第85話 月の光に導かれ

エマ・オールドブラッド。


月龍教で雇った神官の女だ。


鹿のビーストマンらしく、角の生えた大柄な奴だな。


俺はこいつを連れて、王都のダンジョンに潜り……、レベルを上げてやった。


そして、そのレベルを……。


「あっ……!け、経験値が吸われました!その代わりに、新しいスキルが手に入っています!」


月龍教の祭壇に捧げさせた。


そう、信仰システムの試運転である。




×××××××××××××××

 

エマ・オールドブラッド

レベル:52

神官

月龍教神官長

 

種族:鹿獣人

性別:女

年齢:25歳

 

HP:279

MP:231

ちから:225

きようさ:110

すばやさ:184

まもり:181

かしこさ:197

こころ:25

うん:47


・魔法

クリーン

ティンダー

クリエイトウォーター

コントラセプション

キュアポイズン

キュアパラライズ

ヒールウーンズ


※」レ─・/彳朮テ?

『ララシャの剣陣』

『ララシャの吹雪』


×××××××××××××××




……なんか表記がバグっているが、正常に動いているので良しとしよう。


MODをたくさん入れられる洋ゲー界隈では、「なんかいっぱいエラー出てるけど、動くからヨシ!」というのが良くあることらしい。


最悪でも、この世界の人間が一人壊れるだけだし、問題はないはずだ。


「ルーン術の調子はどうだ?」


「なんか……、こう……、ありますね?」


「有る、とは?」


「いや、その……、使えます。けど、違和感があるというか……?脳内に、こう、植え付けられた……?」


「まあ、使えるならそれで良いだろう。試運転してこい」


「は、はいっ!」


そんな訳で、王都の大ダンジョンに再び入る。


五十階層のふわふわマン(ワーウルフ)相手に、試し撃ちをさせるのだった。


「い、行きます!……剣とは、遥か遠き昔より力の象徴なりき。ならば、剣の覚えさまを描かば、そは力となる。かくて、月の姫が下賜せるそは、星の雨に例へらる。『ララシャの剣陣』ッ!!!」


別に口に出す必要ないぞそれ。


指で書くのが重要なんだよ。


まあ、この世界の魔法は呪文を唱えるのが基本らしいから、そんなもんなんだろうと納得しておこう。


さて、そうすると……。


ふっ、と。


理力と冷気で編まれた、青褪めた剣が十六本。


エマの背後と頭上に現れ、浮いた。


「どうだ?」


「んっ……!す、凄く消費が重い、です!MPが一気に75も、なくなりました!」


ふむ、俺だと二十回以上は使える中程度の負荷の術が、ちょっと優秀な一般人程度では三度が限界なのか。


「ララシャ様……」


「うむ……、この世界の脆弱な人々には、私の術ではなく基礎的な術の方が良いかもしれんな。しかしエマには、私の神官として、私の術を使ってもらわねば困る」


「ええ、俺もそう思います。今後はしばらく、エマを鍛えて、月龍教神殿の管理者に相応しい程度の力を付けさせる方向で?」


「うむ、それで頼めるか?我が剣よ」


「もちろんでございます」


ララシャ様にご相談をしながら、エマの動きを見る。


「あ……、なるほど。この術は、一度、剣を生み出せば、制御や射出に、MPは使わない、んですね?使い切りの術式……」


そう言いながら、エマは三本の剣だけを動かし……。


『ギャオオッ!』


「死ね」


『ギヒィ?!』


迫り来るふわふわマンを、三方向から串刺しにして、殺した。


「凄い……!とっても、鋭いです。動作のレスポンスも、早い。射出しても、制御を、手放さなければ消えない?出しっぱなしで、その間にMPを、自然回復させれば、逆に低燃費かも、です」


『グオオオオッ!』『ギャオオ!』


ふわふわマンのおかわりだ。


ダンジョン、森のフィールドにて、木々の上や陰からいきなりの奇襲。


しかしそれを、ビーストマンらしい野生の勘で察知し、受け止めるように理力の剣を配置する。


『ギャッ?!』『ギイッ?!』


「あ、でも、行使中に他の術は、流石に、使えません。奇襲が怖い、ですね。じゃ、じゃあ、こう、かな?」



ふわふわマンを斬り刻みつつ、エマは術を制御する。


どうやら、後方などの死角には、理力の剣を高速回転させて擬似的な盾として稼働させるつもりらしい。


賢いな。


「つ、次、行きます。……やむごとなき月の姫、その息吹は月の風、龍の息吹、凍ゆる冬の訪れなり。『ララシャの吹雪』!」


『ララシャの吹雪』は、一定時間、手のひらから吹雪を噴出させ、そのエリアを凍結属性の高ダメージエリアにするというもの。


「え、えいっ!」


こいつのように、吹雪で薙ぐようなイメージで手を振れば……。


「わ、す、凄い……!」


前面扇状が凍えて崩れ落ちる。


因みに、どうやらムーザランの術などに付与されている「属性」の効果は、この世界の術のそれとは勝手が違うらしい。


例えば凍結属性は、実は物理的なものではなく、概念的なものだったらしい。


鉄や霊体なども、凍って砕けて破壊されるようだ。


まあムーザランは落魄れたとはいえ、神話の世界だからなあそこ。


人の世界であるこの世界とは、規格が違うのだろう。


そんなこんなで、エマをダンジョンでしばらく鍛えた……。

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