第76話 光を齎す者
「にゃ、にゃああ……!た、助けて、エドワードさっ……ぐえっ!!!」
闇の魔法?とやらで拘束されて吊り上げられたランファに、波刃が直撃し、喋っている途中で首から上が消し飛ぶ。
残された肉体は大きくつんのめるように一度痙攣し、その後に弛んだ膀胱から大量の尿失禁。
土と泥、汚濁に塗れたランファの死骸が、ゴミのように捨てられて転がる。
『クーククク……!どうだ、勇者よ?愛する者達を殺され、一人きりになった気分は?』
裂けた口を歪めて笑う、八魔将のアンデッド、リヒトライゲン……。
リヒトライゲンはこれ見よがしにパーティメンバーを殺して、俺を精神的に追い詰めようとしていた……。
「そうですか」
『……は?』
「え?」
『……クーククク!女を殺されて狂ったか?』
「何が?」
『いや、だから、女達を殺されて……』
「あ、はい」
『はいじゃないが』
「いや、何……、え?殺されると何かある感じなのか?」
『だから、女達を殺されて悔しくないのかと聞いている!!!』
「え?」
何の話?
『……イかれているのか?勇者のパーティメンバーと言えば、勇者に傅く妻だと聞く。妻を殺され、何故なにも言わない?!』
「俺の伴侶はララシャ様なので……」
『ク、クーククク……!そういうことか……!貴様の本当の妻は、その白肌の女ということか!』
本当もクソも、最初からそうだぞ。
囮共とはそういう関係になるつもりは特にない。
まあ、ムキになって拒否するほどに嫌いな訳でもないが……。
ムーザランは一夫多妻制だったし、ララシャ様も含むところはないと仰せだし、別に何でもいいし何も考えてないよ。
ララシャ様に居城を献上した後に、城の端っこに野良犬共が居るくらい、別に害にもならないし良いんじゃない?程度にしか考えていない。
『ならばっ!その女を血祭りに上げたなら、貴様はどんな風に絶望するかな?!』
「あ"?」
は?
殺すと言ったか?
ララシャ様を?
「テメェが死ねよ!!!!!!!!」
武技発動……!
《明色一閃》
薄暗い地の底、ダンジョンの底に、太陽色の剣閃が轟く。
『ッ、ガァっ……?!!?!?!』
ムーザラン産の武具を盾にしてどうにか防いだか?
『な、舐めるなぁっ!!!我が切り札を見せてやる!勇者のみに許されていた空間操作の術だ!《ディメンション・スラッ』
「それがどうした?」
———《霞の踏み込み》
『早———っ?!』
武技発動。
《ザシオンの黄昏》
黄金騎士ザシオン、その最後の冒険譚。
ザシオンの終の剣、混沌の獣と刺し違えた、最後の秘技。
恒星。燃ゆる星の、光の斬撃波。
『おっ……、おお!《ディメンション・シールド》!ク、クーククク!ざ、残念だったな!ディメンション・シールドは敵との距離を空間操作で無限大にし』
並列起動。
ルーン術発動。歌唱術発動。
———理の力、凍ゆる冷気となりて現る。
———そは、心胆から生まれむ、血混じりの氷なり。
《湧き上がる氷刃》
「A———、RA———、MAMAーLIORー!GoinーGioーGum———!AsTooRiaA———!」
大いなる完全神リオルよ、畏み申す。
陽光瞬く光輝の鉄槌。
聖の雷火、清めの御手。
暗きを祓いて、拓き給え。
《リオルの聖雷降らし》
武技、ルーン術、歌唱術の三種並列攻撃だ!
『がっ……?!な、何だこの術は?!私の肉体の内側から氷が……?!そ、それに、神聖なる雷光まで?!な、何故だ?!何故シールドが……!!!』
一つ。
「無敵のシールドを張っても、座標指定タイプの攻撃を体内から発生させればダメージを与えられる」
二つ。
「条件必中タイプの術も同様に有効」
三つ。
「効かなくても、ララシャ様を侮辱した奴は必ず殺す。どんな手を使っても殺す」
以上の理由から……。
「死ね」
『グオオオオオッ!!!!』
『ク、ク、クーククク……。認め、よう。貴様は、強い。し、しかし……、さ、最後に勝つのは、わっ……、我々、だ!あらかじめ、貴様らから盗んで、おいた、強力な武具と、研究データを!全て魔王様に!お届ぴぎゃ』
踏み潰して、殺した。
「よくやった」
ララシャ様にお褒めの言葉を頂いた!
やったーーー!!!!
「ではララシャ様、帰りましょうか!」
「待て、その前に臣下達を診てやれ」
あ、はい。
あー、こいつらね。
戦いの最中に邪魔だったから踏んだり蹴ったりしてバラバラだわ。
ええと、肉片を集めて……。
どうするか……。
掃除用具なんてないしな。
……そうだ。
《鉄のタワーシールド》
《全面が鋼鉄で作られた大型の盾。
ナジャの塔の騎士達が愛用していた、軍隊用の大盾は、「腐れ混沌」に成り果てた騎士達の手の中に未だあった。
盾は絆。混沌に呑まれたとしても、それだけは失われない。
極めて重いが、防御力が高い。》
《大コテ》
《瑞穂の国の奇矯なる剣士、『変梃のカシン』の持つ大斧。
元々は、東の国の調理器具や工具の一種であるコテを、戦闘用に改修したもの。
その奇妙な装いは、敵の気を逸らすための策略であるとカシンは嘯く。》
盾を塵取りにして、大コテで肉片を掃いて……。
蘇生の歌唱術っと。
「う、ううん……」
泥まみれでぐちゃぐちゃの馬鹿共が起きる。
「は、はっ、はーっ!し、死んっ!死んで……っ、死んでた?!」
「二回目だろ」
「一度も死にたくないですが?!?!?!!」
いや、生き物は普通、一度は死ぬんじゃないか?
……まあ良いや。
とりあえず、全員を蘇生したところで……。
「呼び出しだ」
「ちょっ、ちょっと待ってください?!なんですか?!なんか薄くなって……!」
《女商人ヤコに召喚されます》
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