第71話 王都ダンジョン入場

結局、ララシャ様のお弁当の用意に三時間がかかり、その間に囮共は寝て、軽く朝食を腹に入れ、それからの出発となった。


ララシャ様のお望みになったこと故に批判はしないが……。


「うわー!さっすが王都だね、エド!」


「アニス!見てくださいアレ!ダンジョンですよ!スワンケルドのダンジョンの三倍、いや五倍はあります!」


「人も多いな……。エルフの森の静謐さが恋しいくらいだ」


「にゃあ〜……!冒険者がいっぱいにゃ!僕も負けてられないにゃーっ!」


「皆さん、怪我をしないようにしてくださいね?」


「んー……、ダンジョンなんぞ久しぶりじゃのう。ま、怪我をしたらクララに治してもらえば良かろうて」


俺は、ダンジョンを指差す。


「見ろ、かなりの混雑だ。早起きをしないからこうなる」


そう、混雑……。


往年のテーマパークが如く、凄まじい人の海!


本当にここ中世ヨーロッパ風のファンタジー世界なのか?と疑ってしまうかのような(まあ毎回思っているが)混みっぷりだ。


「仕方ありませんよ。この王都の大ダンジョンでは、浅い層でモンスターの養殖や、冒険者や兵士のレベルアップ訓練などが行われていますから……」


クララが言った。


「レベルアップ、訓練?」


「はい。つまり、養殖したモンスターを安全に狩って、経験値を手に入れているのです」


あー……。


ムーザランでもあったな、そういうのは。


親切な他プレイヤーが、ボスを倒すのを手伝ってくれたりするやつだ……。


まあその半分は、途中でいきなり「騙して悪いが……」「あなた方にはここで果てて頂きます」「消えろ、イレギュラー!」などと裏切ってくるのでアテにならないのだが。


ただ、俺もしっかり裏切って、何度も他プレイヤーの背中を斬ったのでトントンみたいなところはある。


何にせよ、モンスターがいて、経験値を得られるような世界なら、当然「レベリング」は行われるってことだな。


ムーザランと同じだ。


「なるほど、やはりアレか?雑魚エネミー共をトレインしてドラゴン前まで連れて行って、ブレスを誘発させて皆殺しにしてもらうみたいな話だろ?俺も良くやったから分かるぞ」


「なん、え?何の話?ですか……?」


「レベリングの話だろ?」


「レベリングになんでドラゴンが……?」


「だから、雑魚エネミーを軽く殴って注意をひいてから、ドラゴンに突っ込むんだよ。すると、ドラゴンは薙ぎ払おうとしてブレスを吐くだろ?それを俺は避けて、雑魚共は当たって死ぬんだ」


「……やっぱりおかしいですよねこの人?」


「やばい……」「おかしい……」「こわい……」


囮共が集まって何故か俺の悪口を言い始める。なんで?




「まあなんでもいい、ダンジョンに入るぞ」


人が多いから少し減らすか。


俺は剣を抜い……。


「よいぞ」


先行ララシャ様。


抜かなかった。


仕方ない、面倒だが行列に並ぶか……。


「うわー、すっごい行列ですね!」


「二時間待ちだってさ」


「やっぱり王都は凄いにゃあ」


凄いのは同意だな。


ざっと見ただけで万単位の人間がここにいるんだから。


普通に、近代地球くらいの栄えっぷりだ。


どうやってこれだけの人口を維持しているんだ?農業畜産は?インフラは?全て謎である。


そうして、しばらく並んだ後に……。


やっと入場。


ダンジョンの中は……、なんと、草原。


春風が心地よく、小川のせせらぎが聞こえる、豊かな草原が広がっていた。


ダンジョン……?


ここは戦いの場ではなく、休憩所なのでは……?


……いや、いい。


この世界についてツッコミを入れるのはもう十分だろう。


とっとと進むぞ。


「浅い階層では、初心者の冒険者に獲物を譲ってあげてくださいね。それが、ダンジョンのマナーですよ」


と、クララが横から口を出してくる。


「はあ?マナー?戦場にそんなものがある訳ないだろ」


ムーザランでは積極的に汚い手を使えと教わるんだがな。


超えちゃいけないラインなんてスタートラインみたいなもんだ、と。


「ここではあるのです。若い冒険者を優先して育てるという暗黙の了解が……。その分、浅い階層ではモンスターと出会わないので、深い階層にすぐ行けますよ」


「まあ、その方が効率がいいならそうするが……」


「では、行きましょう」


どうやら、クララはここを利用したことがあるようだ。


そう言えば、王が認可を下した勇者パーティのメンバーだそうだから、ここでレベリングをした経験があってもおかしくはないか。


クララに案内されつつ、ダンジョンをどんどん潜っていく……。




クララの言う通り、浅い階層では緑色の小人さんや子犬などの、倒してもなんの意味もないレベルの雑魚しか湧かなかった。


なので今は、二十階層のショートカットである転移魔法陣に登録することを目指して一日中歩く……。


……そうそう、この世界のダンジョンには、そういうのがあるんだよ。


階層の最後、ボスを倒したその次の部屋に、転移魔法陣が設置された部屋があり……。


その魔法陣を使うと、ダンジョンの入り口にある魔法陣から、その階層と直通で行き来できるようになる、という親切設計がある。


ムーザランのダンジョンでも同じようなシステムがあったが、ムーザランは基本的に死んで覚えろという心折設計がデフォなので差は大きい。まあ同じようなものとカウントしておこう。


二十階層まで進むのに二日。


順調だな。


全部で百階層あるらしいが、これなら結構早く行けそうだ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る