第101話 材料不足?!

「なるほど」


砂漠の国へと向かう道中、散発的にあった機械兵とやらの襲撃。


それは、回数を重ねるごとに、夜や早朝などの油断している時間に攻撃が集中してきた。


また、地中からや、航空機型機械兵による対人型機械兵の空中投下など、奇襲はどんどん洗練されてきてもいる。


これは、アレだな。


「ハラスメント攻撃」というやつだ。


つまり、散発的にしつこく攻撃を繰り返し、こちら側の精神力と体力、そして物資をすり潰そうとしてきている訳だ。


俺はあまり気にしていないが……。


「クソッ、眠れやしない……!」


「先代の勇者様は、稀代の軍略家でもあったそうだ。勇者様が作った移動要塞も、勇者様を真似た動きをするということだろう……」


「従者が倒れてしまった……。補給部隊に増員を要請しなくては……」


周りの奴らは、なんだか大変そうにしているな。


よく分からないが、人間は休まないと死ぬとかいうシステムらしい。


ああ、そんな話もあったな。


うちの肉盾共も、餌やりをしないと動かなくなるもんな。つまり、そういうことらしい。


聾の者は心が折れない限りは戦い続けられるから、俺にはその辺は理解できんが、まあ現象としてそういうものがあるのは知識としてある。


しかし、それは俺に関係のある話ではないな。


死屍累々の天幕の中で、俺はララシャ様とティータイムを楽しむ……。


「ほ、本日のケーキは、レモンケーキになっております……」


俺は剣を抜いた。


「舐めているのか、お前?ララシャ様はフルーツタルトをお望みだと言ったはずだ」


「ひ、ひいっ!」


エプロンドレスのメイドが腰を抜かし、言い訳を始める……。


「こっ……、後方の補給部隊が機械兵団に襲撃され、新鮮なフルーツが手に入らなかったのです!お、お許しを……!」


は?


何だそれは?


それは、そちらの都合であって、ララシャ様の期待を裏切って良い理由にはならんだろうが。


殺す。


俺は剣を振りかぶった。


「よい」


俺は剣を納めた。


「よろしいのですか、ララシャ様?」


「私は、菓子の品目が変わった程度で怒ることはない」


なるほど……。


流石はララシャ様だ。


ご寛恕していただけるとは……。


「第一、私は、菓子を口にしたい訳ではない」


「は……?」


「お前と時間を共にしたいだけだ」


んーーー。


んんんんんーーー。


「分かりました、ララシャ様!永遠にお側に侍りましょう!」




とは言ったものの、ララシャ様がこの世界の美食を大変気に入っていらっしゃるのは俺にも分かる。


口に出さずとも、最近のララシャ様の態度を見れば、食事の時間を楽しみになさっていることは、長年連れ添った伴侶として感じられることだった。


……よし、ではこうしよう。


俺は、ティータイムの後に、輜重兵の隊長を探して、声をかけた……。


「こ、これは勇者様!現在、補給が滞っておりまして、大変申し訳なく……!す、すぐに部隊を再編し、王都から茶葉と菓子の材料を……!」


何か言っているが、話を聞くつもりはない。


「王都に戻る」


「……は?」


「俺が王都に行って、ララシャ様のお食事に必要な食品類を受け取り、ここにまた戻ってくる」


「あ、え、あ……、わ、分かりました。では、今からメイド衆と料理人達と、必要な材料についてまとめ、書類を作成します。一時間ほどお待ちください」




そんな訳なので、いつものように音溜まり(セーブポイント)を設置して、その前でボーッとした。


無になるのは得意なのだ。


実際、無そのものなんでな。


そして……。


「大変お待たせしました。こちら、勇者様方の為の飲食物の材料一覧になります。これを、王都の輜重隊本部に提出していただければ、すぐに必要なものが用意されます」


なるほど。


俺は懐に書類を捩じ込み……。


→『王都クラスバーグ王城前』


ファストトラベルした。




ファストトラベル。


このゲーム、レジェンズアニマにおいては、「音溜まり」と呼ばれるセーブポイントを任意で設置することができる。


設置すればするほど、その周辺のエネミーが強化されたり、トラップが増えたり、不利なイベントが生えてきたりなど、デメリットは……いやデメリットの方が多いんじゃないかこれ?


とにかく、音溜まりを設置すると、死亡した場合にそこでリスポーンすることができる。


そして、今回のように、マップからファストトラベルをすることもできるのだ。


なので、王都クラスバーグの王城前にあらかじめ設置しておいた音溜まりに、俺はこうして一瞬で移動できた訳だな。


……何回も言うが、レジェンズアニマの制作会社は、VR機器の性能向上を悪用し、北米大陸くらいの広過ぎるワールドを作った馬鹿の巣だ。


プレイヤー達は、「何これ、ふざけてるの?」「こんなものを作って喜ぶか、変態共が!」と半ばキレていたが、2200年代の地球は重篤な環境汚染で外出も碌にできない故に、オープンワールドゲームの世界は広ければ広いほど良いとされていた。


とは言うが、マップの三割が毒沼かそれに近い汚染地域だったので、もう正直地球で外出するのと変わらねーだろこれ!という感覚はあったが、それはまあ、うん。


要するに、昨今のゲームにおいては、ファストトラベルがないなんてことはない。


レジェンズアニマも、ムーザランの世界もそう。


むしろこの世界の方が、ユーザビリティが低くて不親切だと思うぞ、俺は。


何せ、転移魔法やアイテムボックスは勇者の特権で、勇者の血が流れない者は使えない!とか。


不便なものだ。


……まあ良い。


輜重隊本部とやらを探すか。


俺は適当に、王都を巡回している兵士を捕まえることにした。


「えっ、勇者様?」


「勇者様が、何故ここに?」


「出撃したんじゃないのか……?」


NPCが何かを喋っているが、環境音として割り切る。


昔のテレビゲームでは、その辺のNPCと会話できず……つまり一体一体にAIが搭載されておらず、野次馬や観衆などの言葉が環境音扱いの場合も多かったらしい。


まあ、テレビゲームは技術的に未熟だったと言うのもあるだろうが、それ以前に単なる娯楽だものな。


2200年代では、VRの世界で生活するのが普通だったから、色々と勝手が異なるのだろう。


さて。


「え?……え?!勇者様?!何故ここに?!!」


栗毛の巡回兵。


チェインメイルと鉄の胸当て、腰にショートソードを帯びた、若い男。


それに、俺は声をかけた。


「輜重隊本部とやらはどこだ?」


「え、えと……、あっちの方の、赤い煉瓦の建物です」


「そうか」


それを聞いた俺は、即座に移動した。


「あ、ちょっ……、え?えー……?どういうことぉ……?」



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