第100話 何も知らない盾持ちさん
僕は、特戦騎士団の新入りで、盾持ちをやっている。
盾持ちとは、つまりスクワイア。
騎士様の従者として、騎士様のお世話をする名誉ある仕事だ。
フルプレートアーマーは重くて、中は熱が籠る。気軽に脱げないし、荷物も多い。
だから、冷気の魔法で騎士様を冷やす必要がある。他にも、水を飲ませたり、鎧や武器を補修して、荷物を運んだりすることが盾持ちの役目だ。
昔は、戦闘中はアーマーを脱げずに排泄などを鎧の中でしていたから、それの掃除などもやらなきゃいけなかったらしいんだけど……、勇者様方の発明によって、使うと排泄を長時間我慢できるようになる魔導具や、通気性の良い鎧下、重さを軽減するエンチャントなどが編み出され忙しさは軽くなった。
なので今では、名誉職だと言われることもある……。
確かに、僕も騎士の家に生まれた子供で、将来的には騎士団に入団することは内定しているけれど……、それでも、盾持ちは忙しいし、大変な仕事。
だからこそ、って訳じゃないけれど、僕はそれが誇りだった。
仕えている騎士様も、騎士学校の先輩であるミューラー騎士爵だし、僕は現状に満足できている……。
そんなある日、特戦騎士団は、サンドランドで暴走している移動要塞を討伐しろと命令を受けた。
かつての勇者様が残した超兵器を倒すだなんて、かなり無茶な作戦だ。けれど、こちら側には、新しい勇者様とそのパーティがいるらしい。
なんでも、『月華の勇者』と呼ばれる今代の勇者様は、歴代最強の魔法剣士なんだとか!
僕も、強い人の戦いを見て、たくさん勉強して、立派な騎士になるんだ!
……そう思っていたんだけれど、なんだか、騎士団の上層部の様子がおかしい。
この騎士団、何か……、変?
何故か、王族の移動の際に供回りをする王都メイド衆が随行しているし、王族用の天幕があるし、いつもの三倍の水と物資が運ばれているし……?
なんでだろう……?
僕はそう思って、仕えている騎士ミューラーに訊ねたけれど、「それについては気にするな」と……。
うーん……?
それよりも騎士ミューラーは、「絶対に勇者様を怒らせるな」と、とても強く僕に言いつけてきた。
温厚な騎士ミューラーが、こんなに強い言葉を使うところは、見たことがない。
どういうことなんだろう……?
ただ、勇者様が美しい妻を連れて歩いているのは、僕だけじゃなくて国民全員が知っていることで、とても愛妻家だとは聞いている。
妻に手出しすると誰彼構わず斬りかかるなんて話も聞いたけれど、まさか、国を守る勇者様がそんな恐ろしいことをする人ではないはずだ。そんなバカな話、普通の国民は信じない。
……しかし本当に、騎士様方やメイド衆は、勇者様も奥方様も国賓どころか王そのもののように扱っているように見えるなあ。
やっぱり、勇者様って偉いんだなー。
よーし、勇者様が戦うところを見て、剣の勉強をするんだ!
僕立派な騎士になるために勉強を頑張るぞー!
……そんなことを考えていたのに、勇者様はあまり戦わない。
それもそうか。
これだけ大勢で移動しているのだから、騎士様達が勇者様より前に出て戦うもんなあ。
勇者様の活躍をこの目で見れないのは残念だけど、その分……。
「『ファイアボール』!」
「にゃあっ!」
「回復します!」
勇者パーティの方々の活躍を見れた!
可愛らしい魔法使いの少女、エキゾチックな盗賊少女、王族の血を引く美人神官に、スタイルのいい獣人格闘家と、綺麗なエルフの弓使い……。
素敵な方ばかり!
前の代もそうらしいけど、勇者様っていうものはハーレムを囲うのが好きらしいから、あの子達もきっと……、そういうこと、なんだよなあ。
いいなあ、あんな可愛い女の子達に慕われて。勇者様が羨ましいや。
僕にも許嫁はいるけれど、口うるさくって怖いし……。
あんな子と結婚したら、絶対に尻に敷かれちゃうよ……!
その点、勇者様のパーティは違う。
皆、勇者様を守る為に控えているし、勇者様のことを尊敬して尊重している……!
まるで、「勇者様の機嫌を損ねたら殺される!」と言わんばかりの迫真さと言うか、真剣さがある!
もちろん、勇者様はお優しいから、仲間を殺したりする訳ないんだろうけど。物の例えとして、それくらいの真剣さで、勇者様のパーティメンバー達は戦いに臨んでいるんだろうと分かるって話だね。
かっこいいなあ……!
それを言えば、騎士様達、上層部も同じだった。
勇者様を守る為、必死に戦っている……。
真剣さが、訓練の時とは段違いだ!
訓練だって、特戦騎士団はとっても厳しいのに、今は本当に、皆、そんな厳しい訓練の何倍も気を張っている……。
やっぱり、勇者様の前だと、騎士様方も張り切っているのかな?
気持ちはわかるなあ。
僕も勇者様のかっこいいところを見たいけれど、逆に、僕が勇者様に褒めてもらえたら……!なーんてことも、ちょっとは考えてしまうから。
勇者様に認めてもらえれば、末代までの名誉になるからね!
で……、夜。
機械兵の奇襲があった。
機械兵というのは、砂漠の国の移動要塞が無限に生み出す機械の兵士。
強さ的には低ランクモンスター並みだけれど、「鉄砲」という兵器を搭載していて、これが厄介なのだと聞く。
特戦騎士団は、一流の騎士団なので、夜でも警戒は怠っておらず、すぐに対応できた。
僕は、騎士ミューラーに鎧を着せるのを手伝ってから、騎士ミューラーの出撃に合わせ、チェインメイルを着込んで天幕から飛び出した!
「行くぞ!うおおおおっ!」
僕だって、訓練は受けているんだ!
機械兵なんて、「鉄砲」に注意さえすれば、戦闘能力はDランクモンスター程度!勝てない相手じゃないっ!
「ヤーッ!」
僕は気合を入れて、「はがねのけん」を突き出した!
『beep?!』
「よ、よし!やったぞ!」
た、倒せた!
やれる……、やれるんだ僕は!
敵を倒して喜んで、騎士ミューラーに褒めてもらおうと振り返ると……。
「え?」
『排除シマス』
そこには、機械兵が……!
あ、終わった。
僕は死を覚悟した。
けれど、次の瞬間!
———「武技発動……、『拡散する貫通矢』」
『ギッ、バ、ギ、bebbbbe、Bp……?!』『ダ、ダ、ダ、メージ、過多』『被害、ビビ、甚大……』『バ、ビbebe……メインコ、ア破損』『ppplllg』『破損、破損、バ、バ、バギッ』『ピー……』
す、ごい。
勇者様だ。
「武技発動、『嵐の剣波』『散りゆく漣』、『回転する星玉』『跳ねる雷光』、『ジオランの地鳴り』……、『偉大なるオセアン』」
闇を纏う弓、曲刀、黄金のメイス。
大型の錫杖、光の剣。
鉄籠手、そして魔力で編まれた巨大な剣。
どれもが。
その、どれもが!
その道を極めた者の「秘技」と言えるような必殺技!
そんなものを、代わる代わる繰り出しているっ……!
ある時は剣の達人、ある時は最高の弓使い、またある時は、大魔導師に大神官……。
す、ごい。
すごい、凄い、凄いっ!!!
あれが、勇者……!
……最強の、勇者っ!!!
その後。
僕は、勇者様の弓の一撃が掠って抉れた兜を抱えながら、その場に立ち尽くしていたところを、騎士ミューラーに回収されて、休むことになった。
僕が、勇者様がどんなに強くてカッコよかったのかを騎士ミューラーに語って聞いてもらうと、騎士ミューラーは難しそうな顔をして……。
「そ、そうか。あー、その、勇者様の戦いに巻き込まれないように、今度は後方にいるんだぞ?盾持ちは、今度からは後方で待機で良いってことになったからな」
と、言ってきた。
「え?ははは、やだなあ、騎士ミューラー。勇者様が味方を巻き込んだりなんかする訳ないじゃないですか!あんなに凄い達人なんですから!」
僕がそう言うと……。
「あ、うん、そうね。そうだと良いよね、本当にね……」
と、何故か遠い目をしていた……。
とにかく、僕は勇者様の活躍が見れて満足だ!
これからも、頑張るぞー!
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