第104話 避難民

サンドランド王都の建物の天辺が、地平線に見えて来たところだろうか。


ここからでも、大きな塔と、大きな城の頭が見える。


そこで、俺達は、砂漠の入り口に座り込む、複数の人影を見つけた……。


近付いてみると、それは人。


飢えて渇いた人だった。


「た、たすけてくれ……」


「み、水……」


「ううう……」


それを見て、特戦騎士団団長は、部下に救助を命じた。


「サンドランドから逃げてきた一般市民」というような見た目だからな。兵隊として、一般市民を放置することはできないということだろう。


無論、随伴している魔法使いに鑑定魔法でチェックさせるのも忘れない。


鑑定魔法ならば、呪いや状態異常に、犯罪者かどうかもある程度分かるらしい。


救助をするにも罠を疑いつつ、しっかりと対処しながらやったということだな。


流石は、国一番の戦闘能力を持つ騎士団ということか?練度が高いのだろう、こういう救出ミッションも卒なくこなしたな。


俺は、まあ、救助とか興味がないので、ティータイムの時間ということもあり、早々にララシャ様を天幕にお連れする。


……この天幕と言うのも、かつての勇者が作ったらしいマジックアイテムだな。


勇者の中には、直接的な戦闘能力ではなく、生産力に力を割り振られた者も多いらしい。


そんな勇者の遺産は、王家や貴族家で受け継いでいるのだとか……。


そしてその、勇者の「チート」という力で作られたマジックアイテムは、この世界の人々には中々解析できず、複製品も殆ど作れないため、貴重だそうだ。


なので、「カプセルを開くとそこから天幕やら家やらが生えてくる」みたいな不思議なマジックアイテムも、原理は分からないがそういうものとして受け入れた。


ムーザランにはこんな平和的なアイテムは基本的になく、割ると「Thank you!」と音が出る細工物や七色に光る石とか、そういう純粋なゴミを除くと、殺意ビンビンの武具や薬品しかなかったので新鮮だな。


具体的に?毒が湧き出す投げナイフとか、飲むと獣性が高まる丸薬とか、齧ると防御力が上がるエビとか。


飲むと身体が重くなる薬とか、糞の詰まった瓶とか、ホーンを流すと火を噴く骸骨とか……。


まあ、ムーザランのことはもういいだろう。離れて半年くらいが過ぎたが、もう既に1ミリも帰りたいと言う気持ちが湧かないからな。あんなところに帰るなら死んだ方がマシという感覚が大きい。……いや、死ぬのは別に怖くないからあれか?


「大丈夫か?!何があったんだ?!」


「う、うう……。わ、分からない……。突然、移動要塞が暴走して……!サンドランド王都は火の海に……!」


隣の天幕からは、そんなやりとりが聞こえてくる。尋問というか、質問をしているみたいだな。


やはり、見た目通りに、あのボロボロの人間達はサンドランドからの避難民だったか。


興味がないので詳しくは知らないが、サンドランドの貴族の一人が、独断で伝令をこちらの国に走らせたとか?


その伝令が言うには、「サンドランド王都は火の海、移動要塞が暴走中」とのことらしいが……。


常識的に考えて、今から行っても人助けなんてできる訳がない。


なにせ、その知らせを持って来た伝令がサーライア王国に到着したのは、十日も前の話だからだ。


今から向かっても、サンドランドの国民は皆殺しにされているだろう……。


全ては無駄である。


もちろん、サーライア王国としても、その移動要塞がこちらに向かっている!と言われれば、派兵せざるはえないだろうが……、救助はあまり考えてないようだな。


冷たいことだが、まあ、国としては正しいのだろう。


ああ、因みに、移動要塞が何故こちらに向かっていることが分かったのか?と聞いたところ、どうやら広域レーダーのような魔法が存在するらしい。


儀式で発動するタイプのもので、そこまで多くの情報は得られないらしいが、ドラゴンなどの大型で強力なモンスターの接近はすぐに分かるようになっているのだとか。


……待てよ?


それだと、移動要塞もモンスター扱いなのか?


あれだ、ほら……、魔王軍?とか、そういうのに乗っ取られているのか、これは?


……まあ、興味はないが。


俺も虫に乗っ取られて頭からムカデがこんにちわしている友人の介錯とかよくやったし、慣れているので問題の方も全くないし。


どうにかなるだろうよ、多分……。




「た、たすけて……」


「うう……」


「うえーん、おかーさーん!」


「パパは?ママは……?どこなの……?」


ふむ。


どうやら、今回の敵はそういうタイプらしいな。


「クソッ……!こんな数の避難民、保護できないぞ?!」


「うわあああ!また機械兵だ!」


「避難民を守れ!」


へぇ……、ムーザランだと人質ごと爆殺するのが基本だったから、こういうのは初めて見る。


これ、アレだろう?


見捨て辛い足手纏いを大量に配置して、こちら側の補給に負担をかけてくるやつ。


昔、何らかの創作物で見た記憶がある。


俺としては、邪魔だから全員殺して先に進めば良いと思うのだが……。


「……放ってはおけません。勇者様、行軍の速度についてですが」


と、特戦騎士団の団長。


「ララシャ様のティータイムを短縮しておいて、今度は何だ?」


ララシャ様のティータイム短縮の件は、まだ殺意はあるが、済んだこと。


それについて混ぜっ返す気は……やっぱり殺しておくか?いや、ララシャ様のご意志が優先だな、なので混ぜっ返す気はない。


だが今度はまた、避難民の救助だか何だか知らんが、そんなくだらない理由でまたララシャ様を煩わせるのか?


それはもう……、殺す。


俺は剣に手をかけた。


「ちっ、ち、ち、違いますっ!こ、これは……、そう!挟撃!挟撃作戦ですッ!!!」


……ふむ?


「挟撃とは?」


「えっ?!あ、あっ、あー……、そう、ちょっと待ってください……、あー……、そう!避難民に聞き取りをした結果分かったことなのですが、現在、サンドランド王都には『四つの塔』がある状態です!」


「四つの、塔?」


「はい!く、詳しい理論については自分も分かりませんが、それぞれが火、水、土、風の属性を持つモニュメントであるらしく、そこから発生する魔力により、中心点の王都にバリアを張り、外敵の侵入を防いでいるそうでして……」


なるほど。


よくある、前提エリアを攻略しないと、メインのエリアには侵入できません!というアレか。


「我々はここで前線基地を建て、避難民の救助に全力を注ぎます!それが終わり次第、進撃して正面の……『火の塔』に攻撃します!なので……」


話が見えてきたな。


「俺は対角線上にある塔を、回り込んで攻略してこい、と?」


「そ、そうです!勇者パーティのお力ならば可能のはず!避難民は、戦闘に巻き込まない限り無視してください!後で我々が回収します!」


ふむ……。


「……え?!勇者パーティで?!死にますよ?!」


話を横で聞いていたシーリスが急に暴れ始める。


「常識的に考えて、ここからでもウジャウジャいるのが分かる機械兵の布陣の真横を、無傷で通り抜けるなんて無理に決まってるじゃないですか!ヤダーーーッ!!!」


「分かった、問題ない。今すぐに出る」


「あっるっでっしょおおお?!?!!問題あるでしょおおおおお?!!?!!?!死ぬんですよ私達があああ!!!!」


「死んで良いぞ、首だけの方が運びやすいからな」


「ヤダーーーーーッッッ!!!!!!!」


作戦は決まった。


さあ、ララシャ様の夕食までには終わらせるぞ。

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