浮いていた。


 大きさは長さ三〇センチくらい、幅五センチくらいだ。


「黒い木の板に見える、なんで浮いてるのか分からない怪しい何かでげすね。どうするでげすか、アニキ?」


「調べてみよう。あれに近付いてくれ」


「危険じゃないでげすか?」


「危険なことを避けてばかりでは、成功できないらしいぞ」


「分かったでげすぜ」



 木の板に近付き、指で突いてみた。


 感触は木の板と変わらない気がする。


 これはなんなのだろうか?


「あら? そこに誰かいるのめっきゅ?」


 突然、木の板の方から、女性のような高い声が聞こえてきた。


「えっ!? 木のいたがしゃべった!?」


「こいつは驚いたでげすぜ!」


 ウィンドウ貞が、それを言うのか!?

 まあ、どうでもいいけど!


「あら? 木のがしゃべって驚なんて、なかなか面白いダジャレねめっきゅ!」


「ええっ!? いきなり何を言っているんだよっ!?」


「くだらなさすぎるでげすぜ!」


「なっ、何よめっきゅ!? あなたたちが言ったんでしょめっきゅ!?」


「言ってないだろ!?」


「そうでげすぜ! 言ったのは、そっちでげすぜ!」


「違うわよめっきゅ! 言ったのは、あなたたちよめっきゅ!!」


「いや、そっちだろ!!」

「いやいや、あなたたちよめっきゅ!!」

「いやいやいや、そっちでげすぜ!!」

「いやいやいやいや、あなたたちよめっきゅ!!」

「いやいやいやいやいや、そっちだって!!」

「いやいやいやいやいやいや、あなたたちの方よめっきゅ!!」

「いやいやいやいやいやいやいや……」

「いやいやいやいやいやいやいやいや……」

「いやいやいやいやいやいやいやいやいや……」

「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや……」



「って、そんなのどうでもよくないめっきゅ!?」


「そうだな!」


「もっと有意義な話をしようでげすぜ!」


「そうねめっきゅ!!」



「ええと、あんたは何者なんでげすか?」


「あら? 聞きたいのめっきゅ?」


「あ、ああ、教えてくれ」


「仕方ないわねめっきゅ! 教えてあげるわめっきゅ!! 私はなんと……」


「なんと?」


「なんと、なんと、なんとぉぉぉぉぉっ……」


「もったいぶらずに、さっさと言うでげすぜ!!」


「ええ~、良いじゃないのめっきゅ!」


「早く言えでげすぜ!」


「はぁ、仕方ないわねめっきゅ。私は『魔導木簡まどうもっかん』の『メイキュ・ウイッチョー』よめっきゅ」


 魔導木簡まどうもっかん!?


 迷宮一丁!?


 なんじゃそりゃぁぁぁぁぁっ!?

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