第120話 ランポート到着
……結局、その後。
謎の商人ルーフは、こちらに危害を加えることはなく、港町ランポートまで俺達に同行してきた。
「よし、ランポートに着いたな!じゃあ、俺達はこの辺で失礼するぞ!またな!」
そして、ランポートに到着すると、そのまま離脱。
笑顔で手を振り、そのまま俺達から離れて行った。
道中も何も求めず、何も約束や契約もせず、ただ日常会話をしたくらいか?
まあ何となく、こちらを探ろうとするような意図は感じられたが、俺が勇者であると聞くと多くの人間が「お話を聞かせてください!」と言うからな。正直、分からん。
そもそも、ムーザランで交渉技能とか要らないしな。話して駄目なら殺そう、で終わりだ。俺も相手も。まあ即殺すパターンもあるが、今殺すか後で殺すかの違いだし、問題はない。
殺さなきゃいけなくなる、愛した人をこの手で殺せと強要されるのもあるあるだ。何にせよ、最終的に全員殺せばいいのは変わりないので、心を殺して皆殺しにすればいい。自分の心も殺させる素晴らしいゲームデザインに、全プレイヤーが感涙したと大評判だ。無論、怒りの涙だが。
……結局、何だったんだ?
伏線的なアレか?
この世界も、ムーザランと同じか。
ユーザーに対する優しさがないから、ユーザー以外の視点でのムービーとかは殆どなくて、ゲームの世界で何が起きているのかちゃんと説明してくれないんだよな。
優しさがないって、「難易度が高い」をオブラートに包んでいるとかそういうことではなく、こういう「ストーリーがよく分からない」みたいな面も含んでのことだ。いや、難易度も高いが。
……毎回、ムーザランに文句を言っているが、ゲームとして楽しかったのは本当だからタチが悪いな。
いや、本当に凄かったのだ。
俺は日本人で、そこそこの所得があったため、地上の第六除染区域……旧国名を東京と呼ばれたエリアに住んでいたが……、多くの低所得層は汚染地域暮らし。逆に高所得層は『揺籠』と呼ばれる飛行都市に住んでいた。
汚染地域では当然、野外を駆け回って遊ぶなんて不可能で、作業用のエグゾスケルトン(強化外骨格スーツ)にマスクをつけ、終わらぬ除染作業に一生を費やす。
飛行都市も、流石にトレーニングルームくらいはあるらしいが、アウトドアを楽しむほどの場所はない。
そうなってくると当然、生活の場は、バーチャルネットワークの世界となる。
データ容量も、通信速度も、宇宙空間を揺蕩う量子コンピューター兼無人データセンターである『DOMINANT』により解決していたからな。別に、毎年記憶がリセットされるとか、デジタルデビルとかそういうアレはない。赤い薬と青い薬でアンダーソン君が……でもない。運営は本当に信頼できた。
なので、老いも若きも、富める者も貧する者も、全員がバーチャルの世界に大なり小なり関わるのは当たり前だった。
で、そんな2200年代。ゲームに求められるものは……、ズバリ「難易度」になっていた。
何せ、『DOMINANT』のクラウドサービスに少し金を出して、データファイルを少し買えば、バーチャル世界で美食も美女も好きなだけ味わえる。
そんなこの時代の人間が欲しいものは、「達成感」だ。
苦労を、したいのだ。
但し、理論上絶対不可能な、無駄な苦労ではなく。頑張ればギリギリクリアできる、正に「ゲーム」を。
俺達は求めていた……。
その点、この『レジェンズアニマ』の世界は素晴らしかった!
油断をすれば、他ゲーで鍛えた剣技も武術も通用せず即死し……、頭を使って立ち回れば、案外あっさりと勝てたりもする。
難しいが、救済要素的な武器種や、オンラインによって他プレイヤーと共闘し強敵を倒してもらうこともできた(裏切られないとは言ってない)。
対人要素もしっかりしていて、ランキングや神への貢献度の数値化などというプレイヤー大喜び要素も多数搭載。
そしてストーリーも、多くを語らず、プレイヤー同士での意見交換を活発化させた……。ゲーム内で調べれば、詳しい情報もいくらでも手に入ったしな。国が滅んだ理由を解明しながら戦うのは、単なるアクションVRRPGで終わらない「やり込み要素」だった。
いや、本当に。
やり込むに足る、素晴らしいゲームだったんだよ……。
……だが、こんなことになるんなら、あらかじめ、二十一世紀の最終戦争前の日本をリアルに再現しつつも異能バトル要素を組み込んだギャルゲー兼格闘ゲームの『真拳で私を愛しなさい! Ω』をプレイしておいたんだがな。ムーザランを万単位で周回させられるくらいなら、ギャルゲーの方が億倍マシなのである。まあ、もう過ぎた話か。
さて……、それで。
警戒対象であるルーフという商人がいなくなった以上、こちらとしては、もう何もない。
本題である、聖都フィンドルニエへ行くために、この港町ランポートで準備をする……。
港町、ランポート。
南方らしく、暖かい土地。
ただ、その暖かさは、海風の湿気で蒸してしまい、少しばかり不愉快だ。
だが、眼前に広がるエメラルドの海は、地球の汚染された青黒い海や、ムーザランの血色の海と比べると、本当に美しい。
照りつく太陽も、死の予兆を感じない。
ムーザランの、昏く悍ましい、怖気の走るような紅色ではなく……。
……黄色の、燦々と輝くそれは、熱く滾る生命力の象徴のようで。
砂浜の輝きも、人々の活気も。
全てが、命に溢れていた。
街並みは木造の、風通しの良さそうなものばかり。
人々の服も薄着で、人夫や漁師は半裸だ。
一瞬、薄汚い中年の半裸をララシャ様にお見せするなど不敬では?と思ったが、ムーザランでは褌一丁で人斬り包丁を担いで転がってくる変態が定期的に湧いて出ていたのでセーフとすることにした。
そして、道。
意外と立派な、石畳。
見れば建物も、倉庫や、大使館だろうか……?そういったところは、かなりしっかりとした建物が建っている。
良いところだろう。
ララシャ様も、美しい景色を堪能なさっていらっしゃる。
俺はしばらく、ララシャ様と海を眺めていた……。
……「ゲヘヘ……、うまそうなリンゴじゃねえか!一つくれや!」
……「は、はい……。あれ?あ、あの、お代は?」
……「ああ〜ん?俺達から金を取るだとぉ?オメエ、俺達が誰だか分かってんのかぁ?!」
……「俺たちゃ、泣く子も黙る『レッドクイーン海賊団』だぜ?!」
……「舐めやがって!おい、テメェら!こいつを教育してやれっ!」
……「「「「へいっ、兄貴!」」」」
……「ひ、ひいいっ!やめてくださいぃ!やめてぇ!!!」
本当に、良い景色だ……。
「いや、あの、エド?」
野良犬がまた喚いているが、いつものこと。
とりあえず無視しておこう。
「エド!ちょっと!エド!」
「美しい光景ですね、ララシャ様」
「うむ。我が城のある、『月の都カルディア』は山国故、海を見る事はない。……良いものだな、海とは」
俺に寄り添いながら、海を眺めるララシャ様。
心は麻痺して久しいが、これは恐らく、幸福というものだろう……。
「ああ、もう……っ!私が行きます!コラーっ!やめなさーい!!!」
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