第83話 調整役系ヒロイン

勇者パーティの神官、クララです。


私は、この国の王であるライゼン四世の庶子で、特別執行員……つまり、『勇者パーティ』の一員……。大変に名誉ある、素晴らしい職務に従事しております。


そんな私は今、王都の兵士養成所に出戻りして、鍛え直していました……。




……事の始まりは、「勇者降臨」でした。


この大陸の過半数の国の賛成がある時のみに行える、神秘の大儀式である「勇者召喚の儀」……。


魔王降臨から十年が過ぎ、各国からの承認と、儀式の為に必要なリソースを集め終えた矢先のことです。


儀式の日取りが決まった、その次の日に、何故かリソースが大きく消えてなくなり……。


術式が狂い、辺境の地に勇者らしき何かが召喚されてしまった、と……。


そんな知らせを、陛下から受けました……。


厳重に管理されていた、勇者召喚の為のリソース。


これは今となっては分かりますが、空間を超える魔法を編み出していた、あのアンデッドの八魔将の仕業でしょう。


大量の魔石に、貴重な薬草、鉱物など、極めて高価かつ希少な魔法的素材を奪われたのは、正直に言って大打撃でした。


外交的にも、各国からリソースを募っておいて紛失するという大失態ですから、本当に危なかったですね……。


おまけに、術式の狂い。


悪意をもって改変された儀式の術式は、勇者召喚の儀における、「検索条件」を含む殆どが狂わされておりました。


勇者召喚の儀では、異世界……「ニホン」と呼ばれる地の、「二十一世紀」という時代から、正義感とスキル的適性がある青年が呼び出されるというものです。


それが、狂った術式では、不特定な世界から、悪寄りのアライメントの、とにかく強い存在を呼び込もうというものになっておりました。


やはりここも、八魔将の工作だったのでしょう。悪しき強者を呼び出して、魔王軍の傘下にしようとでもしたのでしょうね。まんまとやられた私達に、それを蔑む資格はないのでしょうが……。


そうして、こちらの予測範囲外、想定範囲外に召喚されてしまった、勇者ではない「何か」は、王都にある「広域勇者力測定器」で、信じられない程の大きな反応を発して……。


いきなり、反応がパッと消えてしまったのです。


「勇者力測定器」は、勇者がこの世界に召喚されると必ず付与される天稟、神の如き力である、「チートスキル」の反応を辿るものです。


チートスキルは、子々孫々に遺伝するスキルであり、王家の秘技として限られたものにのみ相伝されるもので……。


そして、そのチートスキルは、一度死ねば消えてなくなり、子孫に受け継がれるという形式になっています。チートスキルのデフォルトの効果として、死をトリガーとして子孫にそれを発現させる、ということですね。もちろん、生前に血縁者に伝授することも可能ですが。


まあ、つまり、そのチートスキル保有者……、勇者候補は、この世界に来てからいきなり死んだことになります。反応が消えた訳ですから。


その事実確認の為、私は、かねてから予定されていた『特別執行員印章』を陛下から下賜されて、正式に勇者パーティの神官と任命され、辺境の街ルーカスターに向かったのです……。


そこで出会ったのが、謎の最強戦士である、エドワード・ムーンエッジ様。


私は、彼の身体に渦巻く、膨大な闇色の魔力を見て、一目で分かりました。


彼は、勇者召喚によって呼び出された、強大な存在である、と。


その為に私は、身分を隠して彼のパーティに入り、観察を続けたのですが……。


まあ、酷いですね。


空虚。それでいて自分勝手。


理屈が通れば非を認める寛容さはありますが、その理屈というのも、この世界の私達の理屈ではなく、彼の世界の冷たい理論での話。


また、狡猾で、法があれば破るのではなく抜け穴を巧く使い、他人を貶める。遵法意識はあるようですが……。


しかしそれも、故あれば法を破ってでも自分の意思を通す……。ただ、納得できる罰則ならば必ず受け入れており、完全に制御不能の暴虐者という訳ではない……。


正直、私には計りきれません。


けれど、私の所感としては、制御不能の大敵ではないかと、そう思いました。


これはアニスさんがよく言っていますが、「話し合いが通じる相手はその時点で上等な存在」ということですね。


エドワード様も、論理的な、理屈の上で諭せば、一定の理解を示してくださいます。


絶対のタブーである、ララシャ様に対する侮辱さえしなければ、力の大きさに反して極めて無害だと評価できますね。


私はそれを、王家へと報告していました。


……実は、王家では、一時期にはエドワード様を暗殺する計画などが立てられていたほどでして。


ルーカスターでの暴れっぷりを見て、諸侯の中には、その暴力が自身の領地で振るわれたらと危惧し、そうなる前に悪しき存在を倒すべきだと主張する方々が多かったのです。


もちろん、そんなことをしたら、エドワード様はこの国を滅ぼすでしょう。


それが分かっていた私は、様々な手段で勇者パーティとしてのイメージアップを図り、王家への報告も可能な限り美化して、諸侯との調整や弁明に、民衆への宣伝なども欠かさずに行なっていまして……。


エドワード様にとっては、私などただの囮三号なのでしょうけれど、私は今まで必死になってサポートをしてきたつもりです!


そうして、今はやっと、陛下からの勇者としての公認を得られたところですね……。


であれば、私は。


戦闘能力だけでなく、王家の秘術を習得し。


それ以上に……!


「まあ、シュナイダー卿!ご支援いただけるとは、大変光栄でございます!我が主人であるエドワード様も、卿に感謝しております」


「いやいや、支援などと。私は大したことはしていないよ。むしろ、勇者と縁を結べるなど、我が伯爵家にも利が大きいさ」


「黄犬商会様と黒猫商会様も、ご支援いただきましてこの上ない喜びです!このご縁が長く続くことを祈ります」


「いやいや、気にせんでええよ。うちらにもメリットあるしな」「それより、勇者様のルーン術ってのに興味があるネェ?何とか手に入らないかネェ……?手に入ればこちらは、そちらの騒動の隠蔽にも手を貸せるんだがネェ?」


「Sランク冒険者パーティの『紅蓮の矢』様ですね?こちらは勇者パーティの神官、クララと申します。よろしければ少しお話を……」


「おっ、いいぜ!勇者には俺らも興味があったんだ!」


パーティー!イベント!酒場!交渉交渉交渉交渉ーーーっ!!!


……エドワード様が暴れる前に、エドワード様の機嫌を損ねないよう、世界の人々側の方を調整するのです!!!


それが私の、クララ・R・サーライア・スカイの使命なのですっ!!!

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