第90話 剣聖様
「ふぉっふぉっふぉっ、他人を待たせることはあっても、待たされることは久しくなかったのう。……いや、マジでの」
月龍教神殿の前で、白髭の老人に声をかけられた。
誰かは分からないが、これからララシャ様のおやつの時間が始まる。
消えろと俺が口に出す前に……。
「すいませんでしたぁ!!!」
シーリスが素早く土下座をしていた。
なんだこいつ……?
「け、『剣聖』様!申し訳ありません!エドにも悪気があった訳じゃ……!」
「ふぉっふぉっふぉっ、気にしとら———」
「邪魔だ」
「ホギャー!!!」
目の前で土下座されて邪魔だったので、俺はシーリスを蹴って脇に退ける。
シーリスは空中で三回転し、頭からゴミ捨て場に突っ込んだ。
「———って、えぇ……?」
ジジイが何か得体の知れないものを見る目でこちらを見てくるがスルー。
「そ、その、よいかの?」
「駄目だ。これから、ララシャ様のおやつの時間がある。消えろ」
「えぇ……?!儂、剣聖なんじゃけど……?!!」
「そうですか」
俺はララシャ様を椅子に安置して、アニスに紅茶を淹れさせる。
そして、あらかじめパシらせておいたランファとナンシェが、焼き菓子とケーキを持ってくる。
穏やかなティータイムが始まった……。
「ララシャ様、いかがですか?」
「うむ、美味である」
ヨシ!
ララシャ様のおやつタイムをスクショしつつ、データを紙に印刷(そういうアイテムがある)し、それを引き延ばして額縁に嵌める。
「あ、あのっ!こ、この絵画!す、す、素晴らしいですっ!」
「よし、良いだろう。毎朝毎晩、ララシャ様の絵画に向かって祈りを捧げろよ」
「は、はいっ!!!」
そしてそれを、うちの神官長にくれてやった。
もちろん、俺の分はアルバム化して保存済みである。抜かりはない。
そうして、やることをやっていると……。
「あの、もうよろしいですか?」
クララが話しかけてきた。
「何だ?」
「剣聖様には、応接室の方でお待ちになっていただいてまして……」
剣聖様?
ああ、なんかそんな奴が訪ねてきていたような気がするな。
「こちらにお通ししてよろしいでしょうか?」
「そうしろ」
「分かりました、お待ちください」
「あ、もういいかのう?」
「用件は?」
「目上の者に挨拶とか……」
「用件は?」
「うん、まあ……、うん……。あー、儂が何者かは分かるかのう?」
「知らん。興味もない」
「うーん、儂、ここまで塩対応されたの生まれて初めてかもしれんわい。ちょっと予想外過ぎて言葉が出てこんわ。ちょっと待ってくれな?」
はあ、そうですか。
「うむ……、うむ!では名乗ろうではないか。儂は、バルシュ・ヴァイツリヒト・シュバイエ。剣聖と呼ばれておる者じゃ」
「そうですか」
「新たなる勇者の降臨じゃと聞いてのう。様子を見に来たのじゃよ」
「そうですか」
「……わ、儂は、先代勇者のパーティの一員でのう。な、何かこう、聞きたいこととか……?」
「そうですか」
「………………」
「………………」
「ちょ、ちょっとその、クララ殿!クララ殿!」
「は、はい」
剣聖とやらは、クララを呼びつけて、ヒソヒソと何事かを話し始める……。
「の、のう、こいつ、いつもこんな感じなの?」
「残念ながら……」
「うっわー……、マジか……。儂の代の勇者殿も変わった奴じゃとは思っておったが、これはその……、ヤバくないかの?」
「い、良いところもあるんですよ……?」
「話が全然通じんよこれ?本当に大丈夫かのう……?」
「え、ええと……、お話とは?」
「いや、実は、勇者の評判があまりにも悪いので気になってのう。ちょっと見定めに来たのじゃが……」
「どう……、でしょうか?」
「いや、見定める以前の話じゃぞこれ。目上の人を一週間待たせるて……。勇者云々以前に人としてアウトじゃろこんなん?!」
「す、すみません……!ですが、本当に強いんですよ?!」
「うん……、まあそれは分かるわい。儂の世代の魔王より下手したら怖い感じがするもん。儂が言いたいのは、こんなヤバいのを野放しにしといて大丈夫なの?って話じゃよ」
「現状、他に方法がありませんので……。二百年分の召喚リソースを丸々奪われてますから、打つ手がないと……」
「んー……、魔王軍がまさかこんな手を使ってくるとはのう……。魔族は、知恵や策を使わずとも、圧倒的な力で人類を打ち倒せる!というのが奴らの誇りじゃったはず……」
「はい……。今回は、正式な勇者召喚が行えなかったことと、二百年ぶりで百年期間が空いてしまったこと、策略を駆使してくる魔王軍と……、全てがイレギュラーです」
「その上で、幹部が八体おるんじゃろ?儂の頃は四天王じゃったんだけど、おかしくないこれ……?」
ふむ。
「用がないなら帰れ」
「あっちょっ、待って!待ってくれんか?!」
「何だ?」
「あー……、その、手!手を握らせてくれんか?」
「……まあ、良いだろう」
俺は、剣聖と名乗るジジイに手を握らせた。
「……ハハ、ハ!こりゃ敵わんわい。バケモノじゃ、お主」
すると、ジジイは引き攣った笑みを浮かべて、一言。
そして、もう一つ。
俺に対して言葉を投げかけてくる。
「勇者エドワードよ。人の世を守り、救えとは言わん。だがどうか、人の世を乱すことのないよう、伏して頼むぞい……!」
そう言って頭を下げたジジイは、そのまま帰って行った……。
なんだったんだ、アレ?
—————————
作者です。
更新頻度落ちます。
いい加減限界です。毎日更新してる人は何なのあれ?後退のネジとか外れてる感じ?
こっちはもう毎日、散眼使ってる時の愚地独歩みたいな顔になってますよ。限界なんです。
今度またなんか適当に過去作をぶん投げとくんでそっちを読んでください。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます