第129話 素手(装備品)

「……温いな」


本当に、温い。


ただ、馬鹿の一つ覚えみたいに、自爆能力のある洗脳済み海賊団員を差し向けるだけ。


罠も大したものはなく、洗脳された海賊団員は、洗脳されているが故に動きが単調で捌きやすい。


ムーザランではその辺のモブエネミーでも中国雑技団みたいなエグいアクロバットしながら殺しにくる。完全不可視エネミーが木から飛び降りると同時に華麗なフランケンシュタイナーを決めてきてこちらの頭が弾けたのは、今でもよく思い出す。アホ死ね。


レパートリーについても、死ぬと自爆する奴一種類しかいないため、対応も一種類で済む。


そこは、「同じ姿だが能力が違う奴」と、「違う姿だが能力が同じ奴」を混ぜて出すことで、プレイヤーからの顰蹙を買うことができるというのに、何故かやっていない。ムーザランは躊躇いなくやるし、ついでにそのクソエネミーの配置を工夫して、地形とのシナジーで殺しにかかってくるのだが。


一応、壁にかかった松明の灯りを消して、暗がりから奇襲しよう!程度のことはしてくるが……、匂いも音も風も隠さないのでは、全く意味がない。


ダメだな、全然なってない。


ムーザランの、サイコパスにしか設計できないようなクソダンジョンを見習ってほしいものだ。いや、やっぱりやめろ。もう二度とあんなクソは味わいたくない。本当に毒沼はやめろと言っているだろ、誰も楽しんでないぞ、製作陣がやりたいだけだろ……。


とにかく、悪魔に魂をダース単位で売り捌いたような、サイコパス味溢れるクソダンジョンを攻略してきた身からすると、まさに「ガキのいたずら」程度でしかないのだ、このダンジョンは。


大して苦労することもなく、ダンジョンの奥へとやってきた……。




「チッ、もう来やがった!」


「罠に引っ掛からなかったのかよ?!」


「めんどくせぇなあ……」


坑道の奥。


そこには、三人の青年が待ち構えていた。


眼球が黒く、瞳が赤く発光していること以外は、2000年代の不良学生らしい見た目だな。服も学生服だ。学ランとか言ったか?そういうやつ。


さて、殺すか。


俺が剣を抜くと……。


「む」


……剣が、手からすり抜けた。


そして、鎧も外れて、裸になった。いや、下着はセーフらしい。


「ハハハハハ!言っておくがな、俺達は、勇者召喚?とやらと同じ仕組みで召喚されてんだ!だから、チートパワーを持っている!」


ふむ。


一人、一際体格のいい金髪が、上着を脱ぎ捨てて拳を構えてきた。


「俺のチートは、『ステゴロ強制』!俺の近くでは、武器も鎧も装備できねぇ!」


なるほど、制限系か。


素手縛りでボス倒しました(笑)みたいな、上位者ライター的な、そういうチャレンジをしろ、と……。


そういう訳か。


確かに、素手では、未強化ショートソードの十分の一程度のカスダメしか出せない。使える武技も限られている。縛りプレイでしかない……。


「そして俺は、高校ボクシングの日本大会で三位の腕前だ!殴り合いで負ける訳がねえ!行くぞおぁ!!!」


……だがそれは、DLC第一弾が来るまでの話だ。


「ごぺッ?!!!」


殴りかかってきた不良……、魔人だったか?魔人の青年の顔面に俺の拳がクリーンヒットして、吹っ飛ばされる。


素手による、「装備するタイプの武技」……。


その一つが、これ。


『大力の闘技』だ……。


《大力流闘技》

《装備として扱われる武技の一つ。

闘士達が扱う、拳打の格闘技。

特に、『闘士ミーレス』の興したそれは、巨躯のミーレスの膂力を活かした武技から、大力と呼ばれる流派として独立した。

叫ぶことにより周囲を怯ませ、次の拳打に破壊のオーラを纏わせることができる。》


「ぐがっ……?!く、クソが!見てろ!うおおおおっ!」


んん?


大柄な魔人は、いきなり変身し始めた。


……おや、変身しているのに、衝撃波も火も出さない?


「殴ってくれということか」


「ぐああああああっ?!!!」


なんだか、身体から鱗を生やして強化した風になっているが、悠長に敵の前で変身とかあり得ないので……。


「健介ェ!お前の『チート』は使ってんのかよ?!」


「や、やってる!俺の、『チート無効チート』は発動してる!」


んん、そういえばもう二人居たな。


その片方は、こちらに手を向けて、謎のエネルギー波?みたいなものを照射してきている。


感覚的にデバフ効果は感じないからスルーしていたが、これは何かやられていたのか?


「チート無効チートの光を浴びた奴は、その最中、チートスキルが使えなくなるはずなんだっ!!!なんでこいつは、チートが使えるんだ?!!!」


最近のVRゲームではチートは基本的に不可能だって言ってるだろ。


そういうのがやりたいんならオフライン環境でやれ。


確かに、MODをゴリゴリ入れてやるゲームは面白くはあるが、今の世のVRゲームは基本的に、そういうMODで追加要素がなきゃまともにできないようなゲームとかは基本ないからな……。


デカ過ぎる容量を、どこの会社もフル活用し、考えうる限りの要素を全部ぶち込んである……。VRゲームは、もう一つのリアル、もう一つの世界と言えるくらいには要素は多い。どのゲームも、だ。


なので、MODを追加するとなると、その世界にない要素を無理やり追加する、所謂「ロアフレンドリー」ではないMODとかが中心になるのだが……。


そんなことをするくらいなら、お望みの要素があるゲームを最初からやれば良いだけだしな……。


……おっと、戦闘中にどうでも良いことを考えてしまった。相手が弱過ぎるとつい、考え事をしてしまうから良くない。


「ああああっ!!!っぶぇ?!!!ぎゃああああ!!!!!」


俺は、殴りかかってきた大柄魔人のパンチにクロスカウンター。そのついでに腕を掴んで極めてへし折った。


「ま、待ってろ!今回復……っあ?」


「オオオオオッ!!!!」


「がっ……?!!!」


なんで口に出すんだか。


さっきから謎の光を出している魔人が、回復するなどと口走ったので、思い切り叫んでから殴りつけた。


《大力流闘技》は、叫んだ後に放つ一撃に破壊のオーラが乗る。


具体的に言えば、攻撃力1.8倍と、着弾点での爆発だな。


この爆発の爆風は、強く相手を吹き飛ばす効果があり、大柄な敵の体制を崩しやすい。


これで崩してから、致命ダメージが乗るタイプの短剣とかで突くのは良くある戦術。


とにかく、回復役は頭を叩き潰して、殺した。


「な、舐めんなぁ!このステゴロ強制はなぁ……、俺だけは武器が使えるんだよぉ!!!」


そう言って、なんか暗黒のオーラ的なアレを手に集めて、素早く剣を取り出す大柄魔人。


が、無駄だ。


剣を構えるのが遅過ぎる。


「あ、ぎゃっ」


俺は、何かする前に、手刀で大柄魔人の首を刎ねた。


……こんなものか。


いや、まだ一人残っているな?


最後の魔人は……?




「そこまでだ!この人質が見えるかぁ?!」


「うう……、エド……!」

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