第102話 アイテムボックス(?)

ララシャ様のお食事の材料を持ってくる為、俺は王都に一時帰還していた。


向かった先は、王都の輜重隊本部。


どうやらここに、物資が集積されているらしい。


輜重隊本部は、赤い煉瓦の建物で、その隣にいくつもの倉庫が建っていた。


倉庫はコンクリート壁の、一般的な倉庫。


2000年代レベルの建築物じゃあないだろうか?


見た感じでは分からないが、あの大きさや高さから察するに、鉄筋コンクリートというものだろうし。


だが、街の中には高層ビルなどはなかった。


……後で聞いた話だが、景観の問題であまり大きな建物を建てられない決まりがあるらしい。


それは良いとして……、赤煉瓦の本部。


本部は、煉瓦であるだけでなく、魔法的な何らかの結界(俺なら一撃で斬れる程度)が張られていて、重要な拠点であることが察せられる。


そんな建物の付近には、たくさんの兵士が行き交い、怒鳴り声を上げている……。


「物資を集めろ!馬はコクオー種を使え!次の配達をミスしたら、ボーナスなんてなくなると思えよ!」


「積荷、完了しましたッ!」


「よぉし!隊列を組め!運ぶぞぉ!」


「「「「了解ッ!!!」」」」


そこに、俺が現れると……。


「……お、おい、あれ!」


「ゆ、勇者様?!」


「た、隊長を……いや、将軍をお呼びしろ!」


「将軍ーーーッ!勇者様がお越しですッ!!!」


「な、なにっ?!勇者様だとっ?!すぐ行く、待っていろ!」


その、赤煉瓦の建物から、大柄で熊のように太った中年が飛び出してきた。


「これはこれは、勇者様!わたくし、輜重将軍のベアマンでございます!なんのご用ですかな?!」


この中年は、厳つい顔を必死になって緩めて、揉み手で俺の機嫌を取ろうとしてきた。


この熊中年に、俺は、サンドランド平定軍の輜重隊隊長から受け取った書類を渡す。


「これは……、サンドランドへ向かった輜重隊からの手紙、ですか」


そう言って、こいつはその場で書類を開封し、中をじっくり見る。


そして、読み終わると……。


「……ふむ、なるほど?勇者様のアイテムボックスに、こちらの優先補給項目物資を詰めろ、と。理解しました、直ちに物資を集めます故、三十分ほどお待ちください。……お前らァ!勇者様直々のご依頼だ!さっさと物資を集めろォ!」


と、大きな声で指揮を執り、三十分と言いながら十分で荷物を集めてきた。


「はい、ではこちらになります、勇者様。あの……、よろしければ、そちらの輜重隊隊長に、こちらの『荷物受け取り印』をお届け願えませんでしょうかな?これがないと、荷物を受け取ったことにならないので、今後の補給が滞る恐れが……」


そう言われたので、無言で受け取り、懐に書類をねじ込む。


「ありがとうございます!直ちにお戻りですか?よろしければ、お茶でもいかがで……」


ファストトラベル。


「……消えた?空間魔法?!空間魔法は勇者のみの特権のはず。やはり、勇者なのか?アレが……?!」




という訳で、帰ってきた。


「ゆ、勇者様!『荷物受け取り印』を受け取ってはおりませんかな?」


現地の輜重隊隊長が出てきたので、書類を押し付けながら、物資を保管する馬車へと向かう。


食品保存用の馬車は、氷の魔法がマジックアイテムにて展開されており、冷蔵庫のような役割を果たしているらしいからな。


「ゆ、勇者様?!」「ど、どうしましたか?」


そこにいる輜重隊兵士に、俺は、ホーンから出した補給物資を押し付けた。


「仕舞っておけ、ララシャ様のお食事の材料だ」


「「は、はいっ!」」


これでよし、と……。




ララシャ様のお食事についての問題はこれで解決だ。


相変わらず、油断している時に機械兵が攻めてくるが、まあ問題ない。


俺に……いや、ララシャ様に問題がなければ、それはすなわち、問題がないということになる。


もちろん、多くの人員が脱落し、死者までもが出ているが……。


現状、全く問題がないので、そのまま進軍。


「さて、ティータイムも終わったことだし、先に進むか」


「は、はい、勇者様……!あ、あの……」


ん?


特戦騎士団の団長……名前を忘れたが、カイゼル髭の中年が何かを言っているな。


「ティータイムですが、もう少し短くできませんでしょうか……?いや!もちろん、ティータイムの重要さは重々承知でございますが!行軍が遅れておりまして!」


は?


朝昼晩に二時間のお食事タイムと、午後三時に二時間のティータイムはララシャ様に欠かせないんだが?


ただでさえ、食事の時間が二時間しかなく、ララシャ様がお好きなロースト料理が提供できないというのに……!


それほどの負担をララシャ様にかけておいて、これ以上ララシャ様に我慢を強いるだと?


殺す。


俺は剣を抜いた。


「よい」


剣を納めた。


「よろしいのですか、ララシャ様」


「何度も言うが、私はお前と共に時間を過ごし、お前のことを見ていたいだけだ。菓子など、あれば嬉しいものだが……、畢竟、私はお前が傍に侍るならば、他に何も要らない」


あーーー。


ララシャ様。


あーーーーー。


あーあーあーあーあー。


「おお、おお……!なんと、なんと!ララシャ様の御寵愛、確とこの身に受け止めました!」


嬉しい……。


こんなに嬉しいことはない!


感じる心が死に果てても、やはり愛だけは不滅なのだ。


ララシャ様の怜悧な微笑みが、お優しい言葉が!


ただ唯一、俺を癒し、燃え上がらせる!


ああ、ララシャ様……!


……そんなララシャ様に譲歩を迫っただと?


殺すか。


「よい。……我が剣よ、お前の従者の、焦げ肌の娘を呼べ」


と思ったが、ララシャ様がよいと仰せなので許す。運が良かったな、人間共。


それと、焦げ肌の娘……。


つまり、アニスを呼べと仰せだ。


……因みに、ララシャ様は基本的に、この世界の……と言うか人間自体を下に見ていらっしゃるから、個体名はあまり覚えていらっしゃらないぞ。


でも、神に特徴だけでも覚えてもらっているんだから、覚えてもらっている俺のパーティメンバーを自称する女共は、その幸福をしっかりと噛み締めて感謝し、頭を地に付けて祈るべきなんだよな。


おっと、いかんいかん。


ララシャ様の命令は即座に実行しなくては、「月華の剣」の名が廃る。


俺は即座に、アニスの襟首を掴んで引き摺ってきた……。


「え?え?え?何何何?!怖い怖い!なんか言ってよエド?!!」

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