第98話 例の水晶の行方
砂漠の国への進撃。
騎士団は、戦闘に特化した特戦騎士団とかいう奴らがついてきた。
火を噴くハルバードと魔呪属性に多少の抵抗がある大盾を持ち、重装備をした連中だな。
ムーザラン基準では紙装甲のようなものだが、この世界基準なら相当いいものらしい。そんなこと、囮共が言っていた。
それが、鎧を着た巨馬に跨がり、整然と進軍している……。
確かに、雑魚ではあるが、全員二回くらいは斬撃に耐えそうではあるから、精鋭兵と言われれば納得できるかもしれない。
そんな騎士共を、俺が、意味もなくぼーっと眺めていると……。
「む?マツカゼ種の馬が気になりますかな?この種の馬は、かつて『従魔の勇者』と呼ばれたモエ・ニーノ様が品種改良というものを行い生み出した……」
「いや、興味はない」
「で、では、勇者モエの残した発明については……?」
「興味ない」
「アッハイ……」
隣から、カイゼル髭の騎士団長が話しかけてくる。正直迷惑なのでやめてほしい。
会話するのもまあ別にそこまで好きではないが、沈黙に耐えられなくて無理矢理に話題をひり出そうというのがもうキツい。
話すことがないなら無理に話さずに黙っていてほしいものだ。
会話とか、交渉とか、敵対すれば殺すだけなので全部無駄なので……。
いや、しかし、話を聞けば囮共はそういう交渉事を請け負って、手間を減らしてくれているとか?
もしかしたら俺は助けられているのかもしれない。
まあその辺りは、俺をある程度操作できる権利を返礼とすることでチャラってことで良いだろう。
なんでもいうことを聞く訳ではないが、俺を説得することを許してやっているのだ。
そうすれば、俺は手間が省け、囮共は俺を上手く使って正義の勇者ということにすることができる。平等な取引だな。
「えー!私は興味ありますよ!『従魔の勇者』モエ!ドラゴンを従えて、当時の魔王と戦った女勇者ですよね?!」
っと。
シーリスは、空気が読めないし中途半端に人当たりがいいので、俺が終わらせた会話をほじくり返してくる。
「う、うむ!モエ様が従えた『聖龍ロンバルディア』は、今でも『龍の山』の天辺に居るらしいな!なんでもロンバルディアは、翼を広げると街一つ分ほどの大きさがある白龍で……」
団長は、俺の顔色を横目で必死に伺いながら、話題を絞り出している。
聞いてないので問題はないんだが、チラチラ見てくるのは鬱陶しいな。
まあ俺の快不快とかはどうでもよく、ララシャ様が楽しく生活できるんならそれでいい。
無視して、神馬オルガンの手綱を引き、歩を進めた……。
砂漠の国は、どうやら、東の方にあるようだ。
最近滞在していたサーライア王国は、大陸の中央西辺りにあるらしい。
そして砂漠の国サンドランドは、大陸中央にあるのだとか。
聞き齧りの知識だが……、確か地球でも、大きな大陸の端は、海から運ばれてくる水混じりの風が雨になるために緑豊かで、大陸の中心は海からの風が届かないから乾燥して砂漠化するのだとか?
……ん?では何故、名産品が砂糖なんだ?
砂糖は、サトウキビだろう?温暖でもっと水が多いところで育つんじゃないのか?
疑問に思いヤコに訊ねようと振り返ったが、ヤコは現在妊娠中で、サーライア王都で休職していたな。
前のオークションで手に入れた『解答の水晶』?とやらで何か答えを得たらしく、搾った俺の子種を何らかの解析にかけたりなんだりして使用したらしい。
半年前に会った頃には、腹が丸く膨れていたから、今頃生まれているんじゃないだろうか?
ヤコが言うには俺の子らしいが、興味がないので……。
とにかく、ララシャ様が子を授かることは可能だし、俺にも問題はないらしいので良いとしよう。
だがまあ、まだララシャ様と子を作る予定はないが。
ララシャ様も子を産むとなると、ある程度のホーンが必要のはず。
本調子と言わないまでも、全盛期の半分程度のホーンは戻して差し上げなければ、母体に差し障りがあるかもしれん。
ララシャ様とその子、どちらかを選ぶとなれば、ララシャ様はお怒りになるだろうが俺はララシャ様を選ぶ。
なので、万が一のことがあってはならぬように、ララシャ様にホーンを集めることを優先したい。
…‥とは言え、時間は無限にあるから焦らなくても良いし、最近は月龍教の祭壇経由で、少しずつホーンも集まってきている。
問題は何もなく、順調だ……。
「モンスターだ!」
「やれっ!」
「うおおおおっ!」
そして道中。
弱いエネミーは騎士団に蹴散らされ、ホーンを撒き散らして死んでゆく。
俺は何もやらずとも、空間に撒き散らされたホーンの残滓を吸収するだけで、それなりの収益を得られるので、オルガンに跨がりながら移動するだけで良い。
しかも……。
「全体停止ーっ!休憩の時間だ!」
「勇者様、こちらは我が軍の糧食科自慢の貴族用スイーツになります!」
「お茶も用意しております!」
「お砂糖はいかがですか?ミルクもありますよ!」
全軍、全速力で、俺の機嫌を取りに来てくれている。
ここまで至れり尽くせりに奉仕される理由がいまいちよく分からないのだが、まあ貰えるものは貰っておこう。
そして、ララシャ様にも召し上がっていただく。
「……悪くない」
俺は剣を納めた。
ララシャ様がもしも、茶が不味いと仰せならば、この場にいる騎士全員を殺していたところだが、茶を淹れるのが上手い騎士がいたらしい。
ララシャ様も問題ないと仰せなので、この調子で移動を続けるか……。
そして夜。
砂漠の真ん中で野営。
砂漠というのはやはり、夜は寒いらしい。
野営用の天幕の中でストーブを焚いてもらい、俺はララシャ様の側に控える。
最近はアニスが侍従の真似事をするようになったので、俺の暇な時間は増えているな。助かる……のか?これは?よく分からんが、ララシャ様が幸せならそれで良しとするか。
ララシャ様は、夕食を楽しんだ後に、食後の紅茶を召し上がり、その後はベッドに……。
俺は、寝ているララシャ様を、一晩中眺めることにした……。
ララシャ様は、ふかふかのベッド……ああ、兵士達が運んできたらしいそれに身を預けて、龍鱗を纏う美しい御手を俺の手に重ねた。
寝る時、ララシャ様は、俺の手を握って眠るのだ。お可愛い方だな、愛らしい……!
眠らずとも良い、眠り方すら忘れた俺も、こうして、夜通しララシャ様と触れ合っていると、眠っている時よりも心が安らぐ。眠ったことは久しくないが、そう感じられるのだ。
幸福。
このお方さえ居れば、他は何もいらない……。
と、その時。
「き、機械兵だーーーっ!!!」
「……あ"?」
今、は。
おい、今、今は。
「ララシャ様がお休みになる時間だろうがぁああ!!!!!」
俺は剣を抜いた。
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