こうくんの花だん

風雅ありす

第1話

 こうくんは、しゃべることが苦手だ。

先生や友だちが話しかけると、赤い顔で、と切れと切れにしゃべるものだから、何を言っているのか分からない。

前に、ぼくがこうくんをオニごっこにさそったら、なぜかおこって、にげてしまった。

走るのがおそいからかもしれない。


 こうくんは、上手くいかないことがあると、足をふみならしておこったり、ものをなげてこわしたりしては、先生にしかられている。

ぼくは、こうくんがあまりすきではない。

だって、こうくんが何を考えているのか分からないからだ。


 ある日、ぼくは、友だちのあゆちゃんがこうくんといっしょにいるところを見かけた。

 あゆちゃんは、しくしくないていた。

 ぼくは、かっとなった。


「やめろよ」


 ぼくは、こうくんがあゆちゃんをなかせたのだと思って、こうくんをつきとばした。

 こうくんは、ぼくを見てびっくりしていたけど、すぐにおこって足をだんだんふみならした。

とっ組み合いのケンカになった。


 あゆちゃんが「きゃー」とさけんで、すぐに先生たちがかけつけた。

どうしたの、と先生がぼくたちを引きはなしてから聞いた。

でも、ぼくは、むかついてことばが上手く出てこない。

あゆちゃんは、ずっとないている。

こうくんは、ずっとおこってあばれていた。


 先生たちがこうくんをどこかへつれて行った後、あゆちゃんがぼくに言った。


「ハンカチをなくしちゃってないていたら、こうくんがいっしょにさがしてくれるって」


 なんてこった、ぼくはとんでもないことをしてしまった。

ぜんぶぼくのかんちがいだったのだ。

ぼくは、こうくんにあやまろうと、こうくんをさがした。


 こうくんは、学校の花だんの前にいた。

一人でぽつんとすわって、画用紙に絵をかいている。後ろからこっそりのぞいて見たら、チューリップやなの花、パンジーがきれいな色でぬられている。


 ぼくは、おどろいた。

その絵がとても上手で、小学生がかいたとは思えなかったからだ。


「絵、すごく上手だね」


 こうくんがおどろいて顔を上げた。

ぼくと目が合うと、ぱっと顔を赤くして、画用紙をかかえたまま走って行ってしまった。

 しまった、話すじゅん番をまちがえた。


 つぎの日、ぼくは、こうくんにちゃんとあやまろうと、こうくんの後をついて行った。

 でも、いざとなると、なかなか話しかけるゆう気が出ない。


 こうくんは、トイレの後、ちゃんと手をあらってハンカチで手をふいた。

ぼくもついでにトイレへ行って、手をあらった。

 でも、ハンカチをわすれて、ズボンでふいた。


 こうくんがろう下を歩いていると、ゴミがおちていた。

ぼくなら、そのまま通りすぎちゃうのに、こうくんは、ゴミをひろって、ゴミばこにすてた。


 さいごにこうくんは、がっこうの花だんへ行った。

そこで、校長先生といっしょに、お花にお水をあげたり、ざっ草をぬいて、ひりょうをまいていた。

 そこには、ぼくが水をやるのをわすれていたチューリップの花もあった。

 ぼくは、なんだか自分が小さくなった気がして、そのまま帰ってしまった。


 またつぎの日、ぼくがこうくんにあやまるのをあきらめようかと思っていたら、じけんがおきた。

 学校の花だんがだれかにふみあらされていたのだ。

 そして、その花だんの前で足をだんだんふみならす、こうくんのすがたがあった。

 クラスのみんなは、こうくんが花だんをあらしたと思って、おこっていた。


「ちがうよ、こうくんはそんなことしない」


 ぼくは、思わずさけんだ。

こうくんは、花だんをだいじにしていた。

こうくんは、きっと、花だんがあらされているのを見て、おこっているだけなんだ。


 みんなにせめられて、こうくんは、顔をまっ赤にしながらおこっていた。

ほんとうは、じぶんがやったんじゃないと言いたいのに、上手くことばが出てこないのだ。

 その気もちは、ぼくにもよく分かった。


「あ、ここに犬の足あとがある」


 あゆちゃんが見つけた足あとをおうと、一匹のノラ犬を見つけた。はんにんは、ノラ犬だったのだ。

 そのあと、みんなで花だんをきれいにした。


「こうくん、ごめんね」


 ぼくとみんなは、こうくんにあやまった。

そのとき、ぼくは、はじめてこうくんのわらった顔を見た。



 終

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こうくんの花だん 風雅ありす @N-caerulea

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