〜第1章〜 第5話 淡々諸々

 鼻息を荒くしこちらに走ってくる。


「やばいっっ」


 私は剣を手にしてすぐさま回避行動に出た。一瞬にして焚き火が散り散りになって炎が鎮まる。


「なんだなんだ。ま、まだ剣捌きも知らないんだ。やめてくれよ…」


 そんなこといっても相手は魔物。言葉は理解できない。

 立派な剣は現状ただの護身用と化している。ローダさんがカバルーは攻撃が弱い、と言ってもそこそこのスピードで焚き火へ突進してきた。これは倒さないとまずいか…

 そんなことはつゆ知らず、カバルーは方向転換しまたこちらに向かってくる。


「っっあ!」


 向かってくるカバルー目掛けて、初めて剣を振りかざした。慣れない剣捌きで若干たじろいたが意のままにカバルーの首元にヒットした。

 この一撃が効いたのか、特有の悲鳴を上げながら真横で倒れた。


「やったか…」


 10秒ほどだろうか。ピクリとも動かないのを確認して一気に脱力して剣を杖にしゃがみこんだ。

 額から脂汗が滲み動悸が止まらない。


「ふぅ、ふぅ、ふぅ…」

 

 息を整える。


「どうしよう。そのままにしておくのも嫌だし…豚とか解体したこと無いしなぁ…」


 そう。処理に困った。こんな魔物を倒す経験をしたことが無いからこの後の流れが掴めない。

 かと言ってそのままにしておくと何となく嫌だし他の魔物がエサと認識してやってくるのが一番恐ろしい。


「仕方がない。解体…するか…」


 魚をまともに捌いたことがない私は包丁代わりに剣を手にとり、まずは頭を切り落とす。血抜きをしなければならないと思った。


「血生くさっ!」


 どうも苦手な血のにおい。嗅ぐだけで気分が悪くなる。

 やっとの思いで切り落とした頭。さすがはローダさんが作り上げた剣、切れ味が良い。

 身体の解体にうつる。身体の真ん中を首元からお尻に向かって小刀で切っていく。

 滴る血と、変に緊張して流れる脂汗…そして…


「…ごめん、もう無理だ!まずひとりで夜中にやることではないわ!カバルーには申し訳ないけど、もうどうしようも出来ない!」


 一気に緊張の糸がはじけた。

 そう、私は諦めた。

 諦めた瞬間、次の行動が早かった。


「よし、テントの撤収OK。忘れ物…無し」


 私はものの1分で荷物を纏めて他の魔物が来る前に足早にその場を去った。月明かりを頼りに数百メートル先の木の下へ向かった。


「よいしょっと。設置完了」


 テントの設営を終わらせると、とにかく疲れですぐ横になって眠りについた。気づいたら眠ったようである。


「ん…朝か…」


 昔から朝に弱いが自然光には勝てない。

 全身の血の巡りを良くして、暫くして立ち上がりテントの片づけ、荷物の整理を行い出発する。


「今日こそ着かないとまずいなぁ」


 そう自分に言い聞かせながらこの場を後にした。

 暫く道なり歩くと、目の先には大きな城壁がそびえていた。私は一心不乱になりながらも足を走らせた。

 城壁入口には入国するための関所が見える。比較的空いている印象があった。


「ようこそミネルヴァ帝国へ。目的をお聞かせください」


 若い門番が私に声をかけた。


「えっと、この街のギルドに用があるんです」


「なるほど、わかりました。ごゆっくりしていってくださいね!」


「あ、はい!ありがとうございます!」


 あっけなく通してくれた。これでいいのか?拍子抜けし、驚いている暇も無く私は歩いた。


 ミネルヴァ帝国。ギルドと貿易が盛んな街だ。路面店には新鮮な野菜、果物、穀物。肉に魚も売っている。

 街の中央には女神のようなモニュメントと噴水があり大きな公園のようだ。

 その街の中央から少し中入ったところに、「ミネルヴァ帝国地区ギルド本部集会所」がある。ようやく目的地へ着いた。

 中は広々していて1階左手にクエストボード、右手に受付、中央には酒場、2階に簡易宿屋がある。私はまず受付へと向かった。


「すみません、初めて来たのですが」

 

「はい!こんにちは!初めての方ですね!私はここの受付を担当しています、クレナと申します!でしたら、まずはギルド就業許可証を発行しますのでこちらに必要事項をご記入ください!」


 なるほど、許可証を作らないとダメなのか。名前は…うん、ハルト・アヴェでいこう。それとランクとはなんだ?


「このランクってなんですか?」


「ランクによって受注可能なクエストがわけられます!ご自身のランクはご存じ…ですかね…?」


「すみません、なにもかも初めてなもので…」


「ならランクを計測してみましょう!私の手を握ってください!」


 なんだろう、そう言われて鼻の下が伸びた自分がいる気がする。私は受付お姉さんの言う通り手を握った。

 クレナさんがもう片方の手で一枚の茶紙にあてた瞬間、茶紙から不思議な光を放った。


「ふぅ…終わりましたよ!これで現在のランクがわかりました!あ、手は離して大丈夫です…」


 なんて事だ。私らしからぬ、ついずっと手を握っていたままにしてしまっていた。ちょっと気恥ずかしい…。


「ハルト様はランクDです!能力的には極めて普通となります!」


 なるほど、極端に強くもなく、極端に弱くもない。こういうのは基本極端に強い!とかではないのか。変に期待して損した気分だ。


「そ、そうですか…。ところでランクはどのような構成なのですか?それによって受注できるクエストを教えてもらっていいですか?」


「はい!ランクは上からS、A、B、C、D、E、Fとなります!ハルト様はランクDなので下位クエストはもちろん、一つ上のランクCクエストも受注可能です!また、ランクアップは一つ上のランククエストを10個連続でクリアしないと試験ができませんので悪しからず…」


 なるほど、そう言うシステムなのか。ランクアップは一つ上のクエストを10個連続クリアで試験を受けることができないということか。せっかくだしランクはあげたいけど、今の最優先すべきことは入学金のため。仕方がない…


「なるほど、説明ありがとうございます。話変わるんですけど、モンターニュ公国のディアフォース学園の入学金とかってわかります?専門外で大変申し訳ないんですが…」


「あわわっ!確かに専門外だし国も違いますが…。調べてみますので少々お待ちください!」


 クレナさんに悪いことしたなぁ…でも情報仕入れるならここしかないし…

 5、6分待っただろうか。


「ハルト様!お待たせいたしました!入学金は100,000ダルとなっているみたいですね!」


 おっと、100,000ダルとは思わなかった。




 




 


 


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