第126話 グレイロール島
グレイロール島。
海賊とやらの根城になっているらしい。
……道徳的な意味で、海賊は悪いことである、と。俺もその理論は知っている。
しかし、俺には関係のない話だし、目の前でなく見えないところでやるのであれば、虐殺も強姦も好きにすれば良い。
地球にしても、俺達中産階級がそこそこに綺麗な除染地域で普通に労働して、ほんの少しとは言え自然物を目にするという幸福を体感している時……、地球の裏側では、貧困地域で子供が誘拐されバラされ、その臓器が密売されていたり……、麻薬カルテルや、強盗強姦暗殺テロリズム……、何でもあった。
だがそれも、地球の裏側で、知らない人達が知らない人達と傷つけ合い死んでゆくのは、特に何も思わない。
アフリカでは何百万人の子供達が飢えていてウンタラカンタラ……と言われても、自分達には関係ないし、食事の度にそんなところのことは考えない。それが当たり前だ。
知らないならば、非道徳があっても困らない、嫌な気分にならない。非道徳があると知っていたとしても、自分の知人が困窮している訳でもない限り、なんとも思わない。
どこの世界も同じだ、地球も、ムーザランも、この世界も。
……だが、ララシャ様の目の前で、ララシャ様のご気分を悪くするような行為をされると、殺すしかない。
悪事を否定してはいないのだ、見えないところでやれと言っている。
それに、俺も馬鹿ではない。
この世界で俺は異質な存在で、段々と……クララの手回しもあるが、避けられると言うか、あまり、人間達が俺と関わり合いにならないようにしていることは、分かっている。
新聞も読んだ。それによると俺は、とても厳しい勇者で、人と話したがらないそうだ。つまり、「勇者には話しかけるな」と、そう報道されているようなもの。
未だに、この世界の平和ボケに慣れないし、それで驚く部分も多いがな。
悪党を自称する連中も、それが分かるなら、逃げれば良いものを……。
何故、俺が滞在している街で、わざわざこんなことを?不自然だな、全く……。
そんなことを考えながら、俺は、ヤコが用意した船に乗り込んだ。
ヤコの用意した船は、ララシャ様が最低限、お乗りになるのに相応しい客船だ。
龍を模った船首像、金箔の貼られた手摺り、船体側面に彫られているのは、花の彫刻。
厳しい戦艦などは、ララシャ様に相応しくないし、戦いは俺がやるので大砲やら何やらは無意味。それを、ヤコはよく分かっているようだ。
貴人には、格式というものがあるからな、これで正解だろう。殺さなくて済む。……いや、ヤコは殺せないんだったか?アカツキの親だしな。
「件の島の位置は分かっているそうですので、直ちに出港しますわ」
「ああ」
そんな訳で、とっとと出港。
舐めた真似をした海賊とやらを殺す。
……なのだが。
「んん……、待ち構えてますわねえ」
島は既に臨戦態勢。
海賊船が並んで、待ち構えていた……。
……これ、どう考えても、あっちに情報が漏れているだろ?
情報の伝達速度からして、通信機とかそういうものがあるな?
まあ、いい。
出てきたのならば、手間が省ける。
殺す。
「殺す」
俺は剣を抜いた。
島の周囲に並ぶ戦艦。
戦列艦……とまではいかないが、スクーナー(全長40m程度)の船が六隻、こちらに大砲のある側面を向けて待ち構えている。
島にも、大砲やバリスタが展開されており、いつでも撃てる状態にされているな。
よし、殺そう。
……だが、残念ながら、聾の者には飛行能力とか、水中で行動する能力はない。泳げると言えば、まあ泳げるが、足場から落ちて海に沈めば死ぬしかない。
河童(水没)、天狗(高度オーバー)、塗壁(エリアオーバー)には勝てないのだ。
この三体の怪異には、どんな屈強な奴も……それこそ、巨大ロボットでも太刀打ちできずに爆発四散すると聞く。ランク1でも死ぬらしい。いや、死なないんだったか?まあどうでもいいか。
なんにせよ、聾の者も、溺れている最中や空中でのファストトラベルは不可能だ。
なので、遠距離攻撃での戦闘となる。
抜いた剣を甲板に突き刺し、歌唱術発動……!
「A———、RA———、MAMA—MALCHE—、LuziO—Si———rA———!CasT———lum———!」
大いなる地母神マルシェよ、畏み申す。
御手を翳し、遮り給え。
《地母の光壁》
剣を中心に、光の壁が現れる。
それは、飛来するバリスタ、大砲、全てを弾いた。
神威、神の力のないこの世界の攻撃。
単なる炸薬の爆発や、物理的な攻撃では、ムーザランのものには中々敵わない。
この世界の人間は、ステータスとやらを高めたところで、大砲が直撃すれば死ぬらしいが……、聾の者は違う。
今でも思い出すとイラつくのだが……、広い荒野を歩っていると、遠くからクソバカデカいゴーレムが超巨大弓矢で射ってくる場所があった。
おまけに、周辺に山ほどいる正気を失った亡者共が掴み掛かってきて動きを封じ、捕まるとゴーレムの矢が直撃するクソみたいなところだ。
……だが、聾の者は、実はその矢が直撃しても死なない。
胸に、人の腕ほどのクソデカ矢が刺さりながらも立ち上がり、馬に乗って駆け出すことができるのだ。
まあ、ビルドにもよるが、三発くらいは当たっても死にはしない。
おまけに、回復薬を使えば、体力は即座に回復する。
どちらかと言うと、HPの問題ではなく、そのクソデカい矢が刺さって身体が重くなることの方が問題だった。
更に言えば、小さなバックラーでも構えていれば、そのクソデカ矢を防げる。
聾の者は、悪辣なクソエネミー共に虐め殺される弱い生き物ではあるのだが、最低限対抗できるスペックはちゃんとあるのだ……。
そんな訳で、単なる物理属性の大砲やらバリスタやらでは、この結界は破れない。
そして俺は、その件のゴーレムから奪った弓矢を手にする……。
《大機兵の大弓》
《隠されし黄金郷『無名都市』を守護する機械の兵、その中でも特に大きな身体を持つ者の、大弓。
無名都市の指導者達は、兵よりも機械を頼った。機械には、黄金を掠め取るような私欲が無い故に。》
《大機兵の大矢》
《隠されし黄金郷『無名都市』を守護する機械の兵、その中でも特に大きな身体を持つ者の、大矢。
無名都市の技術、黄金と火。それにより造られたこの大矢は、着弾と同時に火属性の爆発を齎す。》
大矢を、番えて、引き絞り。
武技発動……。
「アローレインだ」
瞬間、世界が白く染まった。
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