〜第1章〜 第4話 準備万端

 それから2日日にちを要した。またマニの宿屋にお世話になるとは。


「ほんとに今日でお別れなの〜?」


 名前も覚えてしまったが、マニアイビーさんが人差し指で机をくねらせながら言った。


「はい、本当にお世話になりました。私には目標がありますから。頑張ります」


「それは仕方がないわねぇ。いつでも来るのよ?待っているから!それと…これ、持っておゆき!」


 マニさんがサンドイッチ2個と木筒でできた水筒?みたいなものをくれた。


「いいんですか?遠慮なくいただきます!ありがとうございます!」


 そう言って、宿屋を後にした。ローダさんの鍛冶屋へ向かう。


「おお、ぼうず!ちょうど仕上げも終わったとこだ!」


 ローダさんの手元には見違えるほどの立派な剣があった。


「こりゃ大変だったぞ。新しい合金を、もとの下地にうまく繋ぐのは難しくて骨が折れる。下手したら折れたりまったく使い物にならないからなぁ。ロイスのオリジナルを極力変えずに仕上げた。そしておまじないもかけておいた。いずれ使う時が来たらわかるだろう。また前より格段に切れ味が上がったのに少し軽くなっている。鍛冶屋の腕の見せどろでぃ!」


 そう言いながら渡してくれたリメイクの剣。新しいあるじに負けじと輝く姿を放っていた。


「…か、感動しました…。ここまで仕上げてくれたとは…。本当にありがとうございます!」


「それからぼうず、この後どこ行くんだい?」


「このままルーヴォス公国へ出向きます。なんでも学園があるそうで。できれば入学をしていろいろ学んで目標に向かって頑張りたいんです」


「ああ、ディアフォース学園のことか?色んな術式があって学べるのさ。まぁ、ぼうずなら剣術ってところじゃのぉ。ところで、入学金とか大丈夫なのかね?」


 学園へ入学するんだ。頭になかったが、確かに入学金は必要だよな。


「正直考えてなかったです…」

 

「そしたらルーヴォス公国の手前、ミネルヴァ帝国へ行くと良い。あの街はギルドが盛んだからな。せっかくの剣だ、ギルドのクエストをこなしてお金を稼ぎんしゃい」


 と、ローダは私の肩を叩く。ギルド…この世界でお金を稼ぐ最も有効な手段だ。ローダさんの言う通りせっかく剣も新しくしたことだし。ミネルヴァ帝国へ向かってみよう。


「わかりました。助言ありがとうございます。ミネルヴァ帝国はこの先にありますか?」


「うんと七街道はカルタ村からルーヴォス公国まで一本道さ。途中にここシヴァ民乃村、そしてミネルヴァ帝国、最後にルーヴォス公国が続く。よほど道はずれの森に行くことがなければ、迷うことはないさ」


「はい、このままミネルヴァ帝国へ行きます。お世話になりました」


「それとこれを持って行きなさい。少々長旅になると思うから簡易テントだ。気持ちばかりの餞別じゃがの。それとウォットには気をつけるんじゃ。あいつは厄介で、一度敵と認識したら必要以上に追いかけてくる。攻撃自体も強くて、あの甲羅のせいで守備力がバカだ。」


「テントなんていいんですか?感謝します。ウォットとは赤い甲羅の…」


「そうじゃ。この辺はペアルーとカバルーとウォットしか居ない。ペアルーは臆病だから何もしなければ襲ってくることはないし、カバルーは角があって一見怖いが攻撃は弱い。ただウォットは気をつけなさい」


「わかりました。ありがとうございます」


 私は旅に備えた荷物を背負ってローダさんの鍛冶屋を後にした。


「気をつけるんじゃぞい!」


 振り向いても見えなくなるまで手を振って見送ってくれるローダさん。どこかロイスさんに似た優しさが滲み出ていた。


「まだ着かないのか…」


 どれほど歩いたのだろうか。辺りは黄金色に染まっていた。


「そろそろやばいな。野宿をするしかないか…」


 そうと決まれば早めにテントを張った方が良い。私はすぐ先の大きな木目掛け歩いた。この木のふもとで簡易テントを張り、小枝を集めてシヴァ民乃村で買った火打石で焚き火をする。


「お腹減ったな…朝貰ったサンドイッチ食べるか…」


 勿体無いが、生ものであるサンドイッチを消費しなければお腹を下す。食べておこう。

 気がつけば辺りは暗くなり焚き火の灯りと月明かりだけが頼りになる。

 スマホやテレビも無い世界。時が経つのが遅く感じる。


「…ん?」


 落ち着いたのも束の間、暗闇の向こうから視線を感じる。こちらをずっと見つめているような気がする。


「おい、嘘だろ?なんだあれは?」


 こちらへ向かってくる…。あの角は…カバルーだ。

 初めての討伐がカバルーになるのか。鹿のような角に身体は豚に近い大きさ。猪の牙が角になったところか。

 

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