〜第1章〜 第2話 行動計画
「すみません、おじゃまします」
そう言って中へ入るとそこにはお婆さんがいた。
突然の来訪者に目が点になっていた。
「婆さんや、飲み物でも出してやってくれ、困っていた旅人さんじゃよ」
お爺さんがそう言うと、驚いていた顔が温かい笑顔に変わった。
「あら、さあさあ座っておやすみなさい」
「すみません、失礼します。ありがとうございます」
私は少しの遠慮と歩き疲れていた身体の休みたさに、お婆さんの言葉に甘え椅子へ腰掛けた。
「お爺さん、こんな村へ旅人さんとは珍しいねぇ。どちらからいらしたんです?」
「東京と言うところからきました。おそらく聞いたことのない街ですよね…」
「はて?とうきょう…確かに聞いたことのない所だねぇ」
お婆さんはそう言いながら茶色の飲み物を目の前へ運んでくれた。
「これは…」
「そうか!おまえさん、はじめて見るのかい?これはルイデルじゃよ。甘くて美味いぞぅ!飲んでみなさい」
お爺さんが食い気味に進めてくる。怪しいモノではないと思うし、何より甘い香りが身体を欲しがる。
「はい、お言葉に甘えて…いただきます」
口を軽くすぼめいただく。ココアだろうか?どこかチョコにも似た味わいに緊張がほぐれる。
「ところでおまえさん、行くあてはあるのかい?旅人にしては薄着だし、聞いたことのない街から来たと言うし…」
「私も状況をまだ理解し難いところがありますが、正直行くあてがないです。ないどころか信じてもらえないと思いますが、おそらく自分は異世界から来たと思います」
「異世界…」
お爺さんとお婆さんが長年の呼吸を合わせるように一緒に声に出した。
「はい。状況から察するに。私は病弱で寝込んでいました。ましてや歩けなかったんです。それがいつの間にか森林の中で目が覚めて今や歩くことができ、そして聞いたことのないカルタ村、首都である東京がわからない、となると私がいた世界とは違うところへやってきた…というのが今わかっている流れです」
「そうか…おまえさん、もしかしたら転生者かもしれんなぁ。」
「転生者?」
「そうじゃ、転生者じゃ。わしが若い頃に聞いたことがあってのぅ、どこかの教会のパスターがなんでも天災が起きると異世界から人を召喚し天災を治める…と」
優しい顔のお爺さんが徐々に険しい顔へと変化させ喋り語る。
「お爺さん、魔法が使えるのですか!?」
「まさか。わしゃ元ちっぽけな、いち戦士じゃよ。魔法なんぞ難しい呪文なんぞ覚えたくなかったんじゃ」
「やはり、これで確信しました。この世界には魔法が存在しているとは…」
「魔法は存在するじゃよ。魔法を知らないとなるとやっぱり異世界からやってきたと考えるのが妥当じゃのぉ」
ため息にも似た深い息を吐き出しながらお爺さんが言った。
やはり、異世界転生。いざとなるとどこか寂しい。だが転生してから身体が丈夫になり、なにより歩けたのが嬉しかった。ずっと入院生活よりかは楽しい人生の幕開けだと心に言い聞かせた。
「そうじゃ、それならルーヴォス公国へ向かうといい。確かいろんな術式を学べる学園があったはずじゃ。そして入学して色々学ぶといい。それと途中でシヴァ
「それと少しじゃが500ダルをやろう。500ダルあれば少しは暮らせるじゃろ」
「いや、いただけませんよ。申し訳ないです」
「これも何かの運命じゃろ、なぁ婆さんや」
「そうですねぇ。なにか運命を感じますねぇ」
お婆さんもお爺さんに同調するように声を出した。私みたいな者にそもそも出会ってそこまで時間が経っていない者に装備とお金をいただけるとは。心が熱くなる。
「お爺さんとお婆さんに感謝いたします。まずはルーヴォス公国へ出向きます。そしてこの恩は忘れません。必ずお返しさせていただきます」
「最後で申し訳ないのですが、お爺さんとお婆さんの名前は…」
「はて、言ってなかったかの?わしゃロイス、婆さんはソフィアじゃ。あとそれとシヴァ民乃村にいる兄貴はローダという名前じゃ。探して新しい武器でも作ってもらいなさい」
「はい、ありがとうございます。そろそろ向かってみます。本当に色々とありがとうございました」
「なんも。なにかあれば戻ってくるんじゃぞ。まずは頑張って進みなさいや」
お爺さん…いや、ロイスさんとソフィアさんに別れを告げ、私はルーヴォス公国へと向かう。そして最大の目標、自分がなぜ召喚されたのかの謎を解くために。無意識に足を走らせた。
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