第73話 王都ダンジョン深層へ

ララシャ様のお弁当の補充をヤコの館のコックに言いつけて、俺は冒険者ギルドに来ていた。


「はははっ!おい見ろ!ハーレムパーティだぜ?!」


「勇者気取りかぁ〜?」


「ガキから巨乳の神官まで幅広くってかぁ?」


いつものように、粗野な冒険者達に馬鹿にされるが、特に気にしない。


俺は侮辱された程度で一々怒るほど人間性が残っていないし、囮共に対する侮辱は基本的に事実だから問題はないのだ。


大体にして、この程度の侮辱でいきり立つような幼稚な精神性の持ち主の方が悪いだろう。それに、悪口を言われる側にも原因はあるってこともよくあるし、こう言うのは黙って通り過ぎるのが大人というもの。


無視して、俺は受付へ向かう。ギルドからの呼び出しがあったから、一応、ギルドの会員として出向くべきだと思ったからで……。


「しかもあの女を見ろよ?生っ白くて気味が悪ぃぜ!」


「ああ、人外フェチってやつか?人間に相手されないから、下等な亜人やらを連れ歩くって言う?」


「じゃあ、白肌の人形女を連れて歩いているおままごと野郎って訳だ!笑えるぜ!」




「殺す」




ふう……。


「な、なな、何を……!何をやっているんですかーーーっ?!!!」


キレるギルド員。


何を、って……。


「何って……、俺はただ、ララシャ様を侮辱した奴らを皆殺しにして、止めに入ってかかってきた他の冒険者十人程度を殺しただけだが……?」


後ついでにその余波でギルドと向かいの武器屋と隣の酒場を崩壊させただけだが……?


でもその辺はララシャ様を侮辱した奴らが悪いだろう、常識的に考えて……。


俺は真摯に、ララシャ様に対して敬意を持たないクズ共が100%悪いのであって、それによって死ぬのは当たり前の天罰だと説明した。


逮捕された。


なんでだろうな……?




十万ゴールド単位の賠償金請求はいつものことなので良いとして、殺人数が流石に多過ぎると逮捕。


しかし、その三日後、ダンジョンの奥から湧くムーザランのアンデッドに困り、スペシャルアドバイザー兼尖兵として仮釈放となり、俺は再びギルドに来ていた……。


「もう殺さないでくださいね????絶対ですよ????」


クララにガン詰めされながらも、俺は、半泣きで紅茶を淹れている女ギルド員の手から掻っ払ったそれを飲みつつ、言った。


「不当逮捕だったのでは?冒険者は完全に自己責任ならば、死ぬのは弱い冒険者が悪いだろう。そんな程度の実力の持ち主では、俺が殺さずとも、すぐに死んでいたと思うぞ」


「うわあ、1ミリも反省してない?!」


シーリスがたまげているが、いつものことなのでスルー。


「そもそも、法律書では、冒険者は自己責任で殺されても自業自得ということになっていたと思うんだが。法治国家ならば、明文法を守ってほしいものだ」


それなのに、冒険者の大量殺戮なんてあり得ない罪状での逮捕勾留とか違法だろう。おかしいなこれは。


「常識で考えてくださいよ?!殺人鬼は逮捕でしょう?!」


シーリスが何か言っているが……。


「だから、冒険者は非人だから殺しても問題ないはずだと言っている」


「あるんですよ!正直もう私相当後悔してますからね?!殺人鬼のパーティメンバーだから、離脱したら私これ闇討ちとかされますし!!!」


ああ、そう。


確かに、俺のことを散々異常者扱いしてくる囮共だが、もうやめるにやめられないのか。


……つまり、もう誰も俺を止めることはできない、ってことだな?


ララシャ様と一体になって良いってことか。


ファンタズマ(幻想的)だな。


「とにかく、聞いてください!……今、王都の大ダンジョンから、凄く強いアンデッドが大量発生しているんです!」


ふーん。


「そうですか」


「冒険者達や、兵隊さんも頑張っているんですけど……、上手くいってません……。このままじゃ、アンデッドの群れに、王都は飲み込まれちゃいます!だから、だからっ……!助けてくださいっ!!!」


「そうですか」


知らん……。


死者が多いとホーンもたくさん拾えるので、死んでくれると助かるのはあるが……。


ん?


ヤコが来たな。


「王都が滅びますと、ララシャ様のお弁当もご用意できませんよ」


なるほど。


「じゃあアンデッドとやらを殺してくるか……」


ララシャ様は最近、毎日のお食事を心待ちにしていらっしゃるからな。


ララシャ様のお食事を妨害するとか、マジで本当にあり得ないので……。


「流石、手慣れてますね……」


「旦那様を導くのは良妻の役目ですので〜?」


シーリスとヤコが何か話しているが、どうでもいいや。




で、ダンジョン。


この前とは打って変わって、人が少ない。


怪我をした兵士らしき者が、包帯を巻かれ、回復魔法を当てられている。


賑わいはなく、悲壮な雰囲気。


仲間を失った冒険者達の嘆きの声も聞こえる。


総じて、ムーザランの日常風景なので特に何も感じないな。


それどころか……。


「行きましょう、エド!この街の人を救うんです!」


「そうだよ!ここらで勇者らしいことしないと本当にヤバいし!」


「これは王命ですから、こなせば今までの罪も許されるはずです。頑張りましょうね」


なんか言ってる囮共に、新しく神聖属性がエンチャされた新武器を預けて、ダンジョンに突貫。


囮共も最大強化された神聖属性武器を振り回すだけならできるだろうし、それをやればムーザラン産とはいえ一周目レベルのアンデッドなら倒せるだろう。


「えいっ!」


クララが、神聖なメイスでアンデッドの頭を砕く。


「くらえっ!」


ナンシェが、神聖なロングボウでアンデッドを貫く。


そうやって雑魚を散らしながらどんどん進軍して……。


九十階層、暗黒の城の領域へ。


「はあ、はあ……!順調ですね、エド!この調子でどんどん行きましょう!」


「いや、ララシャ様のお弁当の補充が必要だ」


「アッハイ」


こうして、ララシャ様に美味しいものを召し上がっていただきつつ、俺はダンジョンの道を進んだ……。

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