第113話 メタと本気と

ver1.02で猛威を振るったクソビルド、『連弩ロイド』……。


機械式の弩(ボウガン)こと連弩と、射撃系武器のリロード時間を短縮する『ロイの狩衣』を装備し、そこに一度放った攻撃を幻影でもう一度繰り返せるルーン術『ドートレットの追い影』を使ってFPSをやるクソ虫だ。


こいつらが当時はかなり沸いていて、戦場で出会うのは八割これというクソみたいな有様だった。


このゲーム、「レジェンズアニマ」は、製作会社という名のサイコパス集団の意向により、難易度が高めである。


単純に装備品にこだわるだけでなく、確かなプレイヤースキルも重視しなければならない、と……、そうプロデューサーが直接言っていたくらいには、練習が必要なゲームだった。


それを、キッズ向けの課金式FPSゲーマーでも簡単に勝てます!なんてふざけたビルドが流行るなど、許される話ではない。


動画配信サイトにクソデカ赤文字で「これで勝ち確!」「FPSゲーマーが近接キチ煽ってみたw」「頭使えば脳筋にも勝てます(笑)」などと散々煽られ……。


そして俺達wiki編集部は、キレた。


編み出したのが、『連弩ロイド』ガンメタビルド……、『わんわん盾』。


レジェンズアニマの世界は、テレビゲーム時代のオープンワールドゲームなど鼻で笑える程度には広大で、AIを組み合わせた生成プログラムにより、運営や我々にすら把握されていないアイテムや技が必ずどこかにあった。


周回をしても、何百人もいるNPC達は毎度違う答えを出すし(そして殺し合うことになるし)、世界は広過ぎて、サービス開始十年目でもまだマップすら未完成。


そんな世界ならば、隅々まで探して、無数の技や武具を組み合わせれば……、いくらでも対抗策があるものだ。


月龍の姫ララシャ、大いなる神霊に下賜される『月龍の咆哮』と。


ラシリス方面を放浪する魔術師ルードウィンから3000ホーンで購入できる『理力の盾陣』……。


この二つの組み合わせは、『連弩ロイド』を完封できた。


やっぱり斬り合いがナンバーワン!今この瞬間は力こそが全てだ!と。


……まあこれもver1.03の『W火レイ降臨マン』にメタメタにボコられるようになったのだが。


いいゲームだなあ(皮肉)。




さて、そんな愉快な過去話を思い出しつつ、俺はホーンから刀を引き出した。


《落華艶刃》

《『稲穂の国』の名高き剣鬼、セイゲンの愛刀。

紅色の刃は、死血を固めて作った呪いの刃であり、触れた者に強力な出血ダメージを与える。

その死の刃は、持ち手の身も引き裂くという。

セイゲンはこの諸刃を、自他の鮮血に塗れながら振るう故、人ではなく鬼と例えられた。》


「血が出るなら殺せる、とはよく言うな。血が出る身体になるとは、殺せる身体に退化してくれたってことか?」


『何を……?!』


さあ、ルーン術で生成した盾が残っているうちに、押し込ませてもらうぞ。


武技発動———!


———『紅桜』!


俺は、五条の斬撃を放った。


血のように赤いそれは、中心から放射状に、均等に五本。


殺戮要塞は、機動性的に避けきれず、五つの斬撃の全てを前脚に受けた。


すると、刻まれた斬撃から大量に出血した!


血が出た!


『ぐっ?!な、なんだこれはあああっ?!!!』


その有り様は、武技の名と同じく、『紅桜』。


大量に撒き散らされた血が、赤い桜のように見える。


「ムーザランでの出血ダメージは……、最大HPの三割だ。ボスでも一割は行く」


『何を……、何を言っているぅうう?!!!』


さあ、このまま失血死させてやろう。


そうして、何度か斬りつけていると……。


『おのれ……、おのれおのれおのれぇ!!!我の真の力はこんなものではないっ!!!見せてやろう、我が力の真髄を!!!』


と、なんか第二形態になり始めた。


止めようとは思ったが、流石に質量差が大きい。


脚先をちょいちょい斬るだけにとどめておこう。


で、その真髄とかってのは……?


『知恵の勇者から奪いし力!《科学力》だッ!!!』


ほう、超大型レーザーサーベル。


それを三本、一つは後部、二つは前脚の前から生やしていた。


蠍のような形になっているな。


アレは、当たったら流石に大ダメージは避けられないだろう。


「わんわん盾」も使えないな。


「わんわん盾」は、一定以下の威力を持つ遠隔攻撃の連射に強いタイプのビルドだ。


一撃の威力が大きい……それこそ『W火レイ降臨マン』なんかには弱い。


奇しくも、メタを張られてしまったことになる……。


だが、甘いな。


「メタの張り合いで俺が負ける訳ないだろ」


俺は即座に戦法を切り替えようとした、その時。


懐の、時計の。


タイマーが、鳴り響いた。


「あ……、ああ!あああああああ!!!!」


『死ぬがいい!』


「うおおおおおあああああああ!!!!!!」




『直撃だ!やったぞ!炎より熱い光の剣をその身に受けて、生きてはいるまい!ハハハハハ、ハーッハッハッハ!!!!』


「ララシャ様のお食事の時間になってしまったあああああ!!!!!!」


俺は発狂した。




『何ッ?!何故生きている?!』


「ララシャ様の……、お食事の時間に……、間に合わなかった……ッッッ!!!!!」


『何を言っているのだ、こいつは?!』


「自分で自分が許せん……!こんな程度のエネミーに、時間をかけて……、ララシャ様にご迷惑をォおおおおお!!!!!ウオオオオオアアアアアアアーーーーーッ!!!!!!」


『く、狂っているのか……?!』


殺す。


殺す。


即座に殺す。


『大音韻(大ホーン)』、装着。


その意は『変調』。


神王の血族、神々の公爵。『爛れ谷のレストバーン』、その秘奥。


儀式武技、発動。


———『レストバーンの溶鉄城』

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