第103話 道中会話
ララシャ様は、基本的に、俺を介さずにこの世界の人間共と会話なさらない。
何故かというと、神だからである。
貴族だかなんだか知らんが、その程度がララシャ様と会話をするなどと……。
例外的に、ヤコや囮共とは、ある程度は話しているが、これは連絡をしたり鍛えてやったりと、必要なことが多いからであって、本来ならば畏れ多いことだ。
もちろん、ヤコも囮共も、ララシャ様には最大の敬意を払っているので、俺も目こぼししてやっている。
礼法云々ではなく、敬意だ。それが足りているのなら、まあ、見逃そう。
要するに、ララシャ様はあまり、口を開こうとはなさらないということだ。
それは、俺の自主性を高めるという意味もあるだろう。つまり愛だな。光栄である。
で、だ。
ララシャ様は殆ど会話をなさらないので、この世界の奴らにはあまり気にされていなかった。
もちろん、万死に値するし、死して詫びるべきだとは俺は思うが……、それは置いておけとララシャ様に言われているので、遺憾ながらも置いておいて、だ。
この世界の屑共からすると、ララシャ様は、勇者に傅く神秘的な精霊とか、なんかそういう扱いになっているらしい。
訂正はしたいが、巷の噂を訂正するのが無理なことは俺にも分かる。例えるならば、インターネットで流出した不都合な画像を全て消せ!と言ってるようなものだからな、それは。
2200年代でも、インターネット上に流された特定の情報の完全抹消は不可能だった。
その分、インターネットを介した名誉毀損などはかなりの重罪になるようになっていたが……。
いや、と言うより、生活空間がインターネット上の仮想世界なのが基本だったから、インターネット関連の法規制が強かったんだよ。
とにかく、流石の俺も「情報」を殺すことはできない。
仕方がないので、舐めた認識をしている奴らは見つけ次第殺します!という提案もしたが、ララシャ様はやるなと仰せだしな。
だから、今後は地道に、「月龍教」を布教して、ララシャ様の偉大さを世に知らしめていくしかないのだ。
ステルスマーケティングというやつだな。
「わ、分かりました。お菓子のメニューは、今後は作り置きできるものを時間がある時に作っておき、それを使って作ることにいたします。メイド衆及び料理人衆にも伝えておきますので……」
っと。
アニスが、ララシャ様の指示を受けているな。
こいつは結局、ララシャ様専属の召使いのような立場になった。
そんなことは俺がやります!と言ってはいるのだが、ララシャ様は……。
———「我が剣よ。お前の使命は、私に茶を淹れることではなく、戦い、威光を示すことだ」
———「ムーザランにおいては、私の不徳によりしもべ達に叛かれてしまったが故、お前にやらせていたが……。本来であれば、お前も我が伴侶であり、高貴な身」
———「このような些事は、召使いにやらせればよい。そんなことよりも、私の傍に居るが良い……」
……と、俺のお世話を断り、傍に召使いとしてアニスを置いた。
アニスには大きな殺意を抱いたが、ララシャ様の言うことには一理が……いや、疑いを挟むまでもなく、ララシャ様のお言葉は全て正しく、全てに優先される。一点の曇りもなく正義なのだ。
まあ……、確かに、召使いにするならば、同性の方が良いだろうと言うのもあるな。
長年共に生きてきた夫婦ではあるが、それ以前にララシャ様は神王の血統にある姫君。
例え夫と言えども、見せられぬ部分はあるだろう。
そういうところに無理やり踏み込むのは良くない。そのくらいの常識感覚は、人間性が磨耗した俺にも、まだ残っていた。
「承りました」
「うむ、退がれ」
「はっ、失礼致します」
……アニスも、しっかりと分を弁えているな。
何か問題があれば頭をかち割って殺そうと思っていたのだが、今のところミスはしていない。
ララシャ様も問題がないと仰せだ。
あとは多分、ララシャ様は、この世界の王族であるアニスを傅かせて悦に浸っていらっしゃる感はあるな。いつも通りの、若干のサディズムの発露だ。可愛らしいお方だ……。
結局、この特戦騎士団団長の提案を受けて、ララシャ様のティータイムは半減した。
とにかく先を急いで、素早く元凶……「移動要塞」をどうにかしたいらしい。
まあ、ララシャ様のお菓子を守る為。
その大目標を考えれば、妥協も仕方ないか……。
その後も、襲い来る機械兵を蹴散らしながら進む。
何度も同じエネミーが湧くので非常に楽だ。
最適化を重ねて、一体につき4秒のスピードで処理できていた機械兵も、今では2.8秒まで短縮できていた。
思考パターンが読めるように「適応」し「学習」したので、現在は平均撃破タイムを三分の一程度にできたかね。
「……なんか、私の気のせいじゃなければ、強くなってません?」
シーリスがほざいた。
「俺のステータス的な強さはもうこれ以上伸びないな」
「いや……、見間違いじゃなければ、倒す速度上がってますよね?」
「同じエネミーが湧いているんだから、慣れてくるだろう?」
「ええー……?」
これは俺がおかしいのか?
普通に考えて、同じことを何度もやっていれば、効率化して早くなるだろうに。
「エドさんは努力型の究極系ですからにゃあ……。戦えば戦うほど、手札を切らされて、対応されて……、最終的に手も足も出なくなるにゃ」
と、横からランファが言ってきた。
「ええ……?天才なんじゃないんですか?」
シーリスが返すが……。
「んん……、まあ、一般人よりかは才気はあるにゃあ。でも、剣聖様とか騎士団総団長程の才は……。けれど、エドさんが凄いところは、膨大な経験を持つことなのにゃ!そしてその経験を活かす判断力も!」
ランファは否定しつつ、こう言った。
まあ、事実だ。
俺は別に天才じゃない。
ただ、アホほど周回しているから、エネミーの行動が大体分かるだけだな。
プレイヤースキルを積み重ねているだけである。
「で、でも、パーティーの時、剣聖様も騎士団総団長も倒してましたよ?」
「あの時のエドさんはかなり弱体化してたにゃ?」
「え?!」
「エドさんは確かに、素のステータスのゴリ押しでも十分強いにゃ。でも、エドさんの一番強いところは、さっきも言ったけれど『学習』して『慣れる』ことにゃ。そのエドさんの戦法に必要な冷静な判断力がない怒っている時は、弱まっているにゃあ」
「一番弱体化している状態で、先代勇者パーティを三十秒足らずで皆殺し、ですか……。やっぱり、バケモノですねえ……」
「まあ……、味方となると心強いにゃ!」
どうでも良いがこいつら、割とあっさりと俺の悪口を言うな……。
俺に対する侮辱は別に許す許さないとかではなく「どうでもいい」んだが……。
「あ、あの、シーリスさん?ランファさん?そんな風に、エドワード様の悪口のようなことは……!」
クララが止めに入る。
「え?エドは怒りませんよ?自分のことについてはあんまり気にしない人ですし」
「い、いや、そう言う問題ではなく!」
「クララも、もうちょっとフレンドリーにした方が良いですよ?エドだって、なんだかんだ言って結構構ってくれますし。頼めば、撫でたり抱っこしたりしてくれますよ?」
ああ、これは事実だ。
シーリスは俺に定期的に絡んでくるので、言葉を返すくらいはしている。
そりゃあ、ララシャ様に絡むようなら不敬なので殺すのだが、俺に抱きついたり撫でろとせがんでくる程度なら害はないので、適当に対応してやるだけの話。
大体にして、謎ポエムとクソなぞなぞを浴びせかけてくるムーザランのクソボケNPC共と比べれば、かわいいもんだ。
抱きつかれても、HPの最大値は減らないし、発狂ゲージも溜まらない。
シーリス自体も、極度に不潔であったりなど、不愉快な要素がある訳でもない。
であれば、ひっついてくる程度、問題はないのだ。
「だ、抱きつく……?!し、死ぬ気ですか……?」
「んー、あんまり腫れ物扱いするのも失礼なんじゃ……?」
「そ、そうなんでしょうか……?」
こんな風に、俺の周りで囮共が騒ぎ立てながらも、サンドランドへの道のりを消化していた……。
その時である。
何人かの、人影が。
砂漠の前に座り込んでいるのが見えた……。
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