第65話 ドワーフのスキル
ここから先はハーメルンで未掲載です。
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顔面がゲシュタルト崩壊しているドワーフ達を一瞥し、俺はとりあえず、ララシャ様の隣に座った。
一々、驚いた反応を見るのに飽きてきたからだ。
他人がぎゃあぎゃあ騒ぐ様の何が面白いんだ?俺には理解できん。
土と石に溢れたこの都市に似つかわしくない、汚れひとつない不自然なほどに真っ白いドレス。
その、美麗ながらもシンプルな作りのドレスに包まれた、正に珠玉、月輪の如き神秘、冷たい熱を秘めた玉体……。
ああ……、ララシャ様……。
お美しい……。
「———故に!この『神の鉄』はドワーフにとって……って!聞いておるのか?!」
「どうでもいい」
全く話は聞いていなかった。
ララシャ様の隣でララシャ様を感じているだけで、月日は一瞬で過ぎてしまうな!
「頼むから聞いてくれ?!この『神の鉄』はじゃな、ドワーフ族の悲願なのじゃ!妾達が信仰する『鋼鉄神』の魂!『まことの鉄』なのじゃぞ?!」
「知らん」
おい、ムーザランでもないのに専門用語をずらずら並べて殴ってくるのは反則だろ。
NPCの話を聞くのは苦手なんだよ、勘弁してくれ。
ムーザランのクソNPC共と一緒じゃないか。
最新技術AIを使った、人と同じ受け答えを〜みたいなことを売りにされていたが、よく分からん難しい専門用語をずらずら並べながら、したり顔でなんか良い感じの台詞を吐くだけのポンコツだったぞ、あいつらは。
難しい話をするなよ。高学歴の俺はまだしも、最近の読解力がないガキ共は何言ってるか分かんねーよと言っていたぞ。
ネットでそんなレスを見た気がする。
その辺のことは、日々書いている日記帳の膨大なバックヤードのどこかにあるんじゃないかな。
「良いか?もう一度言うぞ?!妾達ドワーフは、生まれた時から鋼鉄神様の神託を授かっているのじゃ!それは、『神の鉄』を探せと言うもので……」
「知らん」
「つ、つまり、『神の鉄』とは、『人生最高の作品を神に奉納しろ』と言う言葉の暗喩なのじゃ……。じゃが、実際に神が欲しているのは、妾達が打った鉄に含まれる『まことの鉄』で……、『まことの鉄』は、情念と魂が籠った金属からしか得られぬ特殊な〜……」
「興味がない」
「た、頼むから聞いてくれ!」
……要するに、こいつらが信仰する神は、こいつらが打った武器を奉納されて、その代わりに加護を与える存在なのだとか。
しかし必要なのは武器の機能ではなく、武器に含まれる『まことの鉄』という成分なんだそうだ。
その、『まことの鉄』は、トップクラスのドワーフが、己の寿命をすり減らすかのような本当の意味で「心血」を注いだ作品にのみ、ほんの少量含まれているもので……。
……それを、ドワーフの信奉する神は主食とするのだとか。
そしてこの『星片の結晶』は、その『まことの鉄』をぎっしり凝縮させた塊だったらしい。
「……で?つまり、どういうことだ?」
「良ければ、この『神の鉄』を、妾に使わせてもらえないじゃろうか?!そうすれば妾は、鋼鉄神様から最高の加護を得て、お主に相応しい鍛治師になれると思うのじゃ!」
へえ、そうなんですか。
まあ別に、『星片の結晶』なんて、手持ちに256個のスタックが数千万個ぐらいあるから構わんけどな。
「まあ、好きにすれば良いんじゃないか」
「良いのか?!では……、『鋼鉄神よ!我がまことの鉄を喰らうが良い!』」
すると、『星片の結晶』が金色の輝きを放って浮いて、光の粒子になって消えた。
そして、この女の身体がパッと光り、ファンファーレのようなよく分からない音が鳴る。何それ……?怖……。
「や、やったぞ!『かじ:かみのぶき』のスキルを得た!」
ああ、そう。
試しに、ショートソードを一本与えて、磨がせた。
……ふむ、及第点か。
消費型の武器整備アイテム、『修復の塵』の代替品にはなる、という程度だな。
無いよりはマシくらいだ。
「ど、どうじゃ?!」
「まあ……、無いよりはマシ程度だな」
「うぅ……」
「居てもいなくても変わらないから、着いてきたいなら勝手にすれば良いんじゃないか?」
「う、うむ!これからも精進する故、よろしくお願いするのじゃ!」
そんな訳で、生きた修復の塵……、略して塵が仲間になった。
鉱山の街ウェルハースでのバカンスは終わった。
なので次は、王都へ向かう。
オークションに武具を出す為だ。
「王都『クラスバーグ』……。この国の中心部ですわ」
ヤコが、歩きながらそう言う。
「クラスバーグには、我が赤狐商会の本部がありまして、その他にも大抵の『大店』と言える店は、最低限は支店を置いていますの」
「商業的に発展した都市なのか?」
「発展の理由は商業と言うより、流通ですわ。建国王ヨシュアによる『大街道』の中心点が王都なのです」
ほう?
「王都はただでさえ、肥沃な土地と川がある大都市なのですけれど、そこに四本の大街道が通っていまして。馬車六台がすれ違えるほどの大街道が、この国の四方の端まで真っ直ぐに、東西南北に伸びているのです」
「なるほどな。流通が滑らかになった故に、その中心である王都には、地方の生産物が一度集積され、そこから他の地方へ運ばれる、と……」
「ええ、そうですわ。それ故に、王都は最もヒトとモノに溢れた都市で……」
「すなわち、国の中心、と」
「そういうことですわ」
なるほど……。
であれば、ララシャ様にお貢ぎするのに相応しい富も、そこにあるのかもしれないな。
ララシャ様は最近は、食事にご関心がお有りになられるご様子だからな。
王都であれば、高級な美食なども望めるはず。
ララシャ様に、美味しいものをたくさん召し上がっていただこうではないか。
そうして、王都への道を進むと……。
「「「「居たーーーッ!!!」」」」
おっと、こいつらは……?
ああ、そうだそうだ。
「囮1号から5号じゃないか」
「シーリスです!」「アニスだよ!」「クララです」「ランファにゃん!」「ナンシェだ」
いやNPCの名前なんてどうでもいいよ。
で、えーと……?
「何の用だ?」
「「「「パーティメンバーを置いていかないで!!!」」」」
パーティ……メンバー……?
ああ!そう言えばそんなのもあったな。
ダンジョンに入るのに人数が必要だったんだもんな、思い出した思い出した。
「何やってるんだお前ら?ちゃんと着いてこいよ。今日日、子供でも迷子になんてならんぞ。アホか?」
「はあ?!そっちなんて、今まで私達を忘れてたじゃないですか?!」
「それが?」
「うううーーーっ!酷い!酷いです!謝罪と賠償を求めます!」
そうですか。
「気に食わないんなら着いてこなくても良いぞ」
「……はあ。分かりましたよ、分かってました。お願いですから、次は移動する前に教えてくださいね?」
「善処する」
さて、そうして、囮五体とヤコと共に、王都へ向かう……。
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