第92話 パーティー&パレード

エルフの女王に、先代勇者を探してくれと依頼されつつも、俺は様々な人と会った。


なんか色々喋ってたが、ほぼ覚えていない。どうでもいいので……。


だが、何故たくさんのNPC共が俺に会いに来たのか?


その理由は分かった……。




「では!新たなる勇者、エドワード・ムーンエッジ様の、入場です!」


俺のお披露目のためだった、ということらしい。




つまりは、あらかじめの顔合わせだな。


勇者として公的に認められたので、各国の要人を集めたパレードとパーティーを開き、俺をお披露目して……。


「勇者召喚の儀」の失敗で揺れる国際社会を安定させよう、という……。


つまるところの、政治の話だった。


俺にはもちろん、関係のない話なのでスルーしようとしたのだが……。


クララとヤコが、出ない方が逆に面倒だと説得してくるので、仕方なく出席することとした。


確かに、この場でララシャ様のご威光を各国の要人全てに見せつけて、ララシャ様を害するものをあらかじめ各国の要人達に始末させる……と言われれば、俺もそうするべきだと思うしな。


要人達と顔合わせをして、ララシャ様に危害を加えることのないように脅しつければ、今後の活動が楽になる。それは、理解ができる話だった。


なので俺は、そのパーティーやらに出席することとした……。


「おお……、あれが今代の勇者か」


「中々に立派な戦士のようだな」


「既に八魔将軍を二体も討伐しているとか?」


「強さは期待できるな」


「ほう、ハンサムなものだ」


「しかし、瞳の色は黒ではないな。ニホンジンではないのか?」


外野から色々言われながらも、壇上に上がって、人々に手を振ってやった。


パレードにも出た。


なんかよく分からん神輿みたいなのに乗せられて、市民に手を振りつつ、王都を練り歩いた感じ。よく分からん。


その後は、王城の大きなホールで、立食形式のパーティーだ。


俺は、ララシャ様の為に料理を盛る……と思ったが、盛り付けのセンスがないので、着いてきたアニスにやらせる。


「いかがですか、ララシャ様?」


「うむ、美味である」


スモークサーモンや鴨の燻製などを口に運び、笑顔をお見せになるララシャ様。


ああ、最高だ……。


そんな俺は何も口にせずに、ララシャ様のお食事シーンをスクショしていた。


すると……。


「お久しぶりです、エドワード様!」


ん?


何だこいつは?


貴族の女、か?


「グッドウィル領のサニーです!」


誰だ……?


「ルーカスターにて八魔将を一体討伐したのにかかわらず、更に王都でも成し遂げたそうですね?流石は、勇者様ですね!」


「そうですね」


よく分からんが同意しておこう。


「巨人の八魔将に破壊されたルーカスターですが、ヤコ様の赤狐商会の手助けもあり、復興はしっかり進んでいますわ」


ルーカスター……?


ああ、なんかちょっと思い出したな。


最初に来た街だったか?


「剣聖様の弟子であり、武人の派閥でいらっしゃるお父様は、今まではあまり商業を重視しておりませんでしたが……、今回の件で赤狐商会とは強く関係を結ぶことになったのです」


「そうですか」


「ルーカスターでは、人類の支配領域を広げるための開拓事業が行われており、それは、国家からの公的資金によるところが強かったのですが……、最近は、ルーカスター近くのチェリーの森で、魔力草のプランテーションが始まりまして……」


「そうですか」


「これは、赤狐商会の出資による事業なのですが、辺境の森は魔力量が多いので、魔力草がよく育つそうでして、今はもうかなりの利益が出ているんですよ!冒険者以外の雇用も増えましたし、何より特産品ができると、街の景気が良くなります!」


「そうですか」


「……あっ、すみません。私ばかりお話ししてしまいましたね。エドワード様のお話も聞かせていただけますか?」


話すことなど特にないが。


が、まあ、どうやら貴族をあまりにも雑に扱ってはならないらしいし、そもそもパーティーでくらいは少しは話してくれとのこと。


やることもないし、少し会話するか。


「最近は、ダンジョンで八魔将を殺したり、月龍教の神官戦士の訓練をしたりしている」


「まあ、そうなのですか?よろしければ、いつか、ルーカスターにも月龍教の神殿を建てていただきたいですわ」


「ふむ、ララシャ様を崇める下僕は多い方がいいからな。また、金が集まったらヤコに頼んでおく」


「よろしいのですか?嬉しいです!」


そう言いながら俺は、使用人から手渡されていたワインを飲む。


……あ、やはり美味いなこれ。


ムーザランには酒(酒とは言ってない)とか、ワイン(血液)とかしかなかったからな。


こんな上等なワインは中々飲めなかった。


地球で飲んだような気がしないでもないが、味の記憶なんて既になくなっている。


ただ、少なくとも、香りだけでも上等であることが分かるくらいには良いものが供されているのは理解できた。


んー、美味い。


ララシャ様におすすめするために、色々な酒を試すのも良いかもしれん。


そうやって俺が大人しくしていると……。


「あ……、ひっ!」


アニスが急に、料理皿を取りこぼして。


「あ、ああ……!」


俺の背後に隠れた……。


んん?


前を向くと……。


「ハッ、勇者ともあろう者が、逆賊の子を庇うとは。お里が知れるなあ?」


と、いきなり褐色の男が出てきた……。

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