第130話 オチは見えている
どうやら、最後の魔人は、囮共を奥から引っ張り出してきたらしい。
で、その囮共を盾にして、武器を捨てろと宣っている。
最初から武器は持っていないぞ。あの、大柄魔人に武器を弾き飛ばされたからな。
なので俺は、鎧を着て、剣を拾った。
「いや……、武器を捨てろって言ってんだろうが?!!?!?!イカれてんのか?!!?!何で拾ってやがる?!!?!!」
「エ、エド……!私に構わず、こいつを倒してください!」
お、シーリス。
「……何やってるんだ、お前は?」
「見て分かりませんか????人質にされてんですよ!!!!」
「その前だ。それなりに鍛えられていた癖に、どうしてこんな程度の連中に捕まっている?」
そう、そこが気がかりだった。
この囮共は、それなりにやり込みプレイをしたらしく、囮にしてはそこそこ動きが良くなっていたと記憶している。
会った当時のこいつらは、オンラインで味方から「キビキビ動けこのきび団子が」と意味不明なファンメが送りつけられるくらいの雑魚さ加減だったが、今では無言でブロックされる程度には強くなっていた。
耐久性も、ムーザランのモブからの一撃に一回は耐えるくらいになっていたし、固定砲台程度の火力もあった。
この世界基準ではそこそこの強者だったはず……。
「そ、それには理由がありまして……。その、実は」
「何を喋っていやがる?!今更作戦を立てたって無駄だぜ?!早く武器を捨てろぉ!!!」
「こいつが、身体の自由を奪って操るスキルを……、ぐうっ?!」
「余計なことを言ってんじゃねえぞ、女ぁ!」
ふむ、身体の自由を奪うスキルか。
そういうタイプの呪術?っぽいものを使ってくるエネミーも、ムーザランではよく見たものだ。
それは、レバガチャが如く必死に動こうとすれば、レジストできるので問題はないな。
大体にして、金縛りとかそう言うスキルは、他のエネミーとの合わせ技でプレイヤーの脳をストレスで破壊するところが利点だろう。いや、こちらの利益にはなってないが。
ただ、ここで動きを止められたところで、特に意味は……。
「クソッ、喰らえっ!俺のチートスキル、『傀儡糸』を!」
《パリィ》
ん、パリィできるのか。
物理判定なんだな。
「………………は?なん、で」
俺は、剣を振り上げた。
「ま、待てっ!こっちには人質が……!」
「その女に」
「え?」
「人質の価値はない」
「「ほぎゃっ……?!」」
俺は、盾にされているシーリスごと、魔人とやらを斬り殺した……。
「ごはぁっ……!!マ、ジで、斬る……ぅ?」
意味不明な遺言を遺し、肩口から腰まで斜めに両断されたシーリス。
死ぬのはこれで何回目だろうか?
だがまあ、後で軽く蘇生しておけばいいだろう。
坑道の奥では、他の囮共も転がっていた。
リンチされたらしく死にかけており、服も脱がされている。
強姦とかそういうアレだろうか?
まあどうでも良いか。あいつらの膜に価値などないしな。
しかし、服を奪われたのは……ああ、そうか。
こいつらには確か、ムーザラン製の鎧を装備として与えていたな。それを奪われたということか。
「何をしている?早く帰るぞ」
「ぐ……、エ、エドワード、さん……」
クララだったか?しばらく見てなかったので、名前を忘れつつある。
「アニスさんが……、瓦礫の、下敷きに……!ランファさんも……!」
「は?」
面倒だな……。
何でそんなことになっている?
捕まるなら、もう少し回収しやすい形で捕まってほしいんだが。
もう少し、こちらの都合も考えられないものか……。
「い、いきなり、爆発音がたくさん……!坑道が崩れて……!」
爆発?
ふむ、なるほど。
俺の、《ルゥの涙矢》が原因ということか。
思えば、坑道の多くの部分が崩れて破損していたし、壊れた罠らしきものもあったような気がするな。
難易度が下がったのも、囮共が無駄死にしたのも、俺のせいか。まあ、よくあることだ。罪悪感は特にない。
だが……、あのまま地上から爆撃しまくれば、このダンジョンを物理的に潰せたのかもしれない……。
ムーザランでももちろん、侵入する前にダンジョンに海水を流入させて破壊しよう!みたいな試みは定期的に行われたが、恐ろしいことに、それをやっても攻略難度はそこまで落ちない。大抵、対策されているからな。水場近くのダンジョンに沸くエネミーは窒息無効のガーゴイルとかそういう感じに。
このゲームの製作陣が全員サイコパスなのは周知の事実だが、プレイヤーも基本的にはサイコパスであり、そしてお互いが気狂いだから、お互いの手口を知り尽くしている。より人の心を捨てられた方が勝ちの非道徳さを競うゲームだ。
とにかく、このダンジョンの難易度が温いのも、囮共が生き埋めになったのも、全て俺が悪いということらしい。
なるほど。
それは理解したので、とりあえず、《恒星の引力》のルーン術で瓦礫を撤去。
ぐちゃぐちゃに潰れた囮共の死骸を、大盾に掃いて集めて、運んだ。
そして、地上に戻って蘇生術を使うと……。
……一人多いな?
子供だ。
日に焼けた肌の、少年。
「……これは、何だ?」
「マイク君です!この子は、海賊団に殺されてしまった父親の仇を取る為に、私達に協力を……」
全裸のシーリスが、股と乳首を隠しながら、自慢げに主張してきた。
定期的に服ごと吹っ飛ばされて死んでいるから、全裸慣れしているようだな。
確かに、「恥部隠し一枚あれば良い、生きているからラッキーだ(死ななきゃ安い的な意味で)」というのはよく聞くフレーズ。その精神を体現しているということか。
見ない内に、シーリスも人間性を失いつつあるようだ。これが成長というものか。
「あ、終わりました?そろそろ帰りませんか?後処理はこちらでやっておきますので……」
おっと、ヤコか。
「任せた」
後処理はヤコに投げておいた。
十中八九、魔人とやらの死骸を解析して、何らかの役に立てようとしていることが分かるが、まあその程度の役得はいいんじゃないだろうか。俺には関係ないというのもあるが、後処理を完璧にやってくれるのは確かだしな。
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