第99話 機械兵の襲撃
四本足。
鋭いランスのような四本足が、円柱状の本体を支えている。
足には複数の球状の節目があり、そこを中心にフレキシブルに動くようだ。
形状としては、四足獣というよりは蜘蛛に近いだろうか?動きは絡繰と蜘蛛の合いの子っぽいのだが。パッと見では、だが。
とにかくこれが、機械兵というものらしい。
機械兵は、その、女一人分くらいの大きさの円柱から、にゅっと細い銃身を四本伸ばして、マシンガンを乱射しつつ突撃してきた。
ほう、マシンガン。
火薬式の兵器は、ムーザランでは榴弾大砲や榴弾ばら撒きシールドやカタパルト爆弾など、爆発力で直接殺しにかかってくるタイプが殆どで、あまり見ないので新鮮だ。
威力は……。
「ぐうっ!」
「盾だ!盾を構えて耐えろ!」
「『きょうかぼうぎょ』ォ!!!」
まあ、防御すれば死なない程度か。
確かに、金属の礫を火薬の力で音速で射出するのは強力だが、「ステータス」という謎の力があるこの世界の住人には、そこまで強力な効果はないようだな。
騎士達は、飛来する弾丸を、盾で逸らしてガードしている……。
ムーザラン基準で言えばあまり質の良くない武装も、この世界では上等なものらしいし、その程度のものでも小口径のマシンガンを防ぐことくらい訳ない。
ファンタジーは偉大なのだ。
……まあ、地球ではガトリングプラズマレーザーキャノンみたいなキチガイ兵器が実装されてたし、パワーアーマーとか戦闘用ロボット兵器とか普通にあったし、現代の地球の科学力ならばこの世界のファンタジーともやり合えるかもしれんが。
それは良いとして……、もちろん、こんな程度の豆鉄砲は俺にもあまり効かない。
確かに、棒立ちで集中砲火を喰らったらまずいだろうが、基本的にはあんなものそうそう当たるものではないし、当たっても数発だけならカスダメで済む。
騎士達も、何度か肩や腕に弾丸を受けたが、鎧で弾いて大きなダメージは受けていないようだった。
盾持ちと言うのか、あまり武装していない従者のような存在や、後方支援の人材なんかは、弾を受けて倒れていたりするが、それは戦場あるあるなのでスルー対象である。
因みに、俺は避けている。射線に立たなければ良いだけなので楽だ。少なくとも、ムーザランのインチキオモシロ術や武具による意味不明なクソバカ追尾攻撃と比べれば、避けて避けられるなんてぬる過ぎるな。
しかし、なんであれ。
ララシャ様の安眠を脅かすのであれば、殺す。
いや、壊す、か?
生き物かどうかなど、相手を斬る時にぐちぐち考えることはないからよく分からんな。
HPバーなんて気の利いたものもないことだし、ムーザランでは「動かなくなるまで斬ればいい」が合言葉だった。
まあ、慣れてくると、殺した「感覚」が掴めるようになるので、残心も不要になるのだが……。余談だな。
さて、動きを見てみるか。
基本的には、胴体たる円柱からせり出した四本の機関銃を乱射して攻撃。
接近するものには、大きく鋭い槍足で斬撃、突きをお見舞する。
パターン的には薙ぎ払い、突きだが、基本的には四本のうち一本のみを使って攻撃してくるようだ。近接では、だが。
意外と精密な機械なのか、ランスチャージのような体当たり攻撃は見られない。
いや、ここにいる重武装な騎士達に質量勝負は不利だという分析がされているのか?分からんが、とにかく、頭の端には置いておこう。
イレギュラーは定期的にあるものなので、何事も決め打ちはせずに、遊びを持たせておくことこそが重要だからな。
……しかし、特殊な攻撃などは特にないようだ。
強いて言えば、不利を悟るとその場で自爆する程度か。
ただ、自爆する際には、恐らくはメインカメラであろう赤いレンズが点滅し、ビープ音が鳴り響くという特徴があるようだった。
総評。
雑魚だ。
俺は、武器を内なるホーンから引き摺り出す。
《黄金郷のメイス》
《隠されし黄金郷『無名都市』の衛兵達が持つメイス。
黄金色に輝くそれは、強い電撃属性の力を帯びている。
黄金郷の指導者は、この都市に血の色は似合わぬとして、刃ではなく殴打の為の打撃武器を使うように下々に命じた。
それは、豊かなる者の矜持であり、驕りであった。》
金色に輝く、逆さの台形状の錘が付いた棒……、棍棒だった。
こういうタイプのエネミーには電撃属性が良く通るし、そうでなくても刃ではなく殴打が正解のはず。
やるか。
『beep!排除シマス!』
マシンガン。
もう一丁出した鉄のタワーシールド。ムーザランでは、指の感覚のみで装備を即切り替えられて当然だ。
で、これを構えたまま、受けつつ前進。
そして、武技発動。
『突進』
大盾などの質量あるものを構えながら、それを活かしての突進攻撃である。
これを受けて、機械兵は大きくよろめく。
そこで、姿勢制御の為に突き出した前足を、柔道のような要領で刈り取った。
『———?!!』
大きくつんのめり、そのまま倒れ込む機械兵を、地面が迎える前に……。
「喰らえ」
俺のメイスが狩り取った。
『?!!?!!?!』
円柱の上、三分の一程度が抉れて吹き飛ぶと、自爆もできずに機械兵は動かなくなる……。
ふむ、なるほど。
こういう動きの奴は、ムーザランにも近いのが居た。
絡繰兵という奴で、音もなくいきなり出てきて奇襲して、追い詰めると発狂して無茶苦茶に暴れ回った挙句爆発炎上して砕け散り、ついでに近隣のエネミーを爆発音で集めたり、付近に設置されている油樽に着火して一面火の海にしたりするクソ害悪ゴミエネミーなのだが……。
とにかく慣れているので、対処は難しくない。
そう認識し、俺は更に他の機械兵に踊りかかる。
『beep!』『攻撃します』
前の機械兵に、大きく振りかぶったメイスを叩き落とすようにぶちかます。
その反動で、俺の上半身は大きくぶれて回転し、盾を持った方の腕が背後に回る。
その腕を使って、背後から放たれた別の機械兵のマシンガンを弾く。
攻防一体……。
ムーザランでは、基本的に多数のエネミーに囲んで棒で殴られるので、攻撃と防御を一体化し、全てを同時に行えないと死ぬ。
初心者は無理せず、敵を一体一体釣り出してから各個撃破することをおすすめする。しかし、ムーザラン側が能動的に囲んで棒で殴ってくるので無意味なのだが。
まあ死んでも失うものはホーンと人の心だけなので、ガンガン死んで死に所を覚えていこう……と言うのが、制作会社側の見解ということだろう。吐き気がするな。
『危険、危険、危険』
『特記対象発見』
『位置情報を転送します』
おっと、何故か知らんが俺の方に機械兵が集まってきた。
百体くらいいるのだが、そのうちの半分以上が俺の方を目指している。
基本的にNPCの言葉に意味はないし、大半がミスリードみたいなところがあるので話半分で聞き流すのができるプレイヤーの条件みたいなところはあるのだが、もしもこの機械兵とやらが真実を話しているのであれば、俺はあちら側に的にかけられていることになる。
ムーザランでは、ストーリーが一定ラインまで進むと味方以外の全勢力に的にかけられるし、そもそもゲーム時代もスレやSNSで晒し上げにされていたので特に大きな問題はないな。いつものことだ。
「なっ……?!こ、こいつら、勇者様を狙っているぞ?!」
「クソっ!止めろォ!」
「やらせるかーっ!」
しかし騎士達は、それを阻止しようとなんか頑張っているようだ。大変にご苦労なことで。
だが、俺としては……。
『ピギッ』『bbbbbbeeeee』『キ、能、停止……』
「殴れる間合いに移動してきてくれるのは助かるな」
歩くのが面倒だからな。
そんなことを言いながら、俺を囲んでくる機械兵とやらをボコボコに壊す作業に従事した。
単純労働はムーザランの基本であるから、いつも通り心を殺して無心で働かせてもらったぞ。
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