第82話 盗人ヒロイン
やあやあ、勇者パーティの斥候役、アニスだよ。
……可愛いとまでは自称しないよ、恥ずかしいから。
シーリスって、なんであんなに根拠のない自信に溢れてるんだろうね?羨ましいや。
で、あたしの話。
あたしは幼い頃に、遠い国から訳あってこの国に来た移民で、この国の孤児院で育ったんだ。
祖国ではそれなりに……、いや、結構な立場にあったけど、お家騒動ってやつでね……。
有名になってもてはやされたい気持ちはあるけど、権力の云々、闇の戦いがー!みたいなの、もう嫌だな。
まあ、この国はかなりまともみたいだし……。
例えば、私の祖国なら、できるかどうかは別として、エドみたいな態度で王侯貴族に接したら、確実に打首獄門だけど……。
この国の王は物分かりが良かったらしいね。ちゃんと、態度の悪いエドを許したらしいし。
懐が深い、良い王様だよね。
うん、やっぱり。
この国は、あたしの祖国とは違って豊かで、人々はみんな優しくて、本当に良い国だ。
もちろん悪い人だっているけども、あたしの記憶にある祖国よりは全然マシなんだよね。
だから、この国への忠誠心らしきものもあるけれど……、それ以上に。
あたしのことを育ててくれた、孤児院の院長先生の意志を……。
「たくさんの子供達に幸せを」という、意志を。
あたしは継いでいきたいなって、思ってた。
ふふ……、でもね、その夢はもう大体叶っちゃった。
エドがね、お金をたくさんくれるんだもん。要らないから、って。
孤児院の子供達は、商人のヤコに見習いとして引き取ってもらえたし、ルーカスターにはエドワードが稼いだ八魔将討伐の報酬金を孤児の救済と街の再建のために募金したから……。
いや、募金っていうのは正しくないかな?
報酬金は、ヤコとあたし達に預けちゃったんだよね、あの人。
で、ヤコが、「お金をただ一カ所で貯めておくと腐りますわ」とか言って、ルーカスターの再建費用に充てちゃったの。
あたしは、「あ、これ殺されるな」と思ったんだけど、許可を取りにエドワードにそう言ったら、債券投資?がどうとか、利回り?満期償還?とかよく分からないことを言って、全額預けてくれたの!
その後は、ヤコがよく分からない契約書を書いて、領主様にサインを貰いに行ったよ。
とにかく、エドワードは優し……くはないけど、本当に太っ腹で良い人だよ。
ちゃんと説得すれば話を聞いてくれるしさ、こんなに強い割には全然話が通じる人だよね。
多分、魔王と同じぐらい強いんだろうけどさ……、魔王は魔王のその力で人間の世界を滅ぼそうとしてるけど、エドは魔王並みの力があるのに、お嫁さんと静かに暮らそうとしてるんだもん。
すごーく、偉いよね。
良い人だよ、エドは。
人間、力があると魔がさすからね……。持つ者には持つ者の苦悩ってものがあるんだよーっと。
あー、そうそう。
で、今は、あたし達勇者パーティは全員、学園で腕を磨いてるとこだよ。
エドはまあ、普通に酷いけど、なんだかんだ言って助けてもらってるし。
蘇生の代金とか、仮に取られるとしたら、人間の人生一回分に稼げる程度の額じゃ到底足りないだろうからねー。
こんなに払ってもらえたんだから、あたしもその分お返ししてあげたいし……。
それに、個人的にはエドのこと、好きだしね。
強いエドの傍にいれば、もう何も奪われないだろうから……。
……暗い話はやめやめ!
それより訓練訓練!
……と言っても、何やれば良いんだか。
シーリスはああ見えて魔術師としては上澄みだし、クララなんて従軍経験のある神官。
ランファはまあ、普通に強いし……。
ナンシェはエルフだから、知識もスキルも多い。
センジュも、グランドマスターとしての腕は確かだもんね。
何もないのはあたしだけ……?
……い、いやだ!このままじゃ、エドに捨てられちゃう!
えっと、ええと……!
そうだ!
エドは言ってたよね。確か、「俺にできないことをできるようになれ」って!
えっと、エドにできないこと、足りないものとなると……。
善意と、正義感と、友情と……あー違う違う!そういうのじゃなくって!
……そう!お料理!
エドは味は分かるのに、料理は全然できないんだ!ムーザランにはまともな食材がなかった?とか言ってて……。
エビとカニを茹でることはできるらしいけど、基本的に料理はできないと見ていいね。
それと、テントの準備。エドは寝る必要がないらしいから……。
ん?それなら、野営全般の……、例えば室温調節のエンチャントとか、掃除とか洗濯とか……?
うん、うん、そうだ!そうだよ!
元々、院長先生が亡くなってからは、仮の院長としてあたしが孤児院の運営をやってきたんだもん!
掃除洗濯料理に裁縫、簡単な畑仕事に内職の類……、あたしは全部できる!
それを磨き上げて……、そう!
斥候兼サポート役兼、最高の雑用係になろう!
よーし、じゃあ、冒険者学校だけじゃなくて、メイド学校に行って勉強するぞー!
……そうしてあたしは、家事や野営の為の「生活魔法」を中心に、料理や掃除、洗濯などをビシッと学んで、ハウスキーパーの資格もとった!
それだけじゃなくて、偉い人のエスコートのやり方とか、交渉技術とかも習ってきた!
そういう細々とした雑用を引き受けて、エドに気に入ってもらえるようにするんだ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます