第128話 魔人
海賊団とやらが隠れている坑道に入った。
中は薄暗く何も見えないので、音で判断することにした。
松明やランタンも悪くはないが、松明は片手が塞がるし、ランタンは灯りが小さい。
それに、目など見えなくても、情報などいくらでも感じられる。
音、匂い、気配。
そう言ったものを感じて剣を振るうのは達人のように思えるが、アクション系のVRゲームプレイヤーの上位層は皆できて当然だとされていた。
VRゲームプレイヤー上位層は、言ってしまえば、死んでもいくらでも蘇ることができる世界で、数多と強敵と毎日楽しく殺し合っている訳だからな。
プレイヤー歴が十年にもなれば、目を閉じたまま匂いと風切り音のみで斬り合いをしたり、気配を感じて矢玉を避けたり、それくらいはできるようになる。
そんなことを考えつつ奥へと進むと、五分ほどで広い空間に出た。
そこには……。
「へぇ〜?お兄さんが勇者、とかってやつ?」
「カッコいいねぇ〜」
「仲間を助けに来たの?友情だわ〜!」
三人の男がいた。
服装は……、遠い昔の「学生服」というやつか?
それに、ピアスを空けて、眉を剃った、金髪の男。そんな感じのが三人。
年齢も十代半ば程度で、学生に見える。
ただ……、眼球が黒く染まり、瞳が赤く発光しているのは、人間の特徴ではないはずだ。
「お前達が、海賊団とやらか?」
俺が訊ねる。
「あぁ?海賊?手下の人間共のことか?」
男達は、ニヤニヤと笑いながら答える。
こういう態度は無礼だな。
俺にやる分にはまあどうでもいいが。
「つまり、お前が海賊団の長か」
「はっ、長?海賊の?違うね、あいつらは俺達の道具に過ぎねえ!」
ふむ……?
つまり、どういうことだ?
もう何でもいいから答えを教えてほしい。
「廃都の秘密」とか、「時計塔の真実」とか、「真理」とか、そういうのを調べてげんなりするのはもう怠いので、パッと答えを言ってくれ。
「俺達は、魔王様に召喚された『魔人』だ!勇者、テメーを殺せば、俺達は何でも願いを叶えてもらえるんだよォ!!!」
なるほど。
「三人で俺を相手にするのか?」
「そうだ!俺達の力で……」
「ここにいないのにか?」
そう。
こいつらは幻影、幻術だ。
本体は、ここにはいない。
それに、何らかの爆発物の匂いもするな。
その程度の罠の匂いくらい、流石に分かる。
『キッショ、何で分かるんだよ……?はぁ、まあいいや。即死トラップはしくじったけどよ……』
どこかからこちらを見ているのだろう、幻覚は消えたが、声のみが響いた。
その直後、足音。
複数。
『……手下共の特攻はどうかねェ?!!!』
海賊団員の群れが現れた……。
んん……?
「あば、べばば……」
「おぎゅっ、ぎぎあ……」
「うぇっええ……」
あー、操られているな、これは。
俺も、敵に操られた友人を泣く泣く斬り殺した経験が数千回くらいあるのでよく分かる。
口の端から泡を噴いて、血の涙を流し、譫言を言いながら武器を構えて突撃……。
麻薬の類か、これは。
薬で狂わせての、自爆特攻。
ええと、こういうのを確か、「酷いこと」と言うんだったか?
ムーザランには酷くない奴がいないので感覚がもう分からないが、一般的な「道徳観」というものに照らし合わせると、これは酷いことのはず。
そして、悪人は殺してもいいらしい。
俺も、この世界に来て色々なことを学べた。
その辺の人間をいきなり斬るのは良くないが、悪人というものを斬ると喜ばれる。報酬で金が手に入ることもある。
金を使えば、ララシャ様に良いものを贈れる。飲食物やドレスに本など……。
そろそろ俺も、人間性を取り戻せたか?
そう思いながら、薬物で洗脳された海賊団員を縦に両断した。
ん?
ああ、そうか。
素早く、鉄のタワーシールドを出して構える。
そして武技発動。
———『不壊防御』!
ほんの一瞬だけ、防御力と体幹を高めて、どんな攻撃も弾き返すガード体勢になる武技だ。
これで、「爆発」も防げる。
……次の瞬間、大爆発。
そう、自爆特攻。
海賊団員の体内に爆薬のようなものが仕込まれていたらしく、死んだ時にそれをトリガーとして爆発するようだった。
死後の自爆。ムーザランでは、ありふれたエネミーだ。
『不壊防御』で爆発を防いだ俺は、即座に大盾を両手持ちして、目の前の他の海賊団員に体当たりした。
これで間合いを取り、俺は即座に剣を抜いた。
『バカが!斬っても爆死するから———』
武技発動。
『斬撃波動』……!
ならば、遠隔で斬れば良いだけのこと。
物理的に首を斬られた海賊団員は、一人が爆死すると、隣の奴も誘爆して爆死。その隣も、そのまた隣も……。
「自爆特攻兵の使い方がなってないな」
普通、こういうエネミーには、自爆する奴としない奴両方を用意してバラけて配置し、自爆しない奴が掴み攻撃などに拘束してくる最中に、自爆する奴が爆発してダメージを与えるのが黄金パターンだろうに。
全員が自爆兵では無意味だ。
やはり、慣れていないようだな。
学生に見えたが……、中身も普通の学生か。
どうせなら、軍略家や軍の将校など、専門的な知識を持った人間を呼べば良いものを。
いや、できないのか?
それとも、試しに呼んだ捨て駒だからという話か?
その辺は分からないし、興味もないが、学生レベルの作戦の粗さであることは分かった。
「楽そうなダンジョンで助かるな」
『テ、テメェ……!ぜってー殺すからなぁ!!!』
さあ、とっとと先に向かうぞ。
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