第93話 暗君
褐色肌の男。
「砂漠の国の王、テオドア・モルドゲール・サンドランド様ですね……」
今話していた貴族の女、サニーが囁く。
褐色肌に黒い髪の、中肉中背の男。こいつが、砂漠の国『サンドランド』の王なのだとか。
服装はなんか知らんが、金色の首飾りがジャラジャラしていてウザいな。動きづらそうだ。顔は適度にブサイク。ネタにしづらい普通のブサイクだな。一番面白くないパターンだろう。
「そこにいる女、アニエスティアは、我が国の逆賊の子!庇い立てするならば、勇者とて外交上の問題になるが……?」
ふむ……?
「テオドア王は、元々は王ではなく公爵家でした。しかし正当な王ではなく……、そもそものサンドランドの『前王アインドリヒ』様は、暗殺によって……」
「アニエスティアってのは何だ?」
「確か、前王アインドリヒ様の一人娘の名前だったかと……」
なるほどね。
「エ、エド……、助けて……!」
アニスがなんか言っているが……。
うん。
察するところ、こうだ。
アニスは実は、サンドランドの前王の娘。
しかし政争か何かに負けて、この国に逃げてきた。
で、政争にてアニスの親の派閥を倒して王座を手中に収めたのが、目の前のこの男。
そして、そんな敵対者に見つかったから、アニスは怯えている……。
大筋はこんなところだろう。
流石に、人としての機能の大半が死んでいるであろう俺にも、それくらいの推理力は残っている。
理解した。
俺は、アニスの後ろ襟を掴んで、前に持ってくる。
「ひいっ!」
小さく悲鳴を上げるアニスだが……、犯罪者というならば、渡すこともやぶさかではない。
「アニスが欲しいのか?」
「ふんっ、平民の分際で、王であるこの私に口をきくのか!……まあ良い、その女は我が国の犯罪者だ、早く寄越せ!」
「ち、違うっ!あたしは逆賊なんかじゃ……!」
「黙れ!こっちに来い!」
「イヤァァァ!!!」
ふむ。
「うるさい」
「え?」
「うるさいから、騒ぐなら他所でやれ」
「い、いや、ちょっと、その……。助けてくれないの?」
は?
「……何で?」
「いやいやいや!あたし、仲間だよね?!勇者パーティの一員だよね?!?!!」
あー……?
「だから?」
「助けてよ?!ピンチ!あたし今ピンチなの!!!」
んー……。
「でも、犯罪者なんだろ?服役して罰金払った方が良いんじゃないのか?」
「そんなの名目上だけに決まってるじゃん?!なんだかんだ適当な罪状をでっち上げて、用済みになったら処刑されちゃうよ!!!」
まあ、うん。
それはそうだろうな。
「だが、助けても意味があんまり……」
「な、何でもするから!助けて!お願い!」
うーん……。
「ララシャ様はいかがお思いですか?」
「ふむ。大逆の輩であると云うならば、その証明がなければなるまい。大逆は、それ程に重い罪故に、な。間違いでの処刑など、赦されることではない」
確かに!
ララシャ様はいつも正しい。
大逆罪、国家に対する反逆とまで言うのならば、確固たる証拠がなければダメだな!
「こいつは……、この男は!王家の血が欲しいだけだよ!かつて、『知恵の勇者』が作った、サンドランドの最終防衛兵器……、『移動要塞スピリット』の管理者権限を奪う為に!」
……は?
「何の話だそりゃ?」
「あ、えっとね、砂漠の国には、『知恵の勇者』と呼ばれた勇者が居て、その勇者が遺した巨大な移動要塞があって……。その要塞の操作権限は王家の直系にしかないの。だからそれで……」
「いや、移動要塞……?」
「え?うん、八本の大きな脚で砂漠を歩く、大きな移動要塞だよ」
ああ、うん……。
なんか……、まあ……、良いか。
それを言えばムーザランにも空中大陸とか、木の上にある土地とかあったし、セーフだろう。
「で、ええと……、その移動要塞?の管理者権限が、お前にしかない、と?」
「そうだよ!だからこいつはそれが欲しくて……痛っ!!」
「黙れ、逆賊!あれは私のものだ、私だけのものだ!」
あ、砂漠の王がアニスの頬を打った。
ううむ……。
考えると、これ、俺には関係ないんじゃないか?
別にその、移動要塞とやらが誰のものになろうと関係ないしな……。
その移動要塞とやらを潰せば、ホーンも多く手に入りそうなものだが……、別に今はそこまでホーンに困っている訳でもない。月龍教祭壇からのホーン収入もある訳だからな。
「こんな奴に勇者の遺産を渡しちゃダメだよ、エド!助けてっ!」
うーむ、うーむ……。
「ふむ、下劣だな。証拠もなく、娘子を拐かすなど」
おや、ララシャ様のお言葉。
「片付けましょうか?」と、俺が口に出す前に……。
「そもそも、この女は何だ?!何故、王侯貴族でもないのに、この私に意見をする?!何様のつもりだ!!!」
と、砂漠の国の王を名乗る肉の塊は言ってきた。
ふむ……、つまり……、殺すか……!
俺は、腰にあるショートソードに手を添えた。
王家のパーティーでは、マナーとして簡単な武具を帯びることが許可されているからだ。
瞬間、周囲にいた兵士や……。
「勇者殿、それはよくない」
「やめるのです、相手は王族なのですよ」
「やめろ、勇者よ!」
「我の顔を立てて、退いてはくれぬか?」
剣聖だの、賢者だの……、なんかそういう奴らが近付いてきた。
……確かに、理屈は分かる。
ハレの日に暴れるな、と。
「我が剣よ、私はどうも思わん。それよりも、アニスのことについて、詳しい調査をすべきだろう」
ララシャ様もこう仰っていることだし……。
「ハッ!何だ?女の命令しか聞かんという話は本当だったか。男の癖に、自分の意思すらないのか?まるでガキだな」
と、砂漠の国の王は言っているが、まあ俺はどうでもいいので……。
「ならば、お前。この私が、その女よりもっと良い女をあてがってやろう!そうすれば、この私のしもべになるだろう?」
「死ね」
俺は剣を抜いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます