月龍教設立&王立学園編
第79話 月龍教設立
「エドっ!王様に褒められたって本当ですかっ?!」
「あー、そんなこともあったな」
「ずるいー!ずるいですよ!私も褒められたかったですー!」
小煩い捨て犬魔法使い、シーリスが俺にまとわりついてくる。
ダンジョン攻略が終わってもう三日。
こいつらも、とっくにダンジョンから戻ってきていた。
実は王の庶子だったクララは、各方面への報告や事務手続きで動き回り、他の奴らは休息中。
こいつは、暇があると俺に絡んでくる……。
……デコピン。
「いっ……?!!?!?!ぐああああああっ!!!痛い痛い痛い?!!!」
シーリスは縦に一回転して、建設途中のここ……、『月龍神殿』の資材置き場に頭から突き刺さった。
「おお、身体を張ったギャグだな」
「え……?!え?!これなんですか?!何されたんですか私?!!」
「デコピン」
「デコピンの威力ですかこれ??!?!?!」
こんなもんでは?
「うわ、ちょっと血ぃ出てる……。あの、本当に、エドのふざけ半分のデコピンは、私普通に死ぬので、マジで勘弁してくださいね……?」
「大分平気そうだが?」
「エドが無茶しまくって、私達が何度か死んだから、私達の『まもり』のステータスは300を超えてるんですよ!魔法使いなのにエース級タンク並みに硬くなっちゃったんですよ私?!エドのせいですからね?!!」
「どういたしまして?」
「褒めてねーですよ?!!!」
そして。
慣れた手つきで額の血を拭い、塗り薬を塗って、絆創膏を貼り付けたシーリスは。
むん、と胸を張って、こう言った。
「とにかく!私達も成長してるんです!確かに囮しかできてないですけど、エドの力になりたい気持ちはちゃんとあるんですから!……大切にしろとまでは言いませんから、せめて仲間として認めてほしいです」
ふむ。
「だが、このままではいつまで経ってもお前らは使えないままだろう。気構えは認めてやらんこともないが、最低限の実力がなければな……」
「それなんですけど……、じゃーん!これを見てください!」
ん?
パンフレット……。
ええと、『国立ヤマト学園』……、だと?
「私達は、今までエドにもらったお金を、積み立てて貯金してたんです!それを使って、私達はこれから、学園に短期入学して鍛えてきます!」
ほう、それは良い心がけだな。
「結構なことだな」
「エドは今、神殿の設立とかで忙しくて、しばらくは王都にいるんですよね?その間、私達パーティは全員、しっかり鍛え直してきますからっ!だから、だから!これからも一緒にいてくださいっ!」
……ふむ。
「正直、お前らはいてもいなくても変わらないが、いると助かったことも何度かはある。別に嫌っている訳ではないから、そう怯える必要はないぞ」
「……本当ですか?」
「ああ、興味があまりないだけだ」
「うー……。とりあえず、その、頑張るので!あの……」
「何だ?」
シーリスは、そのデカい魔女帽子を脱いで、頭をこっちに向けてきた。
「な、撫でてください!」
はあ。
まあ別に構わんが。
撫でてやった。
犬にそうするように、ブラウンの髪をぐしゃぐしゃ適当に撫でてやっているだけだが……。
「えへへへへぇ……♡」
シーリスは、デレデレと緩んだ顔で、俺に身を寄せて甘えてくる。
普通の女なら、髪型が崩れるからと嫌がりそうなものだが、その辺りが犬なんだよな、こいつは。
しかし……。
「俺はお前の父親ではないぞ」
「……もぅ、知ってますよ!そうじゃなくて、私は『エドに』甘えたいんです!」
「何故だ?」
「はあ……、やっぱり分かってない……」
「分からないから聞いているんだが」
「あのですね!私達みーんな、あなたのことが好きなんですよ!そりゃあ、キレると手のつけられないサイコパスですし、全然私達にデレてくれないけど、それを差し引いても、色々訳ありの私達を救ってくれた人なんですから!」
救った?
「そんな覚えはないが」
「エドが聞いてないだけで、私達とっくの昔に話しましたよね????」
曰く……。
シーリスは、極貧の底辺魔法使いだったが、俺の資金援助とレベル上げ養殖のおかげで、今は一流レベルの魔術師になれたとか。
アニスは、孤児院の子供達を養う為にスリに身を窶していたが、俺の資金援助とコネのおかげで、子供達をヤコの商会で見習いとして引き取ってもらえたとか。
クララは、憧れであり、自分の使命である勇者パーティの一員になれただけで最高の幸せだそうで。
ランファは、俺という間違いなくこの世界で最強の存在に惚れ込んでいるし、その強さを間近で見て学べるだけで、仙人に至るという夢への大幅なショートカットになるらしく。
ナンシェは、長い時を生きるエルフとして、長い時が過ぎても風化しない最高の冒険を望んでいるのだが、俺の傍では事件が絶えず毎日楽しい、と。それどころか、俺はそのナンシェより長生きしそうだから、ナンシェは孤独にならなそうで幸せだ、と。
そんな感じで、囮共も、俺に惚れ込んでいるらしい。
「大好きですよ、エド!ですから、これからも一緒に!一緒に戦わせてください!」
ふむ……。
まあ確かに、聖属性の武器を持たせていたとはいえ、百階層の王都ダンジョンを攻略してムーザラン産のアンデッドとも互角に戦い、八魔将なるもの相手でも五分くらいは保った。
囮が、最近は肉盾くらいには進化したと見て良いだろう。レベルが上がったんだろうな。
であれば……、一つアドバイスをくれてやるか。
「シーリス。学ぶのであれば俺にできないことを学べ。そうすれば、俺は助かるだろうな」
「……はいっ!頑張ります!」
スキップしながら機嫌良さげに去っていくシーリスを見送り、俺は神殿の設立作業を行う。
さあ、まずは、ムーザラン産の『月龍祭壇』を設置するところからだ……。
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