第122話 行商人の正体

ここは、港町ランポート。


その郊外の、小さな廃屋。


そこで一人の大男が……、地球でいう「電話器」のような形をしたマジックアイテムを使っている……。


「……大丈夫か?」


「ああ、盗み聞きしている奴もいない」


「本当か?確認を怠るなよ?」


「安心しろって、ルーフ『族長』よ……。俺達は、人間に化けている今でも、耳や鼻は狼と同じくらい利くんだぞ?あんたも分かるだろ、同じ種族なんだからよお……」


「馬鹿が!あの勇者を舐めるなと、魔王様も仰せになっていらしただろうが!!!それに、何かあった時、責任を取るのは私なんだぞ?!!!」


「わ、分かった、分かったよ……!」


「……本当に大丈夫なんだな?魔王様に連絡するぞ」




「……もしもし、魔王様。こちら、『人狼内偵隊』の隊長、ワウ・ルーフにございます!」




「……で、族長?魔王様は?」


「ああ、お褒めの言葉を頂いたぞ!」


「ふうん……」


「うん?不満なのか、ヴルよ?お前は私の副官、意見があるならば聞こう」


「じゃあ、言わせてもらうがよ……、俺達、何を褒められてんだ?勇者の野郎に手傷を負わせた訳でも、勇者の仲間を殺せた訳でもねえ。人間だって、殺してねえ。……こんなんで、俺達『人狼族』が、何で褒められる?!寧ろ、侮辱なんじゃねえのか、これは!」


「ヴルよ……、その考えは愚かだぞ」


「あ"ぁ?!」


「まあ聞け。私も、先代の族長も、嘗てはそう考えていた。誉れとは、戦いの中でこそのものである!と……。だが、違うのだ。時代は変わった」


「何も変わっちゃいねえだろうが!俺達は、草原を駆け、闇に紛れ、月光と共にヒトを狩る!誇り高き狩人だ!!!」


「では!その考えで一族を差配した、先代は!お前の親や兄は、どうして死んだ?!」


「そ、それは……」


「殺されたのであろう?人間に!いや、こう言うべきか……、『人間の知恵』に!!!」


「くっ……!」


「奴らは数が多く、そして賢しい!……我々の塒は暴かれ、女子供も容赦なく殺された!悔しいだろうよ、それは分かる」


「だ、だったら!俺達の手で復讐を!」


「それこそが、人間共の思う壺であると、何故分からんか?!」


「なっ……?!」


ワウ・ルーフ。


ワーウルフ族、ルーフの氏族。


その、若き族長にして、魔王直属の「偵察部隊」を預かる男。


彼は、厳しい目をして、部下に言葉を投げかける……。


「人間達は、我々より賢い!まず、そこは認めなければならん!……我々ワーウルフ族も、古来から存在しているが、人間のように巨大な都市を作ったり、城を建てたりはできていない!その点において、我々は人間より劣っている!」


「ふ、ふざけるな!俺達ワーウルフ族は、高等種族だ!人間共は俺達の餌で……」


「そう思って、人間共を侮ってきた、先代先先代の族長は死んでいったぞ。先代先先代の魔王様方もな」


「そ……、れは……!」


「まず、認めることだ。人間は、強い。悔しいが、ワーウルフ族の独力では、歯が立たないのだ……」


だが、と。


ワウ・ルーフは言葉を重ねる。


「だが、今代の魔王様は違う!人間を嘗めていないッ!!!それどころか、人間の知恵を吸収し、我が物としている!!!我々、魔族の強さと、人間の知恵を使えば、魔族の方が有利なのは自明の理だろう?!」


「に、人間の知恵を……、か。悔しいが、利用してやると思えば……!」


「そうだ!魔王様は多数の人間を喰らい、知恵を奪っていらっしゃる!この、『電話』もそうだ!勇者から奪った力を使って作ったものだ!」


「だ、だがよ、本当にこんなことで役に立ててるのか?俺達はただ、勇者が港町に来たと報告しただけじゃねえか……?」


「うむ……、これは秘密なのだがな?実はもう、既に魔王様は行動なさっている」


「何っ……?!電話で、少し話を聞いて、それだけで何を?」


「実は今、港町には、魔王様の息がかかった人間のならず者達がいるらしいのだ。そいつらが、勇者に対して妨害をする!」


「だ、だがそれだけじゃ……!」


「無論、それだけではない!あのならず者達の中には、魔王様が『勇者召喚』の術式を人間達から盗み手に入れた……、『魔人召喚』の術によって呼び出した……『魔人』共がいる!!!」


「ま、魔人……?」


「それだけではなく、魔王様の偵察用のイビルアイなども配置されており、その魔人達すら捨て駒として、新たな勇者の更なる調査をするのだ!……恐らくは、私にも知らされていない策が二重三重とあるだろうな。恐ろしいお方だ、魔王様は……」


「お……、おおおっ!じゃ、じゃあ俺達は……、勝てるんだな?!今度こそ、人間共を支配して、俺達の国が持てるんだなっ?!」


「そうだ、そうに違いない!魔王様を信じよう……!」




人狼、ワーウルフ。


魔王側に属する、亜人の一種。


彼らは人に化け、人の世に紛れ、偵察や情報操作を行なっていた……。


今までの、力押しのみしかしない魔王とは異なり、策を弄する今代の魔王。


対策手段のない人類の運命は……?

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