第69話 王都での休暇

結局、一週間ほど休暇ということになった。


なんでも人間は、定期的な休養が必要なんだとか。


まあ、ルーカスターとスワンケルドで集めたホーンはかなり多く、ララシャ様もガワだけなら充分に復活なされている。


本来のララシャ様の力の総量からすると、数パーセントしか戻せてはいないが、それでも神性などを加味すると充分に自衛できる程度のお力はあるはず。


王都のオークションの開催もしばらく後だし、現在は暇ということになる。


いつものように、音溜まりの前で虚無になっているのも良いが……。


「我が剣よ。ここはこの国の王都なのだろう?では、どうせならば、人の営みや景色を見て周り、食事を楽しみ、穏やかに過ごすのはどうか?」


「ララシャ様の望みならば俺は何でも……!」


「私の望みというだけではない。お前と共に、逢引きを楽しみたいという話だ」


「ララシャ様ァッ!!!もちろんです!!!」


そんな訳で、ララシャ様と王都でデートだ!




「エド!見てくださいよ、魔導書です!王都の『魔法学園』の、最新の魔導書ですよっ!」


「おおっ、此方には南方のワインがあるぞ!どうじゃ、勇者殿?これで今夜は妾と酒盛りといかんかの?」


「あ、新しい解錠器具だ!北の国の最新モデルだって!ねえ、エド〜、買って〜!」


「ふにゃあ!王都の露店は美味しそーなのがいっぱいにゃ!」


は?


「……何の用だ?」


ララシャ様とのデートを邪魔する気か……?


「一緒に遊びましょうよ!」


シーリス、囮一号が言う。


「ララシャ様の……」


「よい。我が剣よ、臣下には心を砕くものだぞ?……少なくとも、私はそれができなかったから落魄れた」


俺が反論しようと口を開くと、ララシャ様がそう言って俺の頬を撫でてくださった。


ララシャ様……。


確かにララシャ様は、あの終わった世界のムーザランで、ただ一人だけ耳の痛い正論を周囲に叩きつけ、それを理解しない者達を蒙昧の輩と蔑んでいらした。


その態度が祟って、臣下に離反され、プレイヤー……俺達『聾の者』を臣下となさったのだ。


故に、思うところがあるのだろう。


ララシャ様は、そんな風に俺を嗜めてくださった。


確かにそうだ。


クソの役にも立たない囮五匹と塵だが、俺にはない知識と技能と、立場があることは事実。


ダンジョンのことを教えてくれたり、人数合わせなどで大活躍しているこいつらを、あまり邪険にするのも良くないな。


それにララシャ様も、伴侶である俺が、自身と同じ失敗をして臣下に見放されるところなんて見たくはないはずだ。


……よし。


「ララシャ様が良いと仰せだ。かかってこい、遊んでやろう」


俺は剣を抜いた。


「待って!待って!なんでそうなる?!なんでそうなるんですか??!?!?!!」


は?


遊ぶんだろ?


遊ぶと言ったらやはり、殺し合いでは?


ムーザランではそうだった。


オモシロ産廃装備でいちゃついたり、原作NPCのコスプレをしてやり合ったりするのが、ムーザランの基本的な遊びだ。


「頭おかしいんですか……?遊ぶんですよ?!遊びです!遊びの概念から分からないんですか?!」


「他に面白いこととかあるか?」


「あるでしょーーーっ?!!!もう良いです、私についてきてください!私が本当の遊びを教えてやりますよ!」


はあ……、そうですか……。




シーリスはノリノリで俺の腕を掴んで中心街に来た。


「さてっ!スゥ……、はぁ、さて!」


「どうした?」


「……あの、言って良いですか?」


「良いぞ」


「……こんなおっきな街に来たことないから、どうすれば良いか分かんないです……!」


雑魚過ぎるだろ……。


当てにならなさが異常だ。


非常に高いレベルのボンクラだな。終わっている。


「因みに何をするつもりだったんだ?」


「私の故郷では、田んぼの側溝でザリガニ釣ったり、近所の果樹から果物を盗み食いしたりとかしてました!」


カッペがよ……。


「あ!今『カッペがよ……』とか思いましたね?!そう言う目をしましたね?!!」


「カッペがよ……」


「終いには言った?!?!!」


俺はアニスの方を見た。


「お、鬼ごっことか?……かくれんぼとか?!」


ガキが……。


大体にしてそんなもの、ムーザランで死ぬほどやった。


鬼(みたいなの)に無限に追いかけられて頭から齧られたり、形容し難い何かから必死に隠れる(見つかったらほぼ即死)のも良くある話だったからな。


今更やって楽しいか?俺はやりたくない、過去を思い出してストレスが溜まるので。


「で、では、カフェでお茶でも飲みませんか?おすすめのお店があるんです」


クララがそう言う。


そういえばこいつは貴族の身分があるらしいからな。文化的な話も分かるということだろう。




因みに、その後に聞いた話だが。


「遊びですかにゃ?それならやっぱりトレーニングですにゃ!汗を流した後に水浴びするとさっぱり気持ちいいにゃ!」


「遊びか?それならばやはり森林浴だろうな。森との語らいは心が満たされる……」


「遊びかの?それならやはり酒じゃな!酒を飲んでやれば、何事も楽しいぞい!」


「はあ、遊びですか?それでしたら、我が商会の観光プランがありまして……!こちらは定価では何と金貨がかかる、非常にラグジュアリーなプランとなっておりますが、わたくしと共に行うのであれば経費として計上するので〜……!」


……他の奴らも、あまり役には立たなかった。


娯楽に乏しいな、この世界も。

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