第117話 ランポートへの道程

さて、俺は今、王都から出て街道を移動している。


王都近くの街道は、なんと石畳。


ローマよろしく、しっかりと整備されていた。


そしてその街道の途中には、様々な宿場町があり、移動の最中に休むところや食事が必要になった際に困ることはなさそうだ。


そんな道中で、いつものパーティメンバーを名乗る囮共と、ヤコ、アカツキ(娘)、ヤコの護衛数十人は、それぞれが普通に会話をしていた……。


「そう言えば、フィンドルニエってどこにあるんですか?」


野良犬が言った。


「シーリスさんが知識と知能に乏しいのは分かっておりましたが、素直に疑問を口に出せるのは美徳ですわね〜」


ヤコが言った。


「ゔー!エド!私これ、また馬鹿にされてます?!」


「そうですね」


俺が言った。


そして、豪奢な馬車の御者席に、アカツキと一緒に乗っているヤコが、説明を始める……。




「良いですか?まず、『聖都フィンドルニエ』はご存知ですよね?」


「えっと、『聖地』って言う、この国で一番神聖なところにある街ですよね?」


「ええ、建国王ヨシュアが最初に降臨した地であるとか、あらゆる神殿の祭壇があることとか、色々ありますが……、学のない者はそう習いますね」


「う、うるさいですね……!この前、王都の学園で勉強しましたよ!」


「そうですか?まあ、とにかく、聖都は宗教的に大きな意味を持つ土地である訳です。……そんなところから、今代の勇者である旦那様に、呼び出しがあった訳ですね」


「……え?ついに?」


「……何か勘違いをなさっているようですが、呼び出しとは、悪いことをやって叱られる時以外にもあるものですよ?例えば、『感謝の気持ちを直接伝えたい時』などですね」


「あっ、え、あ、ああ!そうか、そうですよね?!エドは最近、大人しくしてましたもんね?!少なくとも、一般市民はやってないですもん!」


「とにかく、聖都フィンドルニエは、新たな勇者を呼び出して権威付けをしたい訳です。先代も、先先代も、フィンドルニエを訪問していらっしゃいますからね」


「なるほど!……あれ?でも、エドが大人しく言うことを聞くとは思いませんけど?」


「聖都フィンドルニエは、この世界の宗教の総本山です。この聖都の大神殿に祭壇を置くことは、とても名誉なことであり、世界的宗教の証となるのです。……逆に、聖都フィンドルニエの大神殿に祭壇がないような教えは、土着の氏神に過ぎないと、公には思われてしまいますわ」


「ああ……、なるほど。つまりまた、ララシャ様の為ってことですか……。じゃあ、今はそのフィンドルニエに向かってるんですね?」


「いえ、フィンドルニエは島ですので、フィンドルニエに向かう為の船がある港町……『ランポート』に向かっておりますわ」


「へー!船ですか!私、船に乗るの初めてです!」


「そうですか。揺れますので、酔わないようにしてくださいね?」


「はーい!」


そんな話をしている奴らを横目に、俺はオルガンに跨り、道をゆく。


ララシャ様の、この世界における権威を高める仕事だからな。


正直、ララシャ様の素晴らしさは俺一人が知っていればそれで十分では?という気持ちがない訳でもないが、ララシャ様は、権威を高めたりするのがかなりお好きなお方。


であれば、尽力するのは当たり前だな。


ララシャ様に対する不遜はその場で殺すが、別に殺しまくりたい訳でもない。ララシャ様の権威が高まり、人々がララシャ様に尊敬の念を抱くようになるならば、殺す手間が省けてアドという感覚は確かにある。


「面倒は嫌いなんだ」とも、もはや思えぬ虚無の心。


やるともなれば、ただでさえ空っぽの心を更に殺して、無心で剣を振るのみ。


ただ、面倒が減るのは、良いことだ。俺の精神的問題ではなく。


面倒が減り、俺がフリーの時間が増えれば増えるほど、俺はララシャ様に様々なご奉仕ができる。


時間が無限である「聾の者」だが、今という時は有限なのだ。それを俺は良く知っている。時限イベントでな。


ムーザランでは、守りたかった女や友人が、時期を逃せば手のひらから零れ落ちる。


もちろん、時期を逃さなくても、自らの力不足や、守られる側の主義主張との相違など、様々な理由で死なれる。理由がなくても死なれる。


『陽光の騎士』、『小さな聖女』、『巨人の鍛治師』、『巨狼の友』、『古き竜人』、『白峰の巫』、『腐れの姫子』、『蟲憑きの剣士』、『半獣の狩人』……。


みんな、死んだ。


狂った彼らを、俺が殺した。


ムーザランでは、救われぬのだ。


そんな風に、過ぎ去ったことを思い出しつつ、俺はホーンから槍を出した。


《帰郷の槍》

《戦いを終えた遠征騎士が手にした槍。

ムーザランにて最も精強と謳われた遠征騎士達は、深淵より出る「獣」を討ち果たしたが、身に染みついた混沌により、その殆どが帰路の途中で斃れたという。

「帰郷」のルーン文字が刻まれており、投擲などで手放した際には、必ず持ち主の手に戻る。》


「へっへっへ……!俺達は、泣く子も黙る『オスカー盗賊だ……ンッ!!!」


投擲。


目の前の男の、上半身が爆ぜる。


「うわあああ?!!??!せめて一声かけるとかしてくださいよぉーーーッ?!!?!?!」


男の残滓が弾けて、近くにいた野良犬が血塗れになる。


それを見て我に返ったらしい、他の男達は、武器を投げ捨てて手を上げ、言った。


「ひ、ひいっ!ま、待ってくれ!降参だ!降参す———」


「そうですか」


俺は、戻ってきた槍を掴み、投げた。

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