第125話 海賊の居場所は?
「こ、殺すのか?!私を!私を殺せば仲間達の居場所は分からないし、いのちすららぺっ!!!!」
武技発動、『雄牛の構え』……、そして『雄牛の斬り上げ』!
握りを頭の横に、切先を相手に向ける『構え』の武技。そこから派生する、剣を大きく振るい、下から掬い上げるように斬りつける一撃……。
他の武技のように派手なエフェクトはないし、攻撃範囲も単体だが……、ムーザランにおける絵面が地味なものは、いずれも堅実に強い。
ただのロングソード、ただのメイス。
ただの構えから、ただの斬り上げの武技。
こういうのは玄人好みな性能で、初期武器らしい使いやすさと、分かりやすい挙動と分かりにくいエフェクトをしており、特に対人などでは「出が早く、エフェクトが派手でない分事前の対処がしにくい」と、多くの愛好者がいたものだ。
そんな斬り上げを喰らった小男は、衝撃でバラバラになりながら天井に叩きつけられ、肉片となってレストランに飛び散る。
絹を裂くような、悲鳴が上がる。
恰幅のいい貴婦人の前にある分厚いステーキに、赤い「ソース」がかかったからだ。
品のいい少年の頭に、肉の「そぼろ」が落ちてきたからだ。
給仕達は慌てふためき、年若い女のウェイターは、恐怖で失禁している。
無様にも、自分で出した「液体」に滑って転び、地面に打ちつけた顔面。その、鼻から血を出して……、出しつつも、汚れた尻を振って、這って逃げる。
「フうううゥ……」
俺の口から、怒りに震える、吐息が漏れる。
納まらない、こんなものでは。
「ヤコ」
「はい」
「海賊団とやらを、殺すぞ。ララシャ様のお食事の時間を台無しにした……、罪は……ハあぁ……、罪はァ……、重い……!!!」
「そうなると思いまして、船乗り達にはあらかじめ、行き先がどこでも断れないような契約で雇用しております」
怒れる俺は……ああ、怒りだ、ああ……、だが、怒れる俺を見て、ヤコは、僅かに震えながらも、笑顔を作る。
「それで?」
「海賊団の根城ですが、詳しい場所は残念ながら不明です。しかし、この小男……、財務官が海賊団と繋がっていたことは明白でございますわ。勇者特権として、強制捜査を宣言し、その線を当たれば、すぐに見つかるでしょう」
なるほどな。
「だが、その必要はない」
《宵闇の小弓》
《姿無き暗殺者、『宵闇の者』の持つ小さな弓。
それは、威力を犠牲にするが、代わりに素早く、そして鋭い一撃を放つ。また、その矢は、壁や盾に遮られることがないという。
『宵闇の者』は、『律』の意思から外れ、独自の方法で破局を避けようとしたが、神ならぬ身で、それは不可能なことだった。》
俺は、宵闇の小弓をホーンから引き出し、射かけた。
「ぐあっ?!」
この弓は特殊で、威力は低いが、壁や盾をすり抜けて貫くのだ。
放たれた矢は、半透明になり、壁をするりと抵抗なく通り抜ける。
なので、壁の向こうにいた相手も射抜ける。
「な、何を……?」
「この小男が殺された瞬間、逃げ出した男がいた。周りの全ての人間は、怯えて、竦んでいるのに、だ。……何かを知っているはずだ」
「分かりました。……スティーブン、捕えなさい!」
「はっ!」
連れてこられたのは……、身なりがいい、また別の男。物静かそうな青年だ。
先ほどの小男と同じような制服を着ている。
つまり、同じ所属だということだろう。
「た、助けてください!ぼ、僕、脅されてて!母が海賊に捕まっていて、このままじゃ……!」
何か言っているが、この言い方だと確実に情報を持っていることが分かる。少なくとも、俺よりは知っているはずだ。
それを、ヤコも気づいたらしく……。
「では、こちらで拷問……いえ、尋問しておきます。……ウェイター、すぐにテーブルを片付けて、新しい料理を出しなさい!」
そう言い残して、ヤコはレストランから去っていった……。
俺は、というと……。
「ララシャ様……、申し訳ございません」
もちろん、ララシャ様にお詫びしていた。
「よい。お前に非はない」
ララシャ様は、寛大にもお許しになられるが……、これは許し難い。自分で自分が許せないのだ。もちろん、海賊団もだが。
ララシャ様の最近のご趣味と言えば、アカツキへの教育と、読書と、それとお茶含むお食事……。
大切なその時間を台無しにするなど、許していいことではない。
殺す……、確実に。
俺がキレていると……。
「一先ずは、よい。何者かは知らぬが、私を害すると言うのであれば、殺す必要はあるだろう。しかし、今は食事の時間故、剣を納めよ」
「はい」
ララシャ様がそう仰せになった。
なるほど。
俺は剣を納めた。
「あ、あの……、部屋に戻っていいかのう?もう本当にマジで食欲すっ飛んじゃったのじゃが……」
「勝手にしろ」
センジュが何か言っているが、適当に対応して……、俺とララシャ様は食事を続けた……。
そして、次の日。
「おはようございます、旦那様。こちらをどうぞ」
ヤコが、頭に血の滲んだ頭陀袋を被った男を連れてきた。
男は、涙声で言う……。
「ひっ、ひいぃっ……!か、か、海賊団は、この街の近くの小島の、『グレイロール島』を根城にしています……!」
なるほど。
「ヤコ」
「もちろん、用意はできております。今すぐにでも出発可能ですわ」
「行くぞ」
「はいっ!」
そういうことになった。
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