第118話 謎の行商人

「え、あの、降参してたじゃないですか……?」


「そうですね」


「い、良いですか、エド?普通は、降参してきた盗賊は、逮捕して街の衛兵さんに引き渡すんですよ?その方がお金になりますし……」


「そうですね」


「そ、それにっ!裁判にもよりますけど、大抵は、処刑とまではなりません!鉱山送りとかです!殺そうとすると、あっちも本気になりますから、逮捕で済ませるのがベターで……!」


「そうですね」


またごちゃごちゃ言っているシーリスこと野良犬を適当に無視して、俺は、宿場町で休憩をしていた。


一日移動して、今日はここで休むということらしい。


……王都の石畳はまだ続き、道がちゃんとあり、こうして道の側に宿場町もある。


流石に街灯までとは言わないが、何らかの……いや、魔除けの波動を出す魔導具?とか言うものが、一定間隔で配置されている。その、魔除けの魔導具には、ランタンが灯されていて、明るい。


道中には、六人程度の兵隊、衛兵?そういった奴らがたまに巡回している。


そいつらも、揃いの武装をしていることから、かなり高等な連中だと分かる。本当の中世の兵士は、揃いの装備なんて揃えられないから、皆それぞれが鎧も武器もバラバラだったらしいしな。


道行く人々も礼儀正しく、なんと、道ですれ違う時に会釈をしてくる。そう言えば、識字率も高かったな。うちの野良犬すら、娯楽小説を読めるくらいには、この世界の平民の知識は多い。


……相変わらず、文明の発展のバランスが歪だな。


まあ、まっすぐな道をゆったりと歩き、宿屋で休めるのは明確なメリット。


メリットがあることに対して目くじらを立てるのはおかしいし、スルーしておくか。


で……、宿。


どうやらヤコが、手下というか従業員を先触れとして派遣して予約しておいたようで、その宿場町で一番良い宿を常に予約している状態にあるそうだ。


また、ララシャ様用に、その地の名産料理を用意するよう、宿に注文してあるのだとか。


ふむ、仕事ができるな。相変わらず……。


今日の宿も、一番良い部屋を取ってあるらしく、そこで名産の料理が出るのだそうだ。


メニュー?この時期だと、鹿のローストらしい。


この辺りが原産のベリーを使ったソースをかけたそれは、甘酸っぱく、さっぱりとしていて、密かな人気がある……、と雑誌に書いてあるとか?


……旅行雑誌とかあるのか、この世界。ムーザランよりも、2200年代の地球よりも、ずっと豊かで文化的だな。


地球が文化的ではない判定である理由?度重なる戦争と環境破壊で、母なる星の殆どを破壊し、技術力で無理矢理生き延びているようなクソ蛮族である「地球人類」って豊かで文化的なのか?


……まあ、昔の話はいい。どうせもう、実感を伴った思い出はほぼないんだから。


そんなことより、折角なので、ララシャ様とその人気らしいメニューを頼んでみようか。


「それは良い、是非、ララシャ様にご賞味いただきたい。注文しておいてくれ」


「ええ、もちろんですわ」


ヤコがいると、こうして、万事が恙無く進むな……。


何の役にも立たない癖に、最近やたらとイキっている野良犬の存在意義とは……?


いや、まあ、肉盾になれば十分なんだが。


最初からノーコスト囮として配置しているので、肉盾になるまで頑丈になったことを褒めるべきで、イキってるだとか無能だとか役立たずだとか貧相な身体だとかガキ臭いだとか、そういうのは別に気にしていないし、気にする必要がない。


「あ、エド!アカツキちゃんにお団子もらいましたよ!」


……生まれて数ヶ月のガキに餌を貰って喜んでいる野良犬。


先程、囮以外には使えないカスであることは問題ないとは考えたが……、何というか。


羨ましいな、楽しそうで。


「………………」


ヤコが冷たい目でシーリスを見ている。


真性のアホを見る目だ。


しかし、シーリスは鈍感なので、気づかない。


「……あげませんよ?」


いや、視線には気づいた。こいつも一応戦士だからな。


ただ、視線の意味までは分からなかったようだ。


「……コレが仲間なんて、旦那様も苦労なさっているでしょうねえ」


「全くだ」


「えっ?!苦労させられてるのは、どう考えても私達の方では?!??!?!」




こうして俺達は、ヤコの手配の元、道中の特産品をララシャ様に召し上がっていただきつつも道を進んだ。


そして、王都の大街道の石畳も途切れるくらいの遠くに来た辺りで……。


「おや?こんにちは、商人さんかな?」


道のど真ん中で擱座した馬車を囲んでいる、隊商があった……。


「あら、こんにちは。どうなさいました?」


ヤコが笑顔で訊ねる。


仕事の時の顔だ。つまり、顔は笑っているが、心は笑っていない。


「どうも何も……、商売道具がこの有様でねえ……」


そう言ったのは、短髪の男。


大柄で筋肉質、商人には見えないが……、フェルトの丸帽子と短めのケープ、服装は商人のそれだ。


と言うか全員、体格がいいな。


護衛らしき冒険者も、商人本人も、荷運び人夫も。


ガッチリとしていて、更にシャープ。アスリートのような体型だ。


ただ、身体の動かし方は戦士のそれではなく、どちらかと言うと狩人のような感じ。


戦闘はできるが、武術は使わずに、身体能力と野生的な感覚のみで戦うようなタイプか。


「そうですか、大変ですねえ」


「良かったら、助けてくれないか?修理の為の道具を忘れてしまって……」


ふむ……。


なんかイベントが起きたらしいな。


とりあえず、俺には関係ない。


俺は先に進んだ。


「ちょいちょいちょい!待ってくださいエド!困ってる人は助けるべきですよ!」


シーリスに掴まれた。


「じゃあ早くしろ」


「……ヤコさん、道具ってありますか?」


「今、従業員に持ってこさせていますよ」


そうして、若い男の従業員が、擱座した馬車を器用に直す。


「おおっ!ありがとう!」


大柄な商人の男はそう言って喜んだ。


だが、どこか嘘っぽい。


商人とは、みんなこんな風に胡散臭いものなのか?それとも……。


……問題があれば、都度、対処する。なので、現状問題がなければそれでいいとしよう。


「では、これで……」


俺達はそのまま先に進もうとするが……。


「まあまあ、どうせなら同行させてくれないか?これも何かの縁だろう」


と、大柄な商人は、やけに絡んでくる。


「俺の名は、ルーフってんだ。よろしくな!」


ルーフと名乗ったその男は、馬車を横付けして、そのまま着いてくるらしい。


ふむ……。

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