第107話 次の塔へ

機械兵(大)を壊したところ、青色のバリアを張っていた目の前の『水の塔』は、光を失った。


恐らく、四体の機械兵(大)が、バリア発生のために必要な要素だったのだろう。よくあるな、そういうのはどんなゲームにも。


鍵の閉まった門のストッパーを斬り、蹴り倒して、中に入って上に登ると……、見るからに、何かしらのエネルギーを王城へと送っている大型水晶がある。


まあ可視光線というか、魔力エネルギーが水晶から王都に伸びているのだから、これ以外に目標物はないだろう。常識的に考えてそうだ。


ムーザラン的に考えると、人格ドブカス製作陣は「ざんねーん!上の水晶はブラフで、本命は塔の地下の地脈ラインでしたー!」とかコチラをクソ舐め腐ったセリフを吐き、苦情メールが来ると「分からないユーザーが悪いんじゃないの?(要約)」みたいなことを公式サイトに謝罪文(煽り)として出しそうなものだが……。


どうやら、この世界の……いや、これを作った勇者とやらは性格が良かったらしい。


念の為に塔の近くや地下を探索したが何もなく、力の波動を感知してみても、この水晶以外に重要そうなファクターはないことが判明しているからな。罠なども特になかった。


確かに、日常的に点検したりする必要がある防衛の塔に、日常的に出入りするのが困難なほどに罠やエネミーを配置するのはおかしいからな。そんなことはムーザランのクソ共しかやらないはず。


つまり、これを壊せばこのエリアはクリアということだ。


「あ、あの、今後のサンドランドのことを考えると、防衛機構はなるべく保持して」


斬った。


「あああ……、やっぱり……」


クララが何かを言っていたが、まあ問題ない。


こんなレベルで焼け野原にされておいて今後もクソもないだろうしな。


ここに来るまでに、何度かサンドランド支配下の村や街があったが、そこも攻撃され破壊されていた。


人の死骸もかなり見ている。


ここまで徹底的に破壊されると、最早独力での復興は不可能だろう。


防衛機構だけ残してどうするんだ?


ああ、勇者様とやらの遺産だからか。


尊敬すべき勇者様の遺した物だから、文化財的な意味もあってー、みたいな?


だがそんなものよりも、イレギュラー要素を排除した方がいい。


アチーブメントに拘って本編クリアができないなんて、笑い話にもならない。いや、なるな。動画映えしそうだ。


しかし俺は別に実況動画を作っている訳でもないし、そんな余裕を見せての魅せプレイをする必要はない。可能ではあるが。……それだけの話だ。


なので、順当に。


クエストの導線に沿うように、重要そうなオブジェクトを破壊した。


……それより、本題であるララシャ様のお砂糖は無事なのだろうか?


国などどうでもいいのだが、それだけが気がかりだ。




「オあ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!死ぬぅーーーッ!!!!」


さあ、時間は有限だ。


疲れて歩けない、などと、意味不明な発言をするシーリスをオルガンにくくりつけ、砂漠を駆け抜ける。西部劇とか言うので見たような記憶がうっすらとあるな……。こう、罪人をロープで縛って、馬で引き摺り回すやつ……。


だがまあ、ムーザランの装備を着せているので問題ないだろう。多少顔が削れるのは許容範囲内だ。


「削れてるの私の顔なんですけどォ?!!!!」


目の前にあるのは緑色のオーラを纏った……恐らくは「風の塔」。


遠眼鏡で見た限りでは、赤いオーラの塔……「火の塔」は、既に特戦騎士団によって攻略された後らしく、光が消えていた。


まあ、奴らも、この世界の基準だがプロ。


ここの囮共に及ばずとも匹敵しかねない程度の実力を持った騎士がずらりと並んでいたのだから、あの人数で攻略できなきゃ嘘だ。


見た感じ、あちらは部隊を三つに分けて、こちら側の「風の塔」と向こうの「土の塔」、両方に人員を差し向けているらしい。


中々にやる気があるな。


ララシャ様のご威光が届いている訳だ。鼻が高い。


「はあ、はあ……、いえ、あれはエドワード様が皆殺しにする前に、生き残りを救出しているだけかと……?!」


横でオルガンに追いつこうとガンダッシュするクララが呟く。


「そうなのか?ララシャ様の御夕飯の時間が押しているというのに、そういう態度なのか?」


殺すか……?


俺の心の穏やかさが失われてゆく。


「はあ、はぁ……!避難民の回収は彼らの優先事項です!ふぅ、はぁ、この国の民がいなくては、砂糖造りのノウハウが、はぁ、失われるんです、よっ!おえっ、はあ、はあ、はあ……!」


……ふむ、なるほど。


一理あるな。


ララシャ様を敬わないのは許せんが、それはそれとして、ララシャ様の役に立つのであれば生かしておくべきだろう。


俺の衝動的皆殺しで個体数を減らせば、その分だけ富が減る。


それは、ララシャ様が今後手に入れる富の総数も減るということ。


ララシャ様を想って怒るのならば、それと同じくらい、ララシャ様を想って堪えねばならないはず。


自制せねばなるまい。


「良いだろう。避難民は殺さないようにしておく」


……不遜な考えかもしれんが、ララシャ様の本日のみの御夕飯よりも、継続的に砂糖が失われる方がダメージは大きいからな。


その辺もよく考える必要がある、か。


いつものように、脳死で目の前の敵を斬るだけでは問題がある。そういうような状況が多いな、最近は。


「た、助けてくれーっ!」


「痛い、痛いよう……」


「勇者様、助けて……!」


俺は目の前のサンドランド市民を飛び越えながら、風の塔へと急ぐ……。


「ウオオオォ!こういう時のために調合しておいたエルフの秘薬だ受け取れェ!」


「はあ、はあ……、走り過ぎて脇腹がぁ……!うっ、はぁ、『ヒールウーンズ』!『ヒールウーンズ』!並んでくださいごほっ!うぉえ!」


「はいポーションにゃ!え?お礼はいらな……あああ待ってにゃエドワードさん?!」




辿り着いた。


風の塔……。


先ほどの水の塔と見た目は同じだが、纏っているバリアの色が緑色ではあるな。


機械兵もずらりと山ほどいる訳だし、とっとと片付けるか。


……しかし囮共は、さっきからちょいちょいと救助活動とやらに手を出していて、疲労困憊だ。


「……救助は騎士団がやると言っていなかったか?」


「はあ、はあ、はあ……、目の前に居たら、見捨てられ、ません!はあ、はあ……」


そうですか……。


オロロロロ!と、走りすぎたらしく口から胃液を吐き出しているクララをスルーして、他に使えそうな囮は……。


ええと、ランファは体力があるらしく、既に機械兵と交戦しているな。


ナンシェは、瓦礫に隠れている地下室から、子供を救出している。


となると残りは……。


「ヴォエッ!死ぬ……!本当に死ぬ……!エドに殺される……!」


「も、もう走れなっ……こひゅ、ひゅー、ひゅー……」


疲労と怪我でボロ雑巾になっているシーリスとアニスか。


人間ってスタミナゲージの回復が遅いんだな。不便なものだ。


むむ、雑魚機械兵が来たな。


『『『『排除シマス』』』』


マシンガンを撃ってきた。


ので、目の前にいるバカ二人を使ってガードする。


バカガードということだ。


「「ア°ア"ァーーーーーッ?!!!!」」


……ふむ。


ムーザラン装備と本人達の硬さで、小口径の銃弾程度なら数十発喰らっても死なないか。


まあ痛みは感じるらしく、尿失禁しているが。


よく漏らすなあ、こいつら。相変わらず下が緩い……。


俺はシーリスとアニスをクララに投げつけて言った。


「修理しといてくれ」


「ひ、酷い……?!」


いやだって、固定砲台兼肉盾兼囮だろお前らは。


白目を剥いて鼻血を垂らしながら失禁している囮二つを預けてから、俺はメイスを片手に機械兵の群れへと躍りかかった……。

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