第68話 王都到着
王都クラスバーグ。
10mはあるかという幅広い大街道が、東西南北に伸びている。その中心点にあるこの国の心臓部がここ。
旅人、巡礼者、行商人にそして冒険者。人間にビーストマンやエルフにドワーフ。多様多種な身分、人種が入り乱れる、大きな大きな街……。
待ちも広いがそれだけでなく、街に入る為の身分チェックの列も長い。平民ならば一時間待ちもあり得るほどの大行列で、その人の多さは日本にいた頃に住んでいた首都の駅前並み。
本来ならば、この列に並ばなくてはならないのだが……。
しかしそこは、Sランク商人であるヤコのライセンスで、俺達は全員、別レーンから待ち時間無しで街に入れた。
で、街の中だが……。
高い城壁、大きな門をくぐると、そこは石畳の床がずっと広がる都市だった。
辻売り、露天の類はどこにでもあり、人は多く、騒がしい。
だが警邏の衛兵の定期的な巡回により、治安は悪くはなく。
ゴミ箱の設置、公衆トイレ、上下水道により、街は中近世とは思えないくらいに美観が保たれている。
その他にも、石畳だけでなく、道中に植木や芝があるところが多いのが特徴か?旧世紀の日本のような雰囲気だ。
ううむ……、ララシャ様は静かなところがお好きだからな、半分くらい人を減らすべきか?
俺は剣を抜いた。
「よい」
俺は剣をしまった。
ララシャ様がよいと仰せだ。
「……え?!今何しようとしたんです?!」
シーリスが聞いてきたので……。
「ララシャ様は騒がしいところがお嫌いだからな。人の数を減らして静かにしようかと……」
「このひとあたまおかしい……?!!やめてくださいよ、本当に!!ダメですからね?!!」
「ララシャ様はよいと仰せになられたからな、やらないぞ」
「ほんっとにやめてくださいねマジで!!!」
「今のところはやらん」
「永遠にやらんでください!」
赤ん坊より目が離せませんよ!などと言いながら、俺の手を握るシーリス。
暴れないようにする為、らしい。
「ああ、そうだ。宿を決める必要が……」
そうしてしばらく歩き……、ふと、俺が口を開くと、ヤコが割り込んでくる。
「私の別荘に寝泊まりしていただいて結構ですよ。貴族街にある広い館なので、ララシャ様にご滞在いただくのに十分と言えないまでも、不足はしていないでしょう」
ほう、そうか。
相変わらず、気が利く女だな。
「世話になる」
「はいっ!……では、パーティメンバーの皆様も同じところに住んでもらう形でよろしいですか?」
「「「「はい!」」」」
良いらしい。
なので、女達は荷物をヤコの別荘に置いて、今日のところはとりあえず休むと。そういうことになった。
そう言えば、そろそろ昼だな。
「では、皆様、食堂へいらしてください。王都風の料理を用意しておりますわ」
するとまたもや、ヤコが気を利かせてくる。
流石は商人だ、卒なく接待してきやがる。
ムーザランで接待といえば、部屋に入った瞬間に外部から鍵をかけられて、部屋の中にいる謎のクソ強騎士を殺さないと出れない!とか、歓迎しよう、盛大にな!と言われつつ盛大に爆殺されるとかだったので、純粋に酒と食事が出てくるのは初めての経験だ。
ララシャ様も、ムーザランが滅ぶ前にあった神族同士の会食は、なんか凄いギスってるから辛かった、みたいな話を昔されていたのを耳にしているんで、こうやってまともに接待されるのは嬉しいらしい。
あとやはり、何度も言うが、食事が美味い。
マジで美味いのだ。
「王都の特産品である高級チーズと、大川海老から作ったグラタンですわ。他にも、サーモンのローストや、商会ブランドのワインもありますの」
ムーザランが地獄滅びかけ世界で碌な食い物がなかったと言うのもあるが、それを差し引いてもこの世界の食事は美味い。
調べたところ、建国王ヨシュアを始め、勇者達は食事にうるさかった為、様々な飲食物のレシピや衛生管理法が勇者から伝えられて広まったそうだ……。
ムーザランの食品と違って、食べてもバフ効果などはほぼないが、気力はグングン回復するなこれ。
ララシャ様も、とても喜んでいらっしゃる。
いやー、助かるな。
おっと、それは置いておいて。
食事をしながら、俺はヤコに訊ねた。
「オークションはいつだ?」
「来月の第二水曜日ですわ」
あっ、曜日とかあるんだ。
曜日を定めたのは?……はいはい、建国王ヨシュアね。分かってるよもう。
「それまで、旦那様はいかがなさいますか?」
「さあ……?ララシャ様がしたいことを俺はするだけだ」
「では、ララシャ様は何と?」
ヤコが訊ねるが、ララシャ様は……。
「我が剣がしたいようにせよ」
これの一点張りだ。
うーん……。
俺はもう、何もやりたくないし、ララシャ様に従うだけなんだが……。
ララシャ様は最近、こうやって俺を真人間に戻そうと尽力なさってくださるからな。
俺にはもう、人間性なんて残っちゃいないのに。
であれば……。
「ララシャ様に貢ぐホーンを稼ぐ為、モンスターを殺したい」
それくらいかね。やりたいことも、できることも……。
「王都の大ダンジョンですか?」
ああ、そうそう。
王都にも、かなり大型のダンジョンがあるらしい。
ここは、その建国王ヨシュアが攻略したダンジョンで、世界で一番大きなダンジョンと言われているのだとか……。
様々な資源が得られて、王都の主要な産業の一つにもなっていると言う。
さて、食後。
俺はララシャ様といちゃつくという崇高な使命を果たしていた。
「ララシャ様……」
「ふふふ、我が剣よ。お前の膝の上に収まるのは、このような気持ちなのか……。愛しいお前に包まれて、至福である」
「ララシャ様……!俺も幸せです!貴女様の熱を感じられるだけで、最高の幸福なのです!」
「愛い奴め……♡」
と、そこに、囮共が話しかけてくる。
「あ、あのー、二人の世界に入っているところ申し訳ないんですけどー……。ダンジョン攻略のスケジュールってどうします?」
何だ?
俺とララシャ様の時間を邪魔する気か?
俺は剣を抜いた。
「よい」
俺は剣を納めた。
「スケジュール?そんなもの、適当で良いだろう」
「いや今私を殺そうとしませんでした?!!?!?!」
「確かに、ヤコは王都ダンジョンはスワンケルドの比ではない大型のダンジョンと言っていたが、一日十階層進めば問題ないだろう。階層一つはかなり短いらしいからな」
「殺そうとしたでしょ?!ねえ?!!」
「ララシャ様のお力を全て取り戻すには、長い時間がかかるだろうが、現段階でも最低限の力は戻して差し上げることができている。ホーンを捧げるのはライフワークであって、今は急いでいない」
「ねえ!……ねえ?!嘘でしょ?!スルーする感じなんですかこれ?!!」
「まあ、今日のところはもう休むということで良いだろう。明日からダンジョンに行くぞ、用意をしておけ」
「待って?!話聞いて?!」
さて、ララシャ様といちゃつくか……。
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