第75話 闇の化身
『クーククク……。ご苦労なことだ、勇者よ……』
ふむ?
なんかこう、闇のオーラ的なのを撒き散らしながら現れたのは、病的なまでに青白い肌の男だった。
ボロボロの黒衣を身に纏う、黒髪に痩せ細った肢体の青年。
……よく見ると、腕や腹などに肉がない、空洞の部分がある。片眼も……いや、顔の半分もない。
つまりはこいつも……。
「アンデッドか」
『いかにも。私は、魔王軍八魔将が一人、《魔》のリヒトライゲン!ノーライフキングのリヒトライゲンである!!!』
「「「「ノ、ノーライフキング?!!!」」」」
囮共が驚きの声を上げる。
ノーライフキング……、確か、伝説級の最強クラスのモンスターなのだとか?
不老不死になるまで魔法を極めた、魔導師の成れの果てだと本で読んだな。
『見ていたぞ、勇者よ。凄まじい武器で、ウォーバッハを一瞬で片付けたな。それがお前の《チート能力》なのか?』
は?
チート?
だから何度も言うけど、近年のVRゲームのサーバ側の演算力とファイアウォールに民間人のコンピュータが敵う訳ないんだよ。
VRゲームは特に、人の意識と直結する訳だから、意識ジャックなどが万が一にも起きないように極めて厳重な安全装置がある。
チートなんて不可能だ。
『だが、チート能力が《強い武器を異界から取り出す》というものなのは良くないな。……こうして、敵に利用されてしまう』
ん?
あれは……。
「あーっ!エド、見てください!あの武具は、貴方がヤコに渡したムーザランの武器ですよ!きっと、あいつが盗んだんです!」
ああ、そんな話もあったな。
忘れてたわ。
どうでも良くて。
『クーククク……、素晴らしい性能の武具だ、これは!しかも、これらの武具を解析することにより、異界からの強力なアンデッドを召喚する術を発明することもできた……!貴様には感謝しているぞ!』
なるほど、そんな訳でムーザランのアンデッドが湧いている訳なんだな。
確かあれなんかは……。
『さあ、勇者よ!貴様から奪ったこの《幻妖の杖》でお相手しよう!』
《幻妖の杖》
《「腐敗の森」の支配者、妖姫アストレスの持つ杖。
アストレスは、死した我が子の骨を削り、杖にしたという。
それは、狂いてなおそこにある、親としての愛の残骸だった。
召喚に関する術の消費精神力を大きく減少させ、また、強い暗黒属性を帯びている。》
幻妖の杖、か。これを持つボスは色々なエネミーを召喚してくるタイプのボスだった。
前の持ち主(ボスからかっ剥いだ戦利品なので)が使っていた術の残滓が残っているという可能性も高い。
そして、ある程度の術師ならば、術の残滓から使われた術を復元することも不可能ではないだろう。
杖系のアイテムは他にも三、四本程度提供したからな、手がかりはいくらでもあったはず。
で、解析した術がアンデッド召喚だったって言うのは、確かにあり得る話だ。
アンデッド召喚はありふれた術で、その辺の雑魚エネミーというかちょい強エネミーが常用してくる感じ。
ほら、中ボスにも満たないが雑魚よりはちょい強いエネミーが、取り巻き召喚のスキルを持っているのは、どんなゲームにも良くあるだろ?そういうことだよ。
まあもちろんムーザランなので、ワンチャン取り巻きにも囲んで棒で殴られて死ぬことは多々あるのだが。
それはいいとして……。
『喰らえっ!!!ダーク・キャノン!!!』
暗黒の球が、リヒトライゲンの持つ杖から連射される。
「くっ……!『ホーリー・ウォール』!」
クララがなんかピカピカ光る壁を出して防ぐが……。
「だ、駄目です!暗黒の力が強過ぎて……!きゃああっ!」
十秒くらいで壁は割れた。
「邪魔だ」
「痛いっ?!」
俺は這いつくばるクララの尻を蹴って後ろに退がらせて、いつものショートソード+30を構える。
はい、武技発動。
『術パリィ』
ショートソードにホーンの力を纏わせて、手首の返しで暗黒の球を弾き返す。
これは、通常の『パリィ』とは異なり精神力を消費するが、その代わりに術も跳ね返せるのだ。
もちろん、タイミングを合わせに成功すれば、の話だが。
しかし相手の攻撃は「緩急」というものがなく、一定の速度とタイミングで暗黒属性の球を飛ばしてくるのみ。
対処は容易い。
『ほう!多少はやるようだ!優れた武具頼みの無能ではないな?!』
お前に言われたくないよ。
今お前、人の武器持ってノリノリで襲いかかってきてるじゃねえか。
しかしダブスタはムーザランでは基礎中の基礎。己の投げたブーメランが返ってきて頭に刺さりながらも、そのまま殺し合うのは当然のことのため、訓練されたムーザラン民の俺はあえて突っ込まない。
『ならば、これはどうだ!!!』
お、新しい行動パターンか?
……いや、あれは。
『理よ、捻じ曲がり、漣となれ!波の刃、昏き闇纏いて、影を追え!』
ルーン術……、『追尾する暗黒波刃』か。
空間そのものが波打ち、波動の刃となって拡散しつつ直進する『波刃』系統の術に、追尾効果と暗黒属性の付与がされている。
「なっ、あ……?!」
あ、シーリスの胴体が真っ二つになった。
「シーリスさんっ?!」
クララが庇いに行くも……。
「ぐ、えっ」
背後から迫っていた波刃に当たって、袈裟懸けに胴体が斬られ、崩れ落ちる。
「そ、そんな……!二人とも!」
「馬鹿っ!当たったら死んじゃうにゃあ!避けることに集中しろにゃあっ!!!」
ショックのあまり膝をついて涙を溢すアニス。
その腰に蹴りを入れて、無理矢理に波刃を避けさせるランファ。
「う、おおおおおっ!!!」
背中に背負った大型の盾で波刃を受けたセンジュは……。
「そ、んな……!この、盾は、ガーランド、の……!」
防ぎ切れず、盾ごと裁断され、大量の血を吐きながら沈んだ。
「チィっ!!!喰らえええっ!!!」
雄叫びを上げながら、差し違える覚悟で弓矢を放つナンシェだが……。
『無駄だ』
とある「タリスマン」を掲げたリヒトライゲンに、矢を弾かれて、波刃に貫かれた。
「無、念……!」
あのタリスマンは、俺がヤコに渡した、神聖属性を軽減させるタイプのものだな。代わりに、暗黒属性への耐性が弱まるが、アンデッド故に暗黒属性は無効だから関係ありませーん!というアレだろう。ムーザランでも同じような光景を定期的に見てきたので俺には分かる。
さて、どうするか……。
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