第78話 王の言葉
「貴公、エドワードよ。今までの悪行、確かに許し難し。しかしながら、貴公の癇癪で死んだ者達よりも、貴公の気紛れで救われた者達の多さを、余は重視したい」
サーライア王国が国王。
偉大なる建国王「ヨシュア・スカイ」の血脈を受け継ぐ、黒髪の男。
ビロードのマントを羽織り、腰には建国王の愛剣を模して作られた「カタナ」という剣を帯びた、鷹のように鋭い目の、壮年の男だ。
晩年の建国王が愛したという、「キモノ」という形の上着を羽織り、その上にマント。下半身はズボンと革靴という極めてチグハグな格好をしているが、本人がハンサムである為なんとか調和を保てている。そんな不思議な格好の、国王。
名を、ライゼン・サーライア・スカイ……。
ライゼン四世である。
「そうですか」
それに対して、あくまでもフラットな返答をする、勇者エドワード。
いつも通り、万物に対して興味がなさげであった。
伽藍堂、夜闇をくり抜いたかのような虚無の瞳には、目の前の王すら映らない。
もちろん、王の周辺に控える従者は、その態度に眉を顰めた。
そも、王の前にて平伏すらしないなど、許されることではないのだから。
王の近習、従者達は、エドワードの態度を咎めようと立ち上がる。
しかしそれに、王は手を翳し、制止した。
「よい。勇者の中には、礼法を心得ぬ者も多かったと伝え聞く。……して、エドワードよ。報告があるのではないか?」
寛大な言葉だった。
王としての、器が分かる言葉だ。
「ないです」
しかし、エドワードはこう即答。
全速力で無礼……。
「……無い訳があるまい。余の娘、クララと共に、ダンジョンから湧き出る不死者共の討伐の任についたと聞いておる」
流石の王も、一瞬で、「ああこいつはヤバいな」と見抜いたが、一応聞き返した。
王に訊ねられたのであれば、どんなことでも詳らかに答えるのが当然である。……そんな王にこの台詞を言わせている辺り、相当に無礼であるのだが、色々な要素が噛み合ってスルーされた。
「ああ……、『これ』か?」
「……先ほどから思っていたのだが、その……、肉片は、その、何だ?」
「何だったか……、八魔将?とかいう奴だな。ダンジョンの底に居て、ララシャ様を侮辱してきたので殺した」
「なにっ?!八魔将をもう一柱討伐したと申すか?!」
「そうなんじゃないか?」
そう言って、黒い肉塊を投げ捨てたエドワード。
肉塊を、王の従者が確認すると……。
「ま、間違いありません!この、黒い魔石は、魔王から直接魔力を注入されたモンスター……、八魔将の証!この死骸は、八魔将ですっ!!!」
「な、なんと……!王都ダンジョンの底に八魔将が……?!そして、八魔将率いるアンデッド軍の侵攻があった……。とすると、貴公は、この王都を救ったのか!」
「そうですね」
「「「「おおおっ!!!」」」」
オークション会場で歓声が上がる。
勇者が、王都に巣食う魔将を討ち果たし、邪悪なる陰謀を打ち破った!……まさに英雄譚だ。
娯楽に……「刺激」に飢えている上流階級達が、それをただ見ている訳は、ない。
「エドワード・ムーンエッジよ。何か望みはないか?余の裁量で可能な限りの報酬を与えよう」
ふむ、と。
エドワードは頭の中で考えを巡らせる。
欲しいものと言えば相変わらずホーン。しかしこれは急ぎではない。この世界で活動していれば、嫌でも溜まっていくことは分かっている。
とすると、ララシャ様に捧げる美食と住居だが……。
「ん?」
……よく考えれば、ヤコに手配させれば手に入るな?と。
エドワードは思った。
「……ララシャ様、人王に何か要求すべきことはおありでしょうか?」
「我が剣よ、私は、お前さえいれば何も要らないとも」
「おおっ、ララシャ様……!勿体なきお言葉でございます!しかし、ララシャ様の居城などは……?」
「……居城の用意はまだ良い。私の力が、せめて半分は戻らねば、城などあっても管理ができんのだ」
「ああ……、確かに、それはそうですね」
分類的にはボスであるララシャは、十分なホーンさえあれば、それを元に眷属の龍種などを呼び寄せることができる。
ララシャの居城は、ムーザランでは、数多の龍種が徘徊する、龍の巣も同然の危険地帯だったが……、この世界でも城を手にすれば同じことをするつもりらしい。
「それに、これはお前への褒美なのだ。お前が受け取るがいい」
「ララシャ様……っ!」
……で、そして。
一頻り感動したエドワードは。
「では、ララシャ様を崇める『月龍教』を国教に指定しろ」
と、いきなり物凄く無茶なことを言い始めた……。
「国教は少し難しいな……。しかし、宗教として認めることはできよう。本格的に人を集め、教えを広めるのであれば、聖典の開示や、宗教法人としての登録が必要だが……、うむ。王の名において、『月龍教』を公認宗教団体と認め、エドワード・ムーンエッジを月龍教の最高神官と認めようではないか」
だが、そこは一国の王。
上手く躱してファインプレーを見せた。
「他に必要なものはあるか?王都に神器を複数齎し、オークションに出したことと、先日の巨人の八魔将討伐の報酬も出したいのだが……」
「ふむ……、とりあえずは思い浮かばんな。俺の後援をしている商人のこいつに聞け。こいつを全ての窓口にする」
「エドワード様っ♡♡♡」
サラッと名誉と権限を投げつけられたヤコは、王に平伏しながらも、エドワードの名を呟きつつこっそりと絶頂した。
性行為よりも商取引で利益を出すことの方に興奮を抱く異常商人故、エドワードに従えば従うほど利益も権限も立場も全てが高まる現状に、この女は脳が蕩けるほどに喜んでいる……。
こうして、王家に直接的に勇者と認定され、直通の窓口まで持ったエドワード。
これからは、勇者という大義名分を得て……。
「で、勇者だと何があるんだ?」
……得ても、変わらないようだった。
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宣伝をします。
https://kakuyomu.jp/works/16818093073326458103
サイバーパンク学園 〜元伝説の兵士がサイボーグ女子校で教師生活〜
↑
自作です。
作者がブルアカをやりながら書いた、学園ハートフルコメディですね。
元大戦の英雄が、サイボーグ女子校で教師をやるというベタな内容の日常ラブコメディになってます。
ジャンルはSFだけど実質的には能力バトルものみたいなもんなので肩とケツの力を抜いて読めるんじゃないですか?
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