第121話 治安悪化

「俺たちゃ、泣く子も黙る『レッドクイーン海賊団』だ!」


「雑魚共がぁ!逆らうんじゃねえ!」


「ぶっ殺しちゃうぜ〜?へへへへへ……!」


俺は、ララシャ様と海を眺めていた。


「こらーっ!やめなさーい!」


「勇者パーティとして、見過ごせないにゃ!」


「そうですよ!海賊団なんて!」


海は、青と緑に輝く、美しい色合いだ。


「ああ〜ん?なんだぁ、お前らぁ?!」


「舐めやがってぇ、やっちまえっ!」


「おらあっ!」


「やられませんよ!えいっ!」


「やああっ!」


「くらえっ!」


「「「「ぎゃああああっ!!!」」」」


「まいったかー!」


「うるさいぞ」


デコピン。


「「「「ホぎゃっ?!??!?!」」」」


うるさかったので、囮共に全員デコピンする。


縦に三回転して吹き飛び、近くの屋台に頭から突っ込んで、スカートが捲れてパンツが晒されている……。


シーリスのは、カッペ臭い羊毛のパンツ。


クララは、高価そうなレースのパンツだった。


他の奴らはズボンだな。


まあ、こいつらの下半身になど興味は特にない。


俺はそのまま、ヤコとアカツキ、それと、馬車の中にずっと居たらしいドワーフの姫のセンジュを連れて、宿へと向かった……。




宿。


センジュには、道中で使った武器を回収された。


整備点検をしつつ、構造を調べて勉強をするらしい。


武器なんて最悪、ショートソード一本あればどうにかなるので、適当に使った武器を渡しておいた。


それで……、結局。


謎の行商人を名乗る男達は離脱し、俺達は無事にランポートに到着。


宿も、ヤコのところの従業員が予約していたらしく、無事に予約でき……、チェックイン。そこで休んでいるところだ。


宿は……、良い感じのところだな。


二十一世紀ドバイの高層ビル!とか、そう言ったようなものではないが、四階建ての大きな屋敷のようなホテルの、最上階の一番良い大部屋。


部屋の中は、空気を循環させるマジックアイテムとやらで涼しい。ベッドは大きく、シルクのシーツ。壁紙もシミひとつない。


そこのテラスのようになっている部分で、夕日を眺めつつ、この辺で作られているという果実酒を飲んで寛ぐ……。


「聾の者」である俺はもちろん、アルコールで酔うことなど不可能だが、そもそも最初から酒は雰囲気を楽しむものだと思っているので問題はない。


愛するララシャ様と共にするならば、何でも美味い判定になるに決まっている。


酔えないのであれば、酒などただの苦い汁なのでは?と感じるかもしれないが、苦味の中にも果実の風味や僅かな甘みもある。そう言ったものを「感じようとする」ことそのものが、ムーザランでは考えられなかった格別の贅沢だ。


まあ、下水道で血と糞に塗れながら死にまくり、下水道や森の中や死骸の懐に落ちていた干し肝を食べる我々「聾の者」からすれば、大抵なんでも旨く感じるので……。


ついでに言えば、ムーザランでは、何かを食べるより「何か」に食べられるケースの方が多かったな。いい思い出だよ、反吐が出る。


そうして、クソ以下の過去に思いを馳せつつ、ララシャ様とグラスを傾け、夕日の日差しを浴びていると……。


「エドっ!聞いてください!」


……バカがやってきた。


「調べてきました!どうやらこの街は今、『レッドクイーン海賊団』っていう悪者に狙われているらしいんです!」


「そうですか」


「勇者として、助けなきゃダメですよこれは!」


「知らん」


「……まあ、そう来るとは思っていました。なので追加の情報です。どうやら、この街の船乗り達も、レッドクイーン海賊団を怖がって海に出たがらないそうです!なので、この事件を解決しないと、先に進めませんよ!」


なんか、昔のゲームみたいなことを言い始めたシーリス。


今時のVRゲームは、フラグだとかクエストだとか、そういう尺度は非常に曖昧で、「これをやったら詰む」「あれをしてはならない」とか、そういう制限はあまりない。


NPCは人間と同じように考えて動くし、世界は地球と同じくらいに広い。


かつて存在したという、テーブルトークRPGのような応用力を求められるのだ。


時限クエスト!こうなるまでにこうしないとこうなる!……そういう、仕組みというか構造的な面はあるが、それはフラグではない。


例えば、とある神の信奉者のNPCがいたとして、そいつが信仰する神をプレイヤーが殺す前までにそいつからアイテムを貰わなければ、敵対して貰えなくなってしまう……、とか。


ここの関門の扉の鍵を開けるまでは、この流浪のNPCは前のエリアに留まる、とか。


そういう話だ。そういう意味での「時限クエスト」だ。


決して、「このステージをクリアしてフラグを踏むと、こうなる!」のような、ゲーム的な判定ではない。VRゲームとは、往々にしてそういうものだ。


寧ろ最近では、そういうご都合主義というか、ゲーム的な処理をするゲームは、リアリティがない!だなんて、意味不明な苦情が出るまである。


なので、「こうしないと先に進めませんよ!」と言われると、VRゲーマー達は皆挙って抜け道を探す訳だな。


こんな風に……。


「ヤコ」


「はい?」


「金を払って船を借りることは?」


「借金持ちの船乗りなんかの債権を買い上げて、無理矢理命令する……などというのはいかがでしょうか?」


……と、こんな感じ。


「い、いや……、勇者なんですから、一応そういう……、救済の義務があるのでは?」


「海賊団だか何だか知らないが、そういうのは現地の治安当局が解決すべき問題なんじゃないのか?」


「で、でも……、みんな困ってるんですよ?海賊団を倒せば、船も出せるんですから、お金を使わなくてもどうにかなるはずで……」


「知らん」


「じゃ、じゃあ!海に出たとして、海賊団はどうするんですか?!狙われちゃいますよ?!」


「殺す」


そりゃあ、殺すだろう。


見えないところで海賊をする分には好きにすればいい。


だが、俺を狙うのならば、殺す。


当たり前の話では?


「……もういいですっ!海賊団は、私達が倒しちゃいますから!」


そう言って、シーリスは部屋を出て行った。


よく分からないがもう良いらしいので、俺は再度、グラスを傾けながら夕日を眺めることにした……。

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