第64話 神の鉄

「それはっ……、ぐぐ、む、う……。うわああああん!!!!」


うわあ、いきなり泣き出したぞこの女。


頭おかしいな。


ドワーフって言うのは話が通じない気狂いしかいないのか?


他人の話はちゃんと聞けよ。喋れるタイプのコミュ障は一番タチが悪いぞ。もっと常識とかそう言うのを大切にしてほしい。


人の話をよく聞かないとか、育ちが悪いんだろうな。親の顔を見てみたいというやつだ。


「妾は!妾はっ!勇者様の武具を鍛え、傍に立ちたいと願い、鍛錬を積んできた!それなのに……、それなのにっ!」


ばっ、と。


俺が持ってきた武具を掲げる。


「こんな、こんな完成された神器を数多く持つのでは!妾は何にもできんのじゃーーーっ!!!!」


「知らん」


知らんが。


そんなことは知らん。


だがまあ……。


「囮の追加なら随時募集している」


囮はいくらあっても困らないからな。


ムーザランでも、最新型VR機器の演算力をフルに活かした、数百万の軍勢がぶつかり合う(のにゼロコンマ1ミリ秒もラグのない)物凄い大戦争をやる場面もあった。


その際は、流石に、プレイヤー一人では百万の敵軍を倒せないものだった。いや俺は一週間かけて倒したが。


普通のプレイヤーは、大量の囮……つまり呼び出した他のプレイヤー、雇ったNPC、召喚した幽体や使役魔をフル活用して戦うものなのだ。


だから、俺としては、囮はいくらいてもいい。


「妾は嗜みとして剣を振るが、戦うことは得意ではない!」


「じゃあ要らん」


「うわああああん!!!!」


とにかく、使えない奴について来られても困るからな。


お断りで。


「せめて、数打ちのショートソードくらいは打てなくては、鍛治師としてはお断りだな」


「このー!嫌味かーっ!」


「嫌味?嫌味に感じるほど腕があるのか?」


「そ、そりゃあ、妾達も、神代の鍛治師らと比べれば格は低いが……!」


ほう?


俺が持つ武器が、神造兵器とそれに類するレベルのものであると、それは理解できるか。


「じゃがな、それでも!」


「いや……、逆に聞きたいんだが、ここに『完成された武具』があるのに、お前は必要なのか?勝負するまでもない話だろう?」


「はえ?まあ、妾の存在理由は世界が決めること故知らんが……、完成された神造兵器があっても、妾が勝負をしない理由にはならないのじゃが?」


ふむ?


「勝てないから勝負をしない!など、そんな奴がおるのか?」


確かにそうだ。


勝てる勝てないは、勝負をするしないの判断要素にならない。当然だな。


ララシャ様が悲しむとなると、(本当に)死んでも勝たなくてはならない。勝てる勝てないじゃなく、勝つ義務がある。


そんなことは、言われるまでもない。


昨今……いや、時間感覚がぶっ壊れているから具体的にいつだったとかは分からないんだが、とにかく昨今のレジェンズアニマは、前作などのシリーズ恒例の薄汚い初心者狩り野郎でいっぱいだった。


装備を揃えてからレベルを儀式で下げて、低レベルの初心者とマッチングし、それを虐め抜く……。


まあそう言うゲームなので……と言われればぐうの音も出ないのだが、それはそれとして薄汚いのも確か。


勝てるやつにだけ強気で、相手が強いと見るや否や通信切断……。こんなことは許されない。


なので俺は、初心者もベテランも皆須く皆殺しにした。


それがムーザランのマナーなのである。


……ふむ。


それを考えると、どうやら、心構えはあるようだ。


武器を預けるに足る腕はないようだが、精神面は合格点をくれてやっても良い。


俺はそう伝えた。


「ぐぬぬー!上から目線じゃが、実際に途轍もなく上の存在故に何も言い返せんのじゃ〜!!!」


と、センジュなる女ドワーフは膝から崩れ落ちた……。




「それはどうでも良いが、俺は金が欲しい。武具を売るから金をくれ」


俺は、ドワーフ達にそう交渉した。


「いやいや……、軽く見ただけでも分かるが、これらの武具はあまりにも貴重過ぎて、金には代えられんわ」


と、ええと……そう、ガーランドが言った。


「貴重過ぎる、とは?」


「こりゃあ、どれもこれも神器レベル……、国宝級のマジックアイテムじゃ。例えこの国の金庫という金庫をひっくり返したとしても、代金を用意できるものではない」


……なるほど?


金本位制らしいから、市場に流通している貨幣の数が足りないってことだろう。


あの、建国王ヨシュアとか言うアホは、悪用しやすい変な法案を通す前にまず管理通貨制に移行させておくべきだったんじゃないのか?


……まあ、世界各国どこでも同じ貨幣が使われている辺り、努力の形跡は見られるか。


じゃあ、それは良いとして……。


「なら、何なら買ってくれる?未強化の数打ちか?」


と、俺は懐から未強化のショートソードを取り出す。


「……これでも、国庫が傾くくらいの名刀なんじゃが」


「生憎、これ以下の武器は……。ああ、そうだ。ならこれはどうだ?」


今度は、他のアイテムを出してやった。


《星片の結晶》

《星、つまりは生命、霊魂の根源。

母なる大地の結晶の、そのほんの小さな欠片。

武具を鍛錬する際に、繋ぎとして使用する。

この欠片は武器を+5まで強化できる。》


レジェンズアニマは、旧作から存在した武器強化システムを、「VRゲーム化による容量増加」と、「VRアクションゲームである」という事実を利用して、より味わい深いクソ難解システムに進化させたのだ。


例え、おにぎりのポリゴン数をリヴァイアサンと同じくらいにしたところで、ゲームの容量の0.000000001%も消費できんクソデカデータ量と、それをヌルヌル動かすクソアホ演算力がある革新的スーパーマシンであるVRゲーム機は、クリエイターが「思いついたけど出来なかったこと」を悉く実現した……。


その結果が、この「武具強化システム」だ。


まあ内容はそのまま。


1.特定の強化アイテムを消費して、武具を強化できる

2.また、強化時に、強化アイテムの他に特定の別アイテム(鉱石等)を追加使用することで、属性などをエンチャントできる

3.その際に、武具の大きさ、長さ、重心、重さなどを、性能の変化と共に弄れる


以上の三つを組み合わせることにより、貴方だけのオリジナル武具が作れちゃう!(なお、環境最強武器はテンプレ化して大体固定)という、このゲームの制作会社が大好きなアレ。


その「特定の強化アイテム」……、ランクアップの際に常に必要な強化アイテムのうち一つが、この『星片の結晶』な訳だ。


鍛治師であれば、これの重要さが分かるはずだな。


そんな訳で、このアイテムを懐から取り出して、放り投げた……。


「はわわ……!『神の鉄』……?!!!」


うむ。


また訳の分からない単語を出してきたぞ……?






————————————————


ハーメルンに投稿していた部分はここで終わり。

しかし、PV数や評価コメントを下さった皆様のために、続きを用意してあります。

少なくとも、この章が終わるところまでは書けているので安心して読んでください。

それ以降は……、全然分からん!(ジャガー)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る