第91話 知らない人達の訪問

最近は、神殿に知らない奴がたくさん訪れる。


入信希望者ではなく、なんか知らない奴らだ。


「我は『賢者』……、賢者アンセルだ。新しい勇者よ、よろしく頼む」


「そうですね」


「私は、『エルフの女王』、セアダス・シュガルン・スゥ・エルファンドラなのです。新しい勇者のお友達になりに来たのです!」


「そうですね」


「私は、騎士団の総団長をやっているアイリーンという者だ。今後の対魔族戦についての相談がある」


「そうですね」


知らない奴らが、知らない話をしてくるので、適当に流した。


オープンワールドゲームはMODとか入れないと会話スキップができないから困る。


昔の据え置きゲーム機ではボタンひとつで会話を飛ばせていたってのはマジなのか?羨ましい話だ。


まあとにかくそんな感じで、定期的に現れる知らない人達をあしらいながら、神官戦士を連れてダンジョンに行ったり、本を読んだりと、静かな暮らしをしていた……。


ムーザランでは、安置である『聾の祭祀城』の中でのみ寛げたんだが……。


……いや嘘ごめん、そんなことはない。


城の中でもクソみたいなNPC共に絡まれたり嫌味を言われたりするし、ストーリーが進行することによって碌でもない奴らが増えていくし、普通に城が襲撃されることもあった。本当にクソである。




「エドワード君は、先代勇者『ルカ・オーツ』のことを知ってるですか?」


何故か知らんが、エルフの女王と名乗る女がちょいちょい出てくるな。


これ何?エネミー?


「ルカはすごかったんですよー?とっても頭が良くって、知恵の勇者とか呼ばれててー……、ドワーフのグランドマスター、ゴルドー君もルカに仕えてたのです!」


「知らん。興味もない」


「えー?同郷なのですよね?」


「俺が来たのはその勇者様が生きた時代より二百年先だし、ムーザラン歴の方が長くて地球のことはあまり覚えてない」


「ふーん、そうなのですか。家族や友達はニホンに?」


「さあな」


「さあ……って?どういうことなのですか?」


「長く会えなかったから、もう忘れた」


「あ……、ご、ごめんなさい!なのです……」


なんか急に下向いて黙り始めた。何だこいつ?


いや、特定のワードや態度がトリガーになってNPCの会話内容が変わってくるのは、古の時代からあるオープンワールドゲームと同じか。


相手の態度が悪くなるということは、俺が何か言ったからなのだろう。


それが何かは分からんが。


……まあ、だから何?って話だな。


「さ、寂しい……、のですよね?」


「分からん。家族という感覚がもうない」


「あ、あうあう……。家族がいなくなるのは寂しいのですが、家族がいたことすら忘れてしまうのは……、悲しい、のです……」


「俺は悲しくない」


「え?」


「ララシャ様がいらっしゃるからだ。ララシャ様は、俺の、導きの月光だ。先へと続く光の糸なんだ」


「……愛して、いるのですね。ララシャ様を」


「ああ。あのお方は、俺の全てだ」


「……ねえ、もしも。もしも、ララシャ様がいなくなったら?貴方は、どうするのですか?」


「ララシャ様が俺を不要と仰るならば、俺は何もしない。ただの、空っぽの『聾の者』になるだけだな」


「空っぽ……?」


「聾の者はな、『摩耗』するんだよ」


聾の者。


音韻(ホーン)の加護を失いし、哀れなるヒト、成れの果て。


正常な「律」の下にいない、狂った存在。


産むこともなく、死ぬこともなく。


飢えることも、眠ることもない、虚無の存在……。


そんな俺達、聾の者は、死ぬことがない。


死ぬことがないが、心までヒトじゃなくなるなんてことはなかった。


「摩耗」……。


気が狂うような痛み、戦い、絶望……。


それを受けて精神が狂い、すり減った聾の者は、やがて「生きた屍」になる運命にあるのだ。


戦うことどころか、歩くことも、話すことも、全てが億劫になり……。


何もできない、ただそこに転がるだけの、生きている肉の塊になるのだ……。


それが、聾の者の「終わり」で、いわゆる寿命というものだった。


ムーザランでの、聾の者であるNPC達もそうで、ゲーム内で時間が過ぎたり、戦いで負け続けると彼らも「摩耗」して……。


最終的には、髪もなく、皮もなく、目つきも定まらず言葉も話せない、ゾンビのような何かになって、永遠にその場に転がるだけの肉塊になるのだ……。


俺達は、物理的には死なない。


死んでも、セーブポイントである「音溜まり」から蘇ることができる。


だが死ねば死ぬほど、心は擦り減り、やがて心そのものがなくなってしまう……。


「では、貴方はもう……、既に……」


「死んでいるようなものだ。ララシャ様を支えること以外に、俺の心を保つものはない」


「……悲しい、のです。私に何かできることは?」


「ない」


「で、でも!この世界にも、いいことも、いいものも、たくさんあるのです!エドワード君にも、この世界を楽しんで、愛して欲しいのです!ルカが愛した、この世界を……!」


そう言われてもな。


もうマジで何も感じないから……。


「仲間も、冒険も、世界も……。全ては消えゆく余燼に過ぎないだろうに。いつかなくなるものだ、俺とララシャ様とは違ってな」


「わ、私はエルフなのです!老いることはないのです!君の仲間だって、レベルが上がればずっと一緒にいれるかも……!」


「ずっと?お前、幾つだ?」


「え……?五百歳なのですが……?」


「俺は数万数千年間、ムーザランで虚無を味わってきた。『ずっと』という言葉を気安く使うな、その言葉は……、『重い』ぞ……」


「……ごめんなさいなのです。でも、これだけは覚えておいてほしいのです!私は、この世界の皆は、勇者に……、君に期待しているのです!そして、君の仲間は、君のことが好きなのです!どうか、『摩耗』しても……、忘れないで……!」




と、何か名台詞的なものを吐かれたが。


「で、ここに来た用は?」


「あ、あう……。え、えっと、その……」


はあ?


「……先代勇者ルカが、行方不明?」


「そうなのです……。五十年前くらいから冒険に出ていて、定期連絡が来なくなっちゃって……!」


「で?探せと?」


「は、はい……。できれば、でいいのです。エドワード君は勇者として、これから世界各地を巡ることになるはずなのです。その時に、先代勇者のことを、ちょっとでも探してもらえれば……!」


「そういうのは、普通、国が動くような話じゃないのか?」


「もちろん、旅のエルフ達に捜索してもらえるように便りは出しているのです。けれど、もう五十年間は……」


「ああ……、じゃあ、後は、勇者が行くような危険地帯のみだ、ってことか」


「そうなのです……。もしも、もしも……、ルカがもう亡くなっていたとしたら、遺品の一つでも……っ!」


ふーん。


「ルカは、お前の夫だったのか?」


「そう、なのです。愛した人なのです……。でも、私には、ルカが残したエルフの国を守る使命があるのです……。お、お願いなのです!ルカを、どうか、どうか……!」


そうですか。


「まあ、ついでに探すのは構わん。見た目は?」


「黒髪に黒い瞳の、かわいい青年なのです!」


あ、やっぱり日本人なんだ……。






—————————


宣伝をします。


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田舎剣士の現代ダンジョン 〜田舎の武術家高校生はダンジョンで楽しむ〜

現代ファンタジー、ダンジョンもの。

家の蔵にダンジョンができたので、主人公がダンジョンに挑む!

しかし主人公は、ナントカの呼吸だの、飛天御ナントカ流だの、そう言うレベルの剣士だったのです……。から始まるテンプレ現代ダンジョン。

ダンジョン言いながら何故か後半は世界大戦が起こったりするがまあ基本的にテンプレ。


満月の狂人はしばらく書き溜めて、更新速度が落ちると思うので、代わりに投稿している自作を読んでください。ワンチャン読まなくても良いのでPV数を回してきてください。



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